2014年

3月

04日

ワシントンDC 2014年3月4日号

 ◇債務上限引き上げ法案可決 共和党は無条件容認へ変身

 

今村卓

(丸紅米国会社ワシントン事務所長)

 

 市場が再び米国債のデフォルト(債務不履行)に震えることはなかった。連邦政府の債務上限を2015年3月15日まで引き上げる法案が、2月11日に下院で、翌日には上院で可決したからだ。これで来春まで財政に起因する異常事態は回避されることが確定した。

 債務上限引き上げは、ぎりぎりまで交渉が難航し市場は緊張を強いられると見られていた。無条件での引き上げを求めるオバマ大統領・民主党と、引き上げには応じるが交換条件を求める共和党の距離は狭まる気配がなかった。ところが2月11日午前、共和党のベイナー下院議長が突然方針を転換。無条件で応じる意向を示し、一気に事態は動いた。

 共和党が下院多数派になった11年以降、債務上限引き上げ交渉は共和党指導部にとって、政権と民主党の譲歩を引き出す貴重で強力な武器となった。11年夏と13年秋には米国債のデフォルトを人質に取る瀬戸際戦術まで仕掛けた。それだけにベイナー議長の無条件での引き上げ容認は一見意外だった。党内でも保守派は民主党に無条件降伏したと強く批判している。

 しかし、共和党指導部は、昨秋の財政交渉で、強硬姿勢で突き進んだ末に政府機関の一時閉鎖やデフォルト危機を引き起こし、深い傷を負ってしまった現実を自覚していた。

 

 ◇ベイナー下院議長の配慮

 

 共和党に対する有権者の評価を示す議会支持率は、10%台前半と歴史的な低水準だ。ただ、医療保険改革(オバマケア)の導入のつまずきから民主党の支持率が落ち、今秋の中間選挙は必ずしも共和党に不利ではない。だが、ここで再び危機となれば情勢が一変しかねない。

 16年の大統領選で目指す政権奪還も困難になる。しかも、穏健派で大統領選有力候補と目されたニュージャージー州のクリスティー知事に、側近が政治的報復として故意に交通渋滞を引き起こした疑惑が浮上。同知事が醜聞でつまずいた今、民主党の最有力候補とされるヒラリー前国務長官と互角の人物はいない。

 ベイナー議長の決断には、中間選挙予備選を控える上下両院の共和党議員を守るという配慮も込められていた。再選を目指す同党議員は、債務上限引き上げが必要だと考えていても、本会議で法案に賛成したという「証拠」を残したくなかった。春からの予備選で党内保守派から強い非難を浴びる恐れがあるからだ。

 そこで下院で賛成に回るのは、同党指導部と強力な支持基盤を持つ議員にとどめ、上院については民主党が多数なので全ての共和党議員が反対に回った。上院では、保守強硬派のクルーズ議員が議事妨害を試みた。この騒動は同党指導部や穏健派の有力議員が封じたが、デフォルト回避の代案なしに動いた同議員の無責任な姿勢は批判を浴び、党内対立を深めることにはならなかった。

 財政合意に続く無条件の債務上限引き上げの実現は、共和党指導部が、穏健派に軸を置き現実主義の政策指向に転換したことを明らかにした。来春まで財政を巡る与野党の対立が米国経済を混乱に巻き込む恐れを遮断したことで、無党派層の好感をもたらす可能性も高めた。

 しかし、党内や支持層で保守派の比率と影響力が増している現実に何ら変化はない。苛(いら)立ちを強めている保守派が中間選挙予備選で、どのような動きに出るかは不透明である。党指導部は予備選でも保守強硬派の候補者選出回避に向かうのか。あるいは保守派の巻き返しを招き、深刻な党内対立に向かうのか。皮肉にも、無条件の債務上限引き上げが実現したことで、どちらの展開もあり得る情勢になったと言える。