2014年

4月

29日

特集:中国危機の正体を見た! 2014年4月29日号

 ◇影の銀行より恐ろしい中国危機の“核心”

金山隆一/谷口健
(編集部)

「外国人でも5万元(約80万円)あれば買えますよ。保本保息(元利保証)なら年利で4・85%、保証なしは6%です」
 中国の春の連休、清明節の最終日。上海中心部にある浦東発展銀行の行員は、こう言って私に理財商品を薦めてきた。これがいま世界を揺るがしているシャドーバンキング商品の販売現場だ。渡された1枚のコピー用紙には、35日、3カ月、6カ月といった償還期間と利息、保証のあるなしが書かれているだけ。これがいまも飛ぶように売れている。

「なぜ定期預金より金利が高いのか、保証のあるなしで運用先は違うのか」と聞くと、「国債や債券で運用しているから。元利保証は国債、保証なしは基金や債券で運用している」と説明してくれた。
 運用方針が書かれた目論見書もあるが、これを読んで買う人は少ない。ただし、買う際に「商品のリスクを認識した上で購入しました」という署名が必要だ。買う人の6割は3カ月未満の短期償還型を選ぶ。
 理財商品の人気が高いのは、銀行預金が1年定期で3%なのに対し、実質的な中国のインフレ率は3・5%を超えるからだ。買っているのは富裕層というより、都市部の中流層。「30~40代の中年が多いですね」と行員。06年末で4600億元だった理財商品の残高は現在約10兆元に達し、銀行の全預金105兆元の約1割、中国のGDP(56・9兆元)の2割弱にまで膨張した。買っているのは個人だけではない。銀行自身も自ら理財で運用している。総資産の2割近くを理財で運用している銀行もある。

 ◇危機の本丸は信託

 シャドーバンキングはこの理財だけではない。同じく残高が11兆元近くに膨れあがっているのが信託商品。こちらは1口300万元(約5000万円)からしか購入できない富裕層、特権階級向け商品だ。理財が期間1年未満なのに対し、信託は2~3年の長期で、利率も10%前後と高い。最大の違いはその運用先だ。
 理財の多くは国債や高格付けの社債、インターバンク市場(銀行間市場)などで運用されているのに対し、信託は、地方政府の融資平台(投資子会社)が開発するインフラ、不動産、鉄鋼などの過剰業種、中小企業などに投じられている。リスクが高いから高利回りなのだ。
 多くは中国の2ケタ成長を前提にお金を集めた。今年1月に利払い不能に陥ったのも山西省の石炭開発会社に投資していた信託商品だった。最終的に元本は救済されたが、3年目の利払いは行われなかった。事実上のデフォルト(債務不履行)だ。

