2014年

3月

11日

ワシントンDC 2014年3月11日号

 ◇スノーデン事件が変えた「世界の脅威」と情報収集

 

須内康史

(国際協力銀行ワシントン首席駐在員)

 

「世界の脅威に関する評価報告書」の最新版をクラッパー国家情報長官が1月末、米議会に提出し、上院・下院それぞれで公聴会が開かれた。米国の情報機関が世界の脅威を網羅的に分析したもので、国家情報長官が毎年議会に提出している。

 昨年に続き、今年もサイバー攻撃の脅威が冒頭で取り上げられた。韓国は昨年3月、サイバー攻撃を受けた。複数の銀行の勘定系システムがダウンし、ATMなどが利用不可となり、テレビ局では社内の情報システムが停止した。この事例や米国金融機関が標的となった例を挙げ、脅威の高まりを指摘した。

 テロリズムについても引き続き主要な脅威として位置づけており、テロリストグループの多様化・分散化が進んでいるとの見方を示した。その要因としては、中東や北アフリカ諸国の政情悪化を挙げている。とりわけ、内戦状態が続くシリアが過激派の集結・訓練の拠点になっていると指摘。クラッパー長官は、「シリアは過激派を引き付ける巨大な磁石となっている」と懸念を表明した。

 報告書提出にあたり、例年と大きく異なるのが米国の情報機関を取り巻く環境の変化だ。昨年6月、米中央情報局(CIA)元職員であるスノーデン容疑者が米国家安全保障局(NSA)による広範な情報収集活動の実態を暴露したことで、米国の情報機関は国内外の批判にさらされた。

 

 ◇個人情報保護との板挟み

 

 クラッパー長官は、公聴会の冒頭証言で、「スノーデンは米国の安全に深刻な損害をもたらした」と強い口調で発言。米国の安全をさらに損なうことを防ぐため、まだ公表していない残りの盗んだ文書を返還するよう要求した。こうしたクラッパー長官の証言の模様を『ワシントン・ポスト』紙は「スノーデンに対する苛烈な言葉」との見出しで報じている。

 スノーデン容疑者の暴露は、内外両面で打撃を与えた。対外的には、「テロリストや米国の敵対者が米国の情報源を研究し、米国情報機関の活動が一層困難になる」(クラッパー長官)ことだ。報告書でも、米国に対するカウンターインテリジェンス(防諜(ちょう)活動)が2番目の脅威として挙げられている。

 一方で、国内的には、NSAによる国内の個人情報収集活動に対するプライバシー侵害の批判により、情報機関の情報収集体制見直しが迫られている。公聴会でも、民主党のワイデン上院議員が、米国の情報機関に対する米国民の信頼は著しく損なわれたと、厳しい論調で批判。2月12日には、共和党のポール上院議員が保守系政治団体と共に、NSAによる米国民の通話履歴収集を違憲として、オバマ大統領やクラッパー長官などを相手取り、NSAの収集活動停止を求める訴訟をワシントン連邦地裁に起こしている。

 米国の情報収集活動の見直しについては、昨年12月に提出されたホワイトハウスの諮問委員会勧告書を受け、今年1月にオバマ大統領が改革案を発表した。その中で大統領は、NSAによる通話記録の収集自体は継続する方針を示す一方で、今後、政府がデータを保管しないという新たな方策を検討すると表明。3月28日までに司法長官と情報機関で具体案をまとめるよう指示している。

 詳細の検討はホルダー司法長官とクラッパー国家情報長官が行うが、オバマ大統領は安全保障上の要請とプライバシー保護のバランスの間で難しい選択を求められている。大統領の改革案に対するマスコミ、世論の受け止め方も賛否が分かれる中、どのように具体策をまとめていくのか、その行方はいまだ不透明だ。