2014年

4月

08日

特集:鉄道の未来 PART1 鉄道ビジネスの現場 2014年4月8日特大号

 ◇渋谷駅・新宿駅大改造 改良工事で導線の整備が進む首都圏の2大ターミナル駅

花谷美枝
(編集部)

 鉄道に関する話題は日々事欠かない。JR九州の「ななつ星in九州」は大人気。北陸新幹線は来年春の金沢までの開通を目指し、工事が進んでいる。東京では渋谷駅、新宿駅が大改造中だ。鉄道の最新事情をリポートする。

 毎日300万人以上が利用する東京の渋谷駅と新宿駅。首都圏の交通の要衝である巨大ターミナルが生まれ変わろうとしている。渋谷駅の再開発の一部を除いて、2020年ごろまでに二つの駅が新たな姿になる。「鉄道ビジネス」の玄関となる駅の変貌を探ってみよう。

 新宿駅の1日平均乗降客数は約345万人(10年度、エンビズ総研調べ)で日本一、渋谷駅は約301万人(同)で2番目の規模。新宿、渋谷駅とも複数の路線が乗り入れるがゆえに、駅構内の構造は複雑だ。移動や乗り換えが難しく、「巨大な迷路」と称されることもある。
 改良工事により、駅構内の導線が整理され、利用者の利便性が向上すると期待される。同時に、周辺交通網の整備も計画されており、交通の要衝としての機能も強化される。
 東京の「顔」でもある二つの駅は、改良工事によってどのように変貌を遂げるのか。

 ◇渋谷駅 銀座線、埼京線を移設 3階コンコースで導線つなぐ

 若者の街・渋谷で再開発が進んでいる。現在、明治通りに面した東口側のJR駅構内は工事中の囲いが張り巡らされ、東急百貨店東横店東館跡地でも工事が進む。
 渋谷駅は1934年開業の東急百貨店と一体化した複雑な構造の駅だ。老朽化が進み、駅前広場の混雑も問題になっていたが、複数の路線が乗り入れていることもあってこれまで大規模な改装工事が行われることはなかった。だが、05年に政府が渋谷駅周辺地域を都市再生緊急整備地域に指定、その後は行政と鉄道会社、地元企業が一体となって再開発の協議を進めてきた。
 東京都が13年6月に認めた再開発計画では、東急電鉄、JR東日本、東京地下鉄(東京メトロ)の3社が事業主体となり、20年には地上46階、地下7階のビルが、27年には地上10階、地下2階と地上13階、地下5階のビルが誕生し、周辺の通路も整備される。再開発後は渋谷の景色が一変する。
 駅施設の改良工事では、13年3月に東急東横線が地下化して東京メトロ副都心線との相互乗り入れを始めたのを皮切りに、JR埼京線・湘南新宿ライン、東京メトロ銀座線の移設が行われるほか、改札口や通路が刷新される。「対象となる路線数、事業会社数では今まで例のない大掛かりな改良工事」だと鉄道ジャーナリストの梅原淳氏は話す。
 改良工事により、路線間の乗り換えの中心地点は現在よりもやや東側に移る。複合商業施設「渋谷ヒカリエ」の地下に移った東横線に続き、21年度には東京メトロ銀座線が移設される。東急百貨店の3階にある銀座線のホームを、現在よりも東に約130メートル、渋谷ヒカリエとJR渋谷駅の中間あたりに移設する。
 移設に伴い、ホームの形式が線路を二つのホームで挟む現在の「相対式」から、線路がホームを挟む「島式」になる。現在の乗車用と降車用の改札が別々の構造は、ホームが島式になることで解消される見通しだ。
 銀座線の車両は駅で乗客を降ろした後、複合商業施設「渋谷マークシティ」3階の車両基地へと向かう。ホーム移設後もこの構造は変わらない。ただ、改良後は、一つの路線はホームから直接折り返し、もう一方は車両基地へと向かう体制になる。輸送力が向上するかについては今のところ未定で、「ダイヤ改正などは今後検討する」(東京メトロ広報部の三宅亮平主任)という。
 ホーム移設後は、改札を渋谷ヒカリエ側の地上1階と、西側の地上3階に設ける予定だ。駅東口とハチ公前広場の間あたりの3階にコンコースが作られる計画があり、同じ3階に設置予定のJRの改札口にバリアフリーで乗り換えできるようになる。

