2014年

5月

27日

特集:景気・業績・株 2014年5月27日特大号

 ◇好業績・増益見通し・株主還元でも株価がさえない「三つの要因」

 

濱條元保

(編集部)

 

「稼ぐ力は強くなった」

 前期(2014年3月期)、6期ぶりに過去最高の純利益1兆8231億円をたたき出したトヨタ自動車の豊田章男社長は、リーマン・ショック後の改革に手応えを感じている。円安効果がほぼなくなる今期(15年3月期)も、営業利益は前期と同水準の2兆3000億円を維持する見通しである。

 トヨタ以外にもスズキはじめ自動車大手7社中5社が、前期に過去最高の純利益を計上、今期もマツダや富士重工業など4社が前期の最高益を更新する予想だ。

 電機大手でも日立製作所が、前期に5328億円の営業利益(連結)を稼ぎ出し、23年ぶりに過去最高を更新した。

 SMBC日興証券によると、5月9日までに集計した東証1部上場企業(3月期決算)の前期の売り上げは、13年3月期比12・9%増、経常利益同47・5%増、純利益に至っては同2倍(104・8%増)という。

 

 ◇増益予想=企業の自信

 

 期初予想は慎重な日本企業だが、今期は消費増税という不確定要素があり、例年以上に保守的な業績予想を出す企業が多い。だが、よく目を凝らすと強気の予想を打ち出す企業が少なくない。

 表1は、5月13日までに決算発表を終えた東証1部企業(3月期決算)で、時価総額1000億円以上を対象に、今期の会社の営業利益予想が前期実績より大きい企業を順に並べたものだ。

 1位に日本触媒(化学)、2位にアステラス製薬(医薬)、3位双日(商社)、4位コスモ石油(石油)、5位TDK(電機)と幅広い業種で、高い営業増益率の予想を出していることがわかる。

 岡三証券の石黒英之シニアストラテジストは、「消費増税という不確定要素がある中で、期初の段階から強気の予想を出せるのは、企業の自信の表れ。同時に19位の精密機器のトプコンのように増配予想を出す企業は、さらに予想業績の達成に自信があるということだろう」と解説する。

 トプコンは、建機・農機向け自動システムが伸びている注目企業である。4月25日の決算発表で、今期の営業利益が前期比36・4%増の160億円とし、前期の10円配当から今期は16円の増配予想をしている。

 石黒氏は「今期はいよいよ設備投資関連企業が業績を伸ばしてくる」と予想する。8位に工作機械大手のオークマや15位にDMG森精機を見つけたからだ。

 自社株買いや増配など株式市場を強く意識した発表も相次いでいる。三菱商事は、600億円を上限とする自社株買いと今期の配当を前期より2円多い1株当たり70円の増配予想を公表した。

 野村証券によると、今期の自社株買い枠設定状況は5月9日までで63社、総額8449億円という。昨年の同期間(4月1日~5月9日)の37件、1745億円を大きく上回る。西山賢吾シニアストラテジストは、「企業経営者の市場への意識は高く、自社株買いを実施する企業はまだ増えるだろう」と予想する。

 

 ◇ウクライナ・リスク

 

 ところが、前期の好業績や好調な今期予想、そして高まる株主還元姿勢に対して株式市場の反応は鈍い。最高値の更新を続けるニューヨーク・ダウ平均とは対照的に、日経平均株価は年初から10%超の低い水準に沈む。

 日本株独り負けの原因は、大きく分けて三つある。

 一つ目は、3月に勃発したロシアによるクリミア編入を契機とするウクライナ危機だ。

 株式市場では、混沌とするウクライナ情勢が本格的な内戦に発展するリスクを警戒している。

 内戦に発展した場合、「世界的なリスクオフとなり、逃避先として円が買われ急激な円高が日本企業の業績を圧迫するリスクがある。このリスクが杞憂(きゆう)であることを確認したいと投資家は考えている」と、大和証券の鈴木政博シニアクオンツアナリストは解説する。

 

 ◇「GPIF改革」待ち

 

 二つ目が、6月に政府が発表する「成長戦略」待ちだ。

 注目は法人税減税が期限を切って、具体的に示されるか。例えば現在、東京都で約35%の法人税率を中国や韓国などと同じレベルの25%程度に、3年以内に引き下げるとはっきり打ち出せるか、だ。

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の芳賀沼千里チーフストラテジストは、「ヒトとカネを海外から呼び込む対内直接投資を活性化させるには、法人税を20%台後半にまでは引き下げる必要がある。代替財源については、課税ベースを広げて対応すべき」と指摘する。

 年末には、2度目の消費増税(8%→10%)の決断が待ち構える。そのときの経済状況をみて安倍晋三首相は判断するとしており、消費増税の決断を促す狙いから財務省も法人減税を容認するのでないかという期待も市場関係者には膨らむ。

 加えて、6月にも約120兆円といわれる巨額の運用資金を持つGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)改革が打ち出されるとの期待感も強い。

 昨年11月に有識者会議を踏まえたGPIF改革は、「国内債券を中心としたポートフォリオ(運用資産の中身)の見直し」や「運用対象の多様化とアクティブ運用比率の上昇」などの運用面の見直しが打ち出された。

「従来になく踏み込んだ見直し」(大手生保運用担当者)との評価が加わり、外国人投資家を中心に「どのくらいの資金が日本株にシフトするのか」といった関心が高まった。

 また、4月にGPIFが株主重視の少数銘柄を選別することで定評のある運用機関を新たな受託先に選んだり、運用ベンチマークに「JPX日経インデックス400」を採用することが決まった。

 前出の大和証券の鈴木氏は「JPX日経インデックス400にはROE(株主資本利益率)4%以上などの採用基準があり、GPIFに選ばれるように日経JPX採用銘柄になろうという経営者の意識の高まりが、結果的に資本効率の改善につながる可能性がある」と語る。

 

 ◇「消費増税」越え

 

 三つ目が、消費増税の反動が本当に想定内かどうかの確認待ちだ。

 1997年4月の増税時とは違い、補正予算や住宅ローン減税など下支え政策があり、さらに金融システム不安がないことから、反動減は一時的で夏以降、米国景気回復を牽(けん)引(いん)役に日本経済は回復基調に戻るというのが市場コンセンサス(合意)となっている。

 5月15日に発表された1~3月期の国内総生産(GDP)成長率は、年率5・9%と市場予想の4・2%を大幅に上回る高い伸び率となり、増税前の駆け込み需要の強さを裏付けた。

 民間エコノミスト42人が回答するEPSフォーキャスト調査(5月14日公表)では、4~6月期のGDP成長率予想は年率マイナス3・80%に急落するが、7~9月期には同2・25%に回復するというシナリオを描く。

 4~6月期の落ち込みが想像以上に大きく出て、かつ7~9月期の回復力が弱ければ、市場関係者からは「日銀による追加緩和」に期待が集まるだろう。

 10%への消費増税の判断も控えており、官邸からの「圧力」も加わり、今秋に追加緩和というシナリオを描く向きもある。

「靄(もや)」のかかった状態の日本株がクリアする課題は少なくない。