2014年

4月

29日

ワシントンDC 2014年4月29日号

 ◇プラハ演説から5年 遠い「核兵器なき世界」

及川正也
(毎日新聞北米総局長)

 オバマ米政権が発足して2カ月余の2009年4月5日。チェコ・プラハの広場を埋め尽くした約2万人の聴衆を前にオバマ大統領は「核兵器のない平和で安全な世界」を追い求めると宣言した。世界に衝撃を与えたこの演説から5年。世界は大統領が描く「理想」に近づいているのだろうか。
「核テロリズムを防ぐことで世界を安全にすることは、オバマ大統領の目標であり、大きな進展を遂げた」。今年の3月25日、核安全保障サミットが開かれたハーグで記者会見した主催国オランダのルッテ首相は隣のオバマ大統領にこう語りかけた。核サミットは5年前の演説の柱の一つ。「核なき世界」の成果を誇るかのようだった。

 プラハ演説の骨子は、①米国は核兵器の役割を縮小、②米露間で新たな戦略兵器削減条約(新START)交渉を開始、③核実験全面禁止条約(CTBT)批准を積極的に要請──など。「核兵器を使用した唯一の核保有国として行動する道義的な責任が米国にある」との発言は、広島・長崎と原爆を経験した日本で特に注目された。
 しかし、5年後の成果は、辛口にならざるを得ない。米国内では翌10年に公表した「核態勢見直し」で「核兵器の役割縮小」をうたったものの、肝心のCTBT批准は議会への審議要請がいまだに実現していない。批准には上院の3分の2の賛成が必要だが、支持は広がらず、今年11月の中間選挙では民主党苦戦が伝えられ、見通しはつかない。
 米露間では配備中の戦略核弾頭を各1550発、大陸間弾道ミサイル(ICBM)・潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)・戦略爆撃機の運搬手段を各700基機に制限する新STARTが11年に発効したが、13年にオバマ大統領が提案した弾頭数1000発への追加削減にロシア側は応じていない。

 ◇クリミア問題で不満再燃も

 核兵器を抑え込もうとした米大統領は、オバマ氏が初めてではない。
 核戦争に最も近づいたとされるキューバ危機後の1963年に、ケネディ大統領は核備蓄を「無意味」とし「世界平和」を追求する姿勢を表明。ニクソン政権の72年にはそれを具体化した米ソ戦略兵器制限条約(SALT)を締結。レーガン大統領は83年に「核兵器撤廃」への意欲を表明、核削減に乗り出し91年の米ソ戦略兵器削減条約(START)に結実した。
 オバマ大統領は大統領選民主党指名争い中の07年、対テロ戦争に関し「いかなる状況であれ、核兵器を使用することは深刻な誤りだ」と発言して物議を醸した。「核兵器なき世界」を表明したのもこのころだ。「核兵器不使用」と「核兵器なき世界」が連結していた点で従来の大統領よりも踏み込んでいたとはいえる。
「核兵器なき世界」の構想は、中国やインド、パキスタンなども巻き込んで、世界全体の核軍縮を実現する手順を想定している。米国務省によると、現在の弾頭数は米国1585発、ロシア1512発。だが、ロシアは11年の条約発効の時点で1537発と、制限数を下回って達成していた。そのため「米国だけが低減させられる条約」との批判があったが、ロシアのクリミア半島編入を契機に不満が再燃しかねない状況だ。
 オバマ政権は、ウクライナ危機の渦中でも、新STARTで定められた米露で各年18回行う査察を相互に実施。国防総省は運搬手段の削減数の内訳目標を発表し「進展」をアピールするなど、「核兵器なき世界」の命脈をつなごうと躍起だ。だが、専門家からは「実現は困難」と悲観論が漂う。