 ◇谷地形が生んだ迷路

「ここに63年間、東横線渋谷駅の改札口がありました」──。駅3階のフロアには現在、旧東横線の駅の位置を示す看板が掲示されている。昨年3月、東横線が地下化する以前は、3階フロアにJR、東横線、銀座線の改札が集まり、頻繁に利用する人にとっては乗り換えが便利だった。だが、東横線が地下5階に移ったことで、乗り換えはかえって不便になったといわれている。
 東横線の地下化後、銀座線の乗降客数は1割減少した。東横線の利用者が、乗り換えに時間のかかる銀座線を避け、副都心線の明治神宮前駅で千代田線に乗り換えたり、地下3階の半蔵門線を利用したりして都心に出ている可能性がある。
 銀座線から東横線への乗り換え経路を歩いてみた。3階の改札口から旧東横線の駅前を通って、明治通りをまたぐ跨(こ)道橋をわたり、渋谷ヒカリエの2階へ。エレベーターで地下3階の東横線改札階まで降りる。平日昼間、人通りの比較的少ない時間帯で約4分。ホームはさらに下の階だ。地下3階から、9番出口を通じてJRの東口側の1階改札に出るルートも試してみた。3分弱で着いたが、通路幅が狭いため、混雑した時間帯は倍の時間がかかりそうだ。
 利用者泣かせの東横線への乗り換え問題は、早ければ20年ごろまでに解消される見通しだ。東急、JR東日本、東京メトロの3社が事業主となる地上46階建て、地下7階建てのビル(東棟)の地下に、1階のJR線改札口からエスカレーターを使って東横線・副都心線のヒカリエ前改札口に出る通路の計画がある。これにより、移動時間が短縮されるといわれている。
 また改良工事では、乗り換えの不便さが指摘されているJR埼京線・湘南新宿ラインの移設も計画されている。渋谷区が中心となってまとめた「渋谷駅中心地区基盤整備方針」(12年6月)によると、東急東横線のホーム跡地に埼京線のホームが移り、ホームが島式化される。現在は約350メートル離れている山手線と埼京線のホームが並ぶことで、乗り換え時間が大幅に短縮されると予想される。鉄道ジャーナリストの渡部史絵氏は、「山手線と並走する埼京線を利用する人が増えれば、混雑解消にも寄与する」と期待する。
 渋谷駅での乗り換えは上下階の移動が多い。新宿、東京駅など他のターミナルよりも立体的であることがより一層わかりにくさを増している。なぜこのような構造になったのか。
 渋谷駅の構造に詳しい昭和女子大学環境デザイン学科の田村圭介准教授は、「谷地形であることが原因ではないか」と指摘する。渋谷駅は地形的に、谷底に位置し、駅周辺の平地はわずかだ。渋谷駅は1885(明治18)年に日本鉄道(国鉄の前身)の駅として開業。その後に乗り入れた複数の私鉄は空中と地下を使って立体的に交差させざるを得なかったという。
 一連の再開発では、谷地形によって複雑化した駅周辺の人や車の導線も整備される。歩行者用通路では、上下の移動をエレベーターやエスカレーターなどで集約する「アーバン・コア」の設置、駅と周辺施設をつなぐデッキなどが設けられる。
 東横線の線路跡地がある駅南側も生まれ変わる。17年度に地上33階、地下5階の複合商業施設が開業する予定だ。駅から国道246号を横断する歩行者デッキをつくる計画もあり、東横線のシンボルとして愛されたかまぼこ屋根をデザインに取り入れる予定だという。

 ◇新宿駅 駅の地下通路を整備 東西の通行がスムーズに

 世界最大の乗降客数を誇る新宿駅の大改良工事が進んでいる。JR新南口にできる「新宿交通結節点」と、東西に移動しやすくする「新宿駅東西自由通路」の設置だ。交通結節点は16年春、東西自由通路は20年ごろの使用開始が予定されている。
 JR南口改札の正面、甲州街道の向こう側に見える建設中の建物が新宿交通結節点だ。1925(大正14)年に架けられ老朽化していた甲州街道の跨線橋耐の耐震補強と、高速バスやタクシーの乗り場を整備する目的で、国土交通省東京国道事務所が「新宿駅南口地区基盤整備事業」として進めている。隣接する駅舎跡地にはJR東日本が地上33階、地下2階建ての複合施設を建設中だ。
 交通結節点は、JRの路線をまたぐ形で1・5ヘクタールの人工地盤を設置、歩行者、自動車向けの交通を整備する。2階は現在、新南口改札とサザンテラス口がある場所で、改札のある歩行者広場になる。JRが建設中の新しい駅ビル側にも改札を設ける計画もある。3階が30台程度のタクシープールと一般車を合わせた10台程度の乗降スペース、4階が1日約1000便の高速バスが発着予定のバス関連施設となる。総事業費は1580億円。
 東西自由通路も12年9月に着工し、現在工事が進められている。新宿駅構内に、115億円を投じて新たな通路をつくる。地下を通じて複数の路線や周辺駅とつながる新宿駅は、道に迷う人も多い。駅構内をダンジョン(迷宮)に見立てたゲーム「新宿ダンジョン」(スマホ向けアプリ)ができるほどだ。なかでも移動がしづらい原因となっているのが、改札の外の東西通路がわかりにくいことだ。
 東口と西口を改札の外でつなぐ通路は、南口の甲州街道、東京メトロ丸ノ内線の改札がある地下道「メトロプロムナード」、西新宿の繁華街「思い出横丁」の脇にある「角筈(つのはず)ガード」(通称「小ガード」)、そして靖国通りの「大ガード」しかない。「東西に横断できる通路を」という利用者の要望がやっと実現することになる。
 東西自由通路はJR駅構内の北通路と隣接した場所に、幅25メートル、長さ約100メートルの通路を設置する。現在北通路の西口と東口側にある改札は、東西自由通路に面した位置に移設される予定だ。
 改札内の通路が狭くなるため、山手線外回りのホームから中央線快速(東京方面)までのホーム下を掘ってスペースを確保する。一部報道では、ホーム下の空間にエキナカを開業するプランもあると伝えられている。
 ホーム下を掘る工事は複雑だ。一般に、線路は「バラスト」と呼ばれる砂利などで電車の加重を分散しながら変形を防いでいるが、下を掘ると不安定になる恐れがある。そこでまず堅い構造物で支えを入れて線路を補強する。現在はこの作業と地下の採掘を並行して行っている。
 工事は電車が運行していない時間帯に行わなければならない。新宿駅の終電は遅い路線で1時すぎ、始発は早い路線で4時30分ごろ。3時間程度の間に準備から工事の片づけまでをすます。交通結節点の基礎工事でも、一部線路を移設して柱を建てるなどの施工をしており、新宿駅は長期間にわたってホームの工事をしてきた。工事終了後には、新たな新宿駅がお目見えする予定だ。