2014年

4月

15日

ワシントンDC 2014年4月15日特大号

 ◇ウクライナ問題で浮上した天然ガス輸出の戦略的価値

須内康史
(国際協力銀行ワシントン首席駐在員)

 ウクライナ危機を巡りロシアとの対立が深まる中、ワシントンでにわかに米国の天然ガス輸出の地政学的側面がクローズアップされている。ロシアに対抗する外交的手段として、米国による欧州向けの液化天然ガス(LNG)輸出を促進すべきというものだ。

 3月3日、米議会下院のエネルギー・商業委員会のアプトン委員長(共和党)が「米国のLNG輸出拡大はロシアの影響力に対抗する良い機会になる。今こそ同盟国に対して米国の天然ガスが利用可能であるとのシグナルを送るべき」と表明。翌4日には、ベイナー下院議長(同)も「米国には豊富な天然ガス資源があり、同盟国向けの輸出承認を促進することはロシアに立ち向かう明確なワンステップだ」との声明を出し、オバマ政権にLNG輸出承認プロセスの迅速化を求めた。
 下院共和党の複数の議員からは、米国と自由貿易協定(FTA)を締結していない非FTA国に対するLNG輸出承認の迅速化を求める法案が提出され、民主党からも、ガス産出州であるコロラド州選出のウダル上院議員とアラスカ州選出のベイゲッチ上院議員が共同で同様の法案を提出している。
 米国では、天然ガス法により、非FTA国向けのLNG輸出については、エネルギー省が「米国の公共の利益に反しない」ことを審査して承認するよう求められている。このため現状では、非FTA国向け輸出承認申請を、エネルギー省が1件ずつ時間をかけて審査しているのが実情だ。同省はこれまでに7件の承認を出しているが、一方で承認申請済みで審査待ちの案件が24件ある。

 ◇速効性ないが議論の中心に

 アプトン委員長ほかの主張は、エネルギー省による承認審査を迅速化するよう求めるものだが、実態としては、LNGのプラント建設に時間を要するため、現下の情勢に対応して、今すぐに欧州向け輸出を開始できるわけではない。
 オバマ政権側もこうした事実を踏まえている。3月13日に行われた下院外交委員会の公聴会においても、ロイス同委員会委員長(共和党)による「LNG輸出の促進が、ロシアに対して強力なシグナルを送ることになるのではないか」との問いかけに対し、ケリー国務長官が、長期的に見た効果には賛同しつつも、最初のLNGプロジェクトの輸出開始は2015年以降だと答えている。
 ロシアへの対抗措置として急浮上したLNG輸出促進の議論は、現実的には速効性はなく、当面の輸出承認審査もこれまで同様、エネルギー省が1件ずつ行っていくものと見込まれる。今回の法案提出の動きも、もともと輸出推進派であった議員がこの機に迅速化を求めたと見る向きもあり、天然ガス輸出反対派議員の中には、エネルギー省の承認審査の項目を増やして、より慎重な審査を課す法案を提出する動きもある。
 ただ、今回、天然ガス輸出を巡り地政学的要素がクローズアップされたことは注目に値するだろう。従来の議論は米国経済にプラスか否かという論点が中心で、地政学的視点は輸出賛成論の中には見られたものの副次的であった。米主要マスコミの報道の中にも「天然ガスを外交の武器に」との論調が出てきている。
 エネルギー省のモニツ長官は、3月上旬に行った講演で、ウクライナの情勢を踏まえ、輸出承認審査のプロセスについて議会との協議に応じる意向を示している。議会との間では、地政学的要素が議論の中心になると見込まれる。今後の審査においても、輸出先国の地政学的要素のウエートが増す可能性はありそうだ。