2014年

4月

01日

経営者:編集長インタビュー 小路明善 アサヒビール社長 2014年4月1日号

 ◇ビールメーカーから「進化する総合酒類企業」へ

 アサヒビールは、アサヒグループホールディングスの酒類事業を手がける中核会社。主力の「スーパードライ」中心に、国内大手5社(キリンビール、サントリー、サッポロビール、オリオン)のビール全体でシェアは50%。2月にはより深いコクとキレが特長の「ドライプレミアム」を発売した。

── 2013年のビール類(ビール、発泡酒、第3のビール)出荷量は、業界全体では9年連続の前年割れになるなか、アサヒは販売数量で12年ぶりに微増しました。

小路 私は経営のポイントは、市場拡大、市場創出、当社のファン化、の3点だと思っています。
 ビール類市場は年平均1%ずつ減っていますが、拡大も可能です。12年に「ドライブラック」を出し、同年は黒ビールの国内市場は100万ケース(1ケースは大瓶20本換算)から6倍に拡大。昨年、16年ぶりに大手4社のビールギフトがプラスになったのも、当社が昨年末にドライプレミアムをギフト限定で発売した効果が大きかったと思います。
 2点目の市場創出とは新価値商品を出すこと。業界初のノンアルコールカクテル「ゼロカク」に続き、昨年、カゴメと共同開発したビアカクテル「レッドアイ」というオンリーワン商品を出し、女性に好評です。
 そうはいっても、酒類業界はどこかの売り上げが上がれば、どこかが落ちるゼロサム市場。他社ビールのファンをアサヒビールのファンにする努力も必要です。

 ◇「ドライプレミアム」人気

── シェア競争も激しいです。

小路 シェア競争は(卸価格などの)条件競争になり、会社が疲弊する。大事なのは、価値の提供競争つまり、付加価値の高い商品を出し、得意先に価値ある提案をすることです。
 ローリスク・ハイリターン経営のコツは、強いブランドの派生商品を出すこと。発売当初はうまくいくので、後はリピーター増加に力を入れればいいだけです。ドライブラックやドライプレミアムのほか、第3のビールでも、2月に「クリアアサヒ プライムリッチ」を出しました。

── ドライプレミアムの状況は。

小路 非常に好調で、2月18日の発売から10日間で出荷量が98万ケースと、計画の2倍を達成しました。真冬の新商品では異例です。
 発売当初から6缶パックが売れましたし、自社ブランド間の食い合いも販売当初で3~4%だけ。ブランドの信頼感から、他社ブランドを飲んでいる人や普段ビールを飲まない人にも買ってもらっています。

── プレミアムビールには各社とも力を入れています。

小路 ドライプレミアムの販売目標は年間360万ケース。プレミアム全体の販売量は約2900万で、今年は10%程度伸びるとみています。伸びた分のうち、新たにプレミアムビールを飲み始める消費者の3分の2を獲得し、100万は他社ブランドのお客さんを獲得する。3月18日に出す業務用は40万を見込んでおり、それらを勘案して立てた計画です。

── 普通のビールより価格が高いですが、売れますか。

小路 アベノミクス効果で、購買行動が変わってきたと思います。従来はビール本数を減らし、安い第3のビールを買うという「やりくり消費」が典型でしたが、「メリハリ消費」に変わってきました。つまり、生活の価値に合うものや好きなものは、ある程度高くても買うんです。消費増税で可処分所得が減少しても、メリハリ消費の中ではプレミアムは伸びると考え、発売を決めました。

 アサヒグループはニッカウヰスキーを抱え、「余市」「竹鶴」などの国産ウイスキーを販売している。またアメリカンウイスキー「ジャック ダニエル」など、輸入ウイスキーの国内販売も手がける。

── サントリーが米ビーム社を買収するなど、酒類で国際競争が激化しています。

小路 国内市場が縮小するなか、海外展開は必須。海外企業を買収するか、提携して海外の商品を国内で売ったり、国内の商品を提携先に売ってもらう方法も考えます。
 ニッカのウイスキーは、国際品評会で何度も入賞し、フランスを中心に欧州でも評価が高い。12年に米国、13年に豪州でも発売しました。スピリッツ(ウイスキーなど)は世界的に伸びており、今後も積極的に海外販売していきます。
 ビールも昨年、「エクストラコールド」という氷点下2度のスーパードライを韓国ソウルで販売し、好評でした。スーパードライは海外70カ国で販売していて、世界ブランドになる可能性が高い。まして氷点下ビールは他に例がなく、差別化商品として東南アジアやオセアニアでも売れる余地があると思っています。

── 今年、事業方針に「進化する総合酒類企業」を掲げた理由は。

小路 当社はビールメーカーという印象が強いのですが、商品はビールだけではない。また、メーカーという言葉を使うと、自社が作っている商品にだけ目がいきがちなので、意識改革をしないといけません。
 お客さんが望む商品を世界中から集め、販売する必要があります。常に進化し、環境に最適化する企業になることを目指します。(Interviewer=横田恵美・本誌編集長、構成=秋本裕子・編集部)

 ◇横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 38歳まで10年間、労働組合の専従でした。「夕日ビール」と揶揄(やゆ)され、希望退職を募ったどん底の時期。1987年にスーパードライを発売しV字回復しましたが、会社を去った人から言われた「目立たない人の声を聞け」という言葉を今も心がけています。
Q 最近買ったもの
A 『人を動かす』、『BCG流最強の思考プロセス』など経営に役立ちそうな本です。
Q 休日の過ごし方
A 2時間ほど歩き、古くて評判の良い飲食店を回ります。長く魅力を保つ秘訣を探るためです。
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 ■人物略歴
 ◇こうじ・あきよし
 長野県生まれ。1975年青山学院大学法学部卒業後、アサヒビール入社。人事戦略部長、執行役員経営戦略・人事戦略・事業計画推進担当、常務取締役などを経て、2011年7月から現職。62歳。