2014年

4月

08日

ワシントンDC 2014年4月8日特大号

 ◇共和党議員が銀行課税提案 反応した金融界の深謀遠慮

今村卓
(丸紅米国会社ワシントン事務所長)

 2月下旬になるが、下院歳入委員会のキャンプ委員長が包括的な税制改革案を公表した。注目すべきは、その中に銀行資産に対する課税が含まれていたことだ。

 キャンプ案は、所得税の税率区分を簡素化し、法人税の最高税率を引き下げる一方、それで減る税収を各種税控除の大幅な廃止や削減、プライベートエクイティなどの運用マネジャーの成功報酬に対する課税強化、さらには大手金融機関への資産課税などで補うという歳入中立的なプランである。「大きすぎて潰せない」大手金融機関の保護は、納税者負担による補助とみなせるというのが、銀行資産課税の根拠だ。
 キャンプ案は、多くの経済学者や政治評論家から、しかもリベラルから保守までイデオロギーを超えて評価する声が多く上がった。簡素化と納税者への分かりやすさを何よりも優先し、そのために政治的に不人気な交換条件を盛り込むという挑戦が評価されたようだ。
 しかし、同案に対する下院共和党内の反応は非常に冷淡である。今秋の中間選挙で再選を目指す多くの同党下院議員は、せっかく民主党不利が伝えられているのに、わざわざ税控除の廃止や課税強化を通じて同党支持者から既得権益を奪い、金融界という大スポンサーに銀行税をわざわざ課すというリスクを冒す必要などないと考えているのである。

 ◇議会対立収束を先読みか

 一方、金融界は2011年から2年間で政治献金の約7割を共和党に割り当て、キャンプ委員長個人に対しても44万ドル近くを献金したのに、まさか増税を突き付けられるとは予想もしなかっただろう。
 驚いた金融界は、多くの共和党下院議員へ明確に反対の声を上げるように求めた。54人もの議員が銀行に対する増税反対を記したレターをキャンプ委員長に送り付けたという。
 しかし、一見解せないのはキャンプ案成立の可能性は低いのに、金融界が執拗(しつよう)に潰そうとしていることである。しかもキャンプ案での課税対象は資産5000億ドル以上の大手金融機関に限られるのに、中小規模の金融機関までが課税反対の働きかけに参加している。その一丸となった動きは、10年に金融規制改革法が成立する際の抵抗でもみられなかったと指摘されるほどだ。
 金融界の過剰にもみえる警戒心は、税制の簡素化を目指すという改革の実現へ向けて共和党と民主党の距離が縮まり始め、共和党でも増税が選択肢になりつつあることと、その増税の有力手段が銀行への資産課税であるという考えが共和党内にあると分かったからではないか。
 共和党が政策課題の提案能力を、広く有権者に示そうとすれば、包括的な税制改革は最優先で取り上げられるテーマである。現に、来年の下院歳入委員長就任が有力視されているライアン議員(現在、下院予算委員長)は改革に積極的な意向を示す。同議員は銀行の資産課税に積極的なわけではない。それでも、税制の簡素化による成長促進という共和党の従来からの主張に沿って、銀行課税が浮上する可能性は十分にある。だからこそ、金融界は今のうちに徹底して潰そうとし、ライアン議員への働きかけも強めている。
 逆にいえば、金融界の必死な動きは、激しい党派対立に明け暮れた米議会の機能不全の終わりが近づいている表れかもしれない。共和党内の保守強硬派が、再び党内での存在感を高める可能性はある。だが、このままでは16年の大統領選での政権奪還が難しい以上、共和党は生き残りをかけて変わる可能性もまた高い。金融界もそう読んでいるからこそ、慌てているのではないか。