2014年

4月

01日

ワシントンDC 2014年4月1日号

 ◇ウクライナ問題で問われる「超大国」としての役割

堂ノ脇伸
(米国住友商事会社ワシントン事務所長)

 ウクライナのクリミア半島におけるロシアの軍事介入を巡って、国際情勢はにわかに冷戦時代に逆行したかのような様相を呈している。プーチン露大統領による矢継ぎ早の介入策に対し、米オバマ政権の対応は後手に回っている感が否めない。

 ロシアにとっては「自国黒海艦隊の基地」という絶対に譲ることのできない、中国風に言えば「核心的利益」がそこに存在することが軍事介入に至る最大の理由であろう。
 それにせよ、国際社会からの批難を覚悟の上で6000人とも言われる軍隊を派遣した背景には、「西側諸国の雄たる米国が強硬な軍事的対抗手段を取ることはあり得ない」という冷静な分析が働いていたことは間違いない。ワシントンでオバマ政権に批判的な一部の識者は、シリアの化学兵器使用を巡る問題や、中国による東シナ海での防空識別圏設定に際しての政権の一連の消極的な対応が、そのような分析を招いたと指摘する。
 ワシントンでは、3月4日に保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」が急遽フォーラムを開催し、ブッシュ前政権時代に国務次官補を務めたキム・ホルムズ氏が、「今こそ米国によるグローバル・リーダーシップを再定義し、再び米国自身が武力均衡の認識について強いメッセージを発する必要がある」と述べた。米国の消極姿勢は中国やイランといった国々をますます増長させ、同盟国を危機に晒(さら)すことになる、というのがその理由だ。

 ◇軍事力維持に腐心

 一方、米国防総省は同日、「4年ごとの国防戦略の見直し」を発表した。この報告書は中期的な国防方針を示すもので、国際情勢の変化に応じて4年ごとに安全保障上の大枠の目標を再設定し、潜在的な軍事的脅威について分析を行う。オバマ政権下では今回が2回目となる。
 報告書では、アジア太平洋に戦略の重心を移す「リバランシング」の継続が改めて表明されている。中国を名指ししてはいないものの、「高度な接近阻止・領域拒否能力を持つ国家」による海洋進出をにらみ、2020年までに太平洋に配備する米海軍艦船の割合を現在の50%から60%に引き上げる方針が示された。
 日本、韓国、オーストラリア、フィリピン、タイとの同盟関係強化の必要性や、在日米海軍強化の重要性も指摘されている。地域の緊張が高まりアジア政策の不在が懸念されていたなか、日本にとってもおおむね歓迎できる内容となっているようだが、他方で厳しい財政状況を背景とする国防予算削減圧力の影響も随所に見受けられる。
 報告書の発表に先駆け、2月24日に行われた国防予算案の概要説明では、空海軍の戦力を維持しつつも、陸軍の兵力を現行の52万人から44万~45万人規模へ削減すると述べた。これは、第二次大戦後で最小となる規模だ。また、二つの大規模な地上戦を同時に完遂する「二正面作戦」は「想定しない」と、前回の報告書に引き続いて明言されている。
 唯一の超大国である米国が軍事力の維持に腐心しながらも内向きになっていく半面、イランの核問題や中東・北アフリカ情勢、東アジアに加えて今回のウクライナ問題など、世界では米国のプレゼンス(存在感)が求められる場面が皮肉にも増えているようである。
 一部には現状の事態は、オバマ大統領自身の消極的な外交姿勢が招いた結果だとの指摘もある。その是非はともかく、軍事力のみに頼らずとも、超大国のリーダーとしてふさわしい対応を求める声が各所から上がっているのは事実だ。