 ◇地方政府の暴走

 こうしたシャドーバンキングが生まれる背景には、国有銀行の怠慢がある。規制金利に守られ、リスクを取らずとも、国有企業に融資していれば巨額の利益を得られるからだ。上場銀行16行の純利益合計は1・4兆元(約22兆円)にも達する。成長に必要なリスクマネーを国有銀行は供給しないのだ。
 中国政府の規制が生んだ鬼っ子の側面もある。地方政府には厳格な起債制限があり、融資平台への銀行融資にも規制がある。一方で慢性的な財源不足に悩む地方政府には成長率達成の厳しいノルマがある。税収の多くは中央政府に召し上げられる。中央からの補助金は省政府に支給され、市、郷、鎮と下に行くほど小さくなる。
 そうなると地方政府ができるのは、農民から土地を収用し、これを転売すること。高く転売するためにも、インフラを整備し、企業や工業団地の誘致が必要だ。企業誘致に成功すれば税収と雇用も望め、役人として出世もできる。そもそもインフラも不動産開発も土地が必要だ。開発が進めば地代は上がり、地方政府の土地転売益も膨らむ。この無限の成長サイクルを夢見て、10年、20年先の成長を先食いして地方は開発を加速させた。
 この乱開発を暴走させたのがリーマン・ショック後に政府が打ち出した4兆元の財政出動だった。ただし、地方への真水は1兆2500億元。実際に認められた起債はもっと少なく、4000億元に過ぎなかった。このわずかな財政が中国全土の開発熱に火を付けた。「投資重視」という中央のお墨付きが得られたからだ。地方は堰(せき)を切ったように、地下鉄や道路などのインフラや不動産、工業団地開発に殺到した。
 地方政府の債務残高は10年末の10・8兆元から17・9兆元に膨張。2年半で年平均20%以上も借金を増やした。名目成長率を2倍以上も上回るスピードだ。この資金を供給したのがシャドーバンキングだった。
 しかし、中国は過去20年、年平均9%で成長してきたが、4月16日に発表された1~3月期のGDP成長率は7・4%に減速。経済は高成長から巡航速度に入った。バブル期に仕込んだプロジェクトはこれから大量の償還を迎える。
 問題は、融資平台などが行っている事業の多くが5~7年で資金回収するのに対し、理財や信託の満期は3カ月から2年程度。完全なミスマッチが起きており、回収の前に借り換えが来る。地方政府の債務17・9兆元の5割以上は、15年末までに返済期限を迎える。国家発展改革委員会に近い中国人エコノミストは、「定期預金のように個人が買っている理財商品のデフォルトは考えられないが、信託は元本が毀損(きそん)するデフォルトが起きる。68社ある信託会社の数社は倒産する」と予言する。
 理財、信託の他にも銀行が一切仲介しない委託融資、質屋、地下金融などを含めると、中国のシャドーバンキングは30兆元を超える。問題は、そのうち潜在的な不良債権がどの程度あるかだ。大和総研の齋藤尚登氏は、「潜在的な不良債権はGDPの15~20%はある」と推測する。日本円にして最大160兆円。バブル期の日本の不良債権100兆円を大きく上回る。
 しかし、李克強首相は3月の会見で、「金融システミックリスクは避けることができる」と断言した。丸紅経済研究所の李雪連シニア・アナリストはその根拠をこう解説する。「中国の財政収入は年13兆元。昨年の地方政府の土地転売益は4兆元。上場銀行の純利益は1・4兆元。中国には民主的な手続きを経ないで投入できる財政がある」。
 齋藤氏も、「バブル期の日本の銀行界の利益は2兆円。つまり日本の不良債権は銀行利益の50年分だった。中国の不良債権は仮にGDPの2割でも銀行利益の8年分。スケールが違う」という。

 ◇官に集まり過ぎた富

 二重、三重の防火壁でなんとしても金融システミックリスクを防ぐ。それが中国政府の意志だ。では、中国危機の核心はどこにあるのか。
 実は今年3月、シャドーバンキング商品ではない企業の社債がデフォルトを起こした。超日太陽能科技という上海の太陽光パネルメーカーで、2年以上前から業績が悪化し、経営破綻は時間の問題と見られていた。超日の社債を政府は救済しなかった。一方、今年1月に利払い不能に陥った山西省の石炭会社向け信託商品は、工商銀行という中国の4大銀行が販売していることもあって、元本は救済された。
 齋藤氏は今後のデフォルトは「地方政府との関係、税収と雇用への影響、投資家の発言力、の三つを基準に選別される」と推測する。つまり破綻させるか否かは“政府の胸先三寸”で決まるということだ。
 そうなると政府とコネさえ作っておけば、「国が面倒を見てくれる」というモラルハザードが起きる。しかし、完全に市場原理に任せた企業淘(とう)汰(た)が始まると、今度は非効率な国有企業や地方政府が肝煎りの開発事業がバタバタと倒れ、「共産党の統治能力そのものが危うくなる」(中国人エコノミスト)。
 金融危機を制御できるほどの富を抱えた国家資本主義がいま出口の見えない壁にぶち当たっている。