2014年

5月

27日

経営者:編集長インタビュー 碓井稔 セイコーエプソン社長 2014年5月27日特大号

 ◇ビジネス用インクジェットに注力

 

 セイコーエプソンの2014年3月期は、売上高が前期比18%増の1兆36億円、営業利益が同4倍の849億円。07年3月期から7期続いた売り上げの減少に歯止めをかけ、攻勢に転じている。株価も、業績向上を牽引(けんいん)する事業構造改革を評価して、13年1月の700円台から今年5月上旬現在、3100円台に上昇している。

 

── 業績復調の理由は?

碓井 14年3月期は営業利益ベースで422億円の円安効果がありましたし、消費増税前の駆け込み需要は想定以上でした。ただ、それ以上に、事業構造改革の効果が出ています。

── ビジネスモデルをどう変えているのですか。

碓井 当社は家庭用のインクジェットプリンターが強いこともあり、ビジネス向けは得意でない、生産基盤がない、販路がない、という意識が社内にもありました。しかし、それは全く違います。そもそも我々にはインクジェット・ヘッド(インクを吐出する精密部品)の技術があり、他社から引く手あまたです。このような傑出した技術を外部企業向けのデバイス(部品)や家庭用プリンターだけに使うのではなく、もっと広く最終製品にして展開することにしたのです。

 この方針にしたがって、ビジネス用プリンターに力を入れるとともに、映像やインターネットを楽しむウエアラブル(装着可能な)端末や、ゴルフのグリップに装着してスイングを解析するセンシング(計測)機器の新製品を出しました。

 

 ◇レーザーの開発は中止

 

 プリンターは大きく2種類ある。インクを紙に吹き付ける「インクジェット式」と、トナー(粉)を紙に付着させ熱と圧力で印刷する「レーザー式」だ。レーザー式は、ビジネス用で多く使われる一方、エプソンはインクジェットに傾倒して家庭用に強みを発揮、国内トップシェアを獲得してきた。だが今後は、インクジェット技術をビジネス市場でも本格展開する。

 

── どう戦いますか。

碓井 プリンターはインクジェットにフォーカスし、他社にらみでやっていたレーザープリンターの研究開発を一切やめました。「家庭向けはインクジェット、ビジネス向けはレーザープリンター」という世間の固定概念を変えていくつもりです。

── インクジェットは、インク交換が必要な分、レーザーより割高だというイメージがあります。

碓井 家庭向けインクジェットプリンターは、使用頻度が低い人を想定しているので、インクカートリッジを小さくしています。そのため、インクを交換して使っていただくというビジネスモデルでやってきました。

 一方ビジネス用は、インクカートリッジを大きくしているので、インク交換回数が少なく済み、ランニングコストは高くなりません。

 最近、テレビCMで「プリントコストが2分の1になります」と宣伝しているとおり、実際のオフィスでも、ランニングコストは一般的なレーザープリンターの4割くらいになります。

── 技術ではレーザー式にどう対抗しますか?

碓井 インクジェットとレーザーは、テクノロジーが違うわけですから、どちらかが何から何まで優るということはありません。世の中の人の「もっと安く、速く、快適に使いたい」という期待にインクジェットで応えていくだけです。現状、期待のすべてには応えられていませんが、まずは「安さ」への期待に、しっかり応えていくつもりです。

 

 ◇圧倒的な技術を売る

 

── ビジネス向けの販路拡大のためには、家庭向けにはないコンサルティングの要素が必要では。

碓井 もちろん販売会社さんとしっかり協力し合って売っていくつもりです。ただ、売り方のうまい下手で、売り上げが増減するようなレベルの商品を作っていてはダメ、というのが当社の考え方です。ライバル社の商品に比べてどれくらい優れているかを追求するのではなく、世の中の人がどういう商品・サービスを求めているかをくみ取り、そのニーズを2倍も3倍も超える商品を出していくつもりです。

── 家庭用とビジネス用の今後のバランスは?

碓井 ビジネス用は現状、台数ベースで2割弱しかないですが、3割くらいまで増やし、金額ベースでは5割以上にしていくつもりです。

 ビジネス向けの市場は、家庭向けより5倍以上のインクの消費量(印刷枚数)があるうえ、技術的にもビジネス向けの方が高いパフォーマンスが必要とされています。当社の技術力がより生かせる市場です。

── 海外戦略は?

碓井 今後成長が期待できるのは新興国です。当社の製品は耐久性があるため売れるのですが、インクは非純正品を使われたりしていました。そこで10年10月に大型タンクを搭載した新興国モデルを投入したところこれがヒットした。先進国モデルの約10分の1のコストで使えるからです。いまでは130カ国に広がっています。(Interviewer=横田恵美・本誌編集長、構成=谷口健・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 35歳でプロジェクトを任され、37歳頃に(現在のコア技術である)「マイクロピエゾ」方式のインクジェットプリンターを完成させました。充実した日々でした。

Q 最近買ったもの

A 自社の電子ペーパー腕時計「Smart Canvas」です。(ユニフォームスポンサーであるサッカーJリーグ2部)松本山雅FCモデルです。

Q 休日の過ごし方

A 松本山雅FCのホームゲームを、3回に2回くらいは見に行っています。

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 ■人物略歴

 ◇うすい・みのる

 東京大学工学部卒業。1979年11月、信州精器(現セイコーエプソン)に入社。2002年4月情報画像事業本部副事業本部長。同年6月に取締役。常務を経て08年6月社長就任。59歳。