2014年

4月

22日

ワシントンDC 2014年4月22日号

 ◇イエレンFRB議長が指摘 失業率とは違う「雇用の質」

 

篠崎真睦

(三井物産ワシントン事務所長)

 

 米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長の発言から、「雇用の質」が改めて注目されている。3月31日にシカゴで講演を行った際、職探しに苦戦する3人の労働者を具体例として挙げながら、金融緩和策の継続について語った。

 イエレン議長は著名な経済学者でもある。エール大学で博士号を取得、カリフォルニア大学バークレー校やハーバード大学などで教鞭を執った。失業のメカニズムの解明など雇用問題に研究の多くを費やしてきた。

 講演で例に出した労働者とは次のような人たちだ。事務職員としての経験を15年以上持ちながら2年の失業期間があだとなって職を得ることができない失業者、景気後退によって賃金の下落に苦しむ配管工見習い、フルタイム労働者として勤務してきた印刷工場がつぶれて現在は雑貨店でパートタイマーに甘んじる女性──。そして、3人が直面している現実は、失業率だけが重要ではないと教えてくれると述べた。

 4月4日発表の雇用統計では、3月の非農業部門雇用者数は19万2000人増となり、寒波の影響からの回復が好感された。失業率は前月と同じ6・7%。ただ、米国の人口は、2007年12月の景気後退期入り前から年間200万人以上増加し続けている。その中には年齢的に働き盛りの移民も多く含まれていると想定され、雇用もその分増加するのが自然である。

 

 ◇「本当の失業率」は12・7%

 

 イエレン議長が、シカゴの講演で失業率以外に注目している指標として言及したのは、パートタイマーの数、中でも特に「非自発的な理由」によりフルタイムで働くことができていない人々だった。過去にも議長は、職探しを諦めた人や非自発的パートタイマーを含んだ失業率こそ「本当の失業率」だと発言している。

 非自発的パートタイマーは3月時点で741・1万人と、景気後退前の450万人程度から増加した。「本当の失業率」は12・7%になる。これは景気後退期に企業がフルタイム労働者をパートタイマーに切り替えたのが大きい。未熟練労働者の多い非製造業が、雇用者の産業別シェアで占める割合が高くなっていることも増加要因である。

 さらに、10年3月に成立したオバマケア(医療保険改革)も、非自発的なパートタイマーを作る要因となっている。オバマケアでは、雇用主はフルタイムの労働者に対し保険提供の義務がある。これがフルタイム労働者の採用に二の足を踏ませている。またパートタイマーであっても、労働時間が週29時間を超えると、フルタイムとみなされて保険提供義務が発生する。そのため、雇用主にはパートタイマーの労働時間を抑えようという動機も働いてしまう。

 オバマ政権は、批判の多いオバマケアについてさまざまな修正を図っている。同制度では従業員数50人以上の企業を対象に、医療保険を提供しなかった雇用主に罰金を科すとしているが、15年までは対象企業の大半に猶予措置を与えた。また、11月の中間選挙を見据え、最低賃金の引き上げ(現行7・25ドルから10・10ドルへ)も狙っている。政府には雇用の質を改善したいとの思いもあるが、与野党の協議は行き詰まり、成立の兆しは今のところ見えない。

 一般的な米国民の間で雇用情勢への関心は強い。ギャラップ社が3月6~9日に行った世論調査によれば、米国の最も大きな問題は何かという質問に対し、「経済一般」「ヘルスケア」などを抑えて「失業・職」という答えが2カ月連続の1位となった。FRBだけでなく政治もこの国民の声に応えるべき責務がある。