2014年

6月

10日

ワシントンDC 2014年6月10日号

 ◇中間選挙は劣勢見通し 悩みが深いオバマ大統領

及川正也
(毎日新聞北米総局長)

 世界で最高の権力者であり、最も孤独な人物──。オバマ米大統領はしみじみ自らの地位の重い「宿命」を感じているようだ。「ワシントンで信用できるのは愛犬だけ」と冗談を飛ばしていたが、11月の中間選挙に向けた予備選が本格化するなか、支持率低迷にあえぐ大統領の姿はあたかも「ハムレット」だ。

 5月上旬、オバマ大統領は中間選挙の民主党候補応援のため西海岸カリフォルニア州を縦断した。選挙演説となると、一気に人を引きつける魅力は衰えていない。8日昼のサンホセでのレセプションでは「共和党は下院だけでなく上院も奪還したがっている」と水を向け、聴衆に「投票しよう」とあおると拍手がわいた。
 だが、前日の7日夜、ロサンゼルスのホテルで開かれた、米映画監督スティーブン・スピルバーグ氏が創設したホロコースト(ユダヤ人大虐殺)基金「ショアー財団」夕食会でのあいさつでは異なった。「私はいま、合衆国大統領というすばらしい肩書をいただいている」と言った後、大統領としての苦悩をにじませたのだ。
「毎朝目を覚ませばナイジェリアの(拉致された)女子生徒やシリアの内戦に巻き込まれた子供たちのことを考える。そして、子供たちに手を差し伸べ、救うにはどんな手段があり、どんな力を使えるかを考える。そして『一滴ずつ』ということを考える。それこそが、破壊的な力をそぎ、弱体化させることができる」。
「一滴ずつ」は、ポーランドのナチス強制収容所の生き残りで、ショアー財団でその悲惨さを語り継ぐことで世界をよくしようというピンカス・ガター氏のことばだ。

 ◇党内の関心はヒラリー氏?

 米メディアは、オバマ大統領の発言は「米軍による武力行使だけが解決のオプションではない」(『ニューヨーク・タイムズ』紙)という趣旨と伝え、「軍事行使の限界」について語ったと報じた。「力の回避」こそ、イラク戦争を終結させ、アフガニスタン戦争の幕引きに道筋をつけた「オバマ流ソフト外交」の本質というわけだ。
 だが、米大統領として、ことさら軍事行使の限界に言及するのは異例中の異例。いったん決断したシリア武力行使の回避や女子生徒を集団拉致したイスラム過激派ボコ・ハラムに対するテロ組織指定(昨年11月)の遅れなどを「弱腰」と批判する野党・共和党の怒りに油をそそぎ、矛先をさらに先鋭化させているのが実態だ。
 米ギャラップ社の世論調査(5月19日)では、オバマ大統領の支持率は42%で不支持の53%を下回る。共和党のブッシュ前大統領はイラク戦争の泥沼化で支持率は3割台に低迷したが、戦争撤退を成果に挙げるオバマ政権の低迷は皮肉だ。FOXテレビの調査では「医療保険」と「外交」で不支持が支持より10ポイント以上高くなっている。
 中間選挙の情勢見通しもオバマ政権の民主党は劣勢だ。オバマ大統領が指摘するように、現在は民主党が多数の上院も共和党に奪還されかねない情勢。4年に1度の大統領選の合間にある中間選挙は関心が低く、政権党に不利な傾向がある。またオバマ大統領を支持する若者や黒人など少数派の投票率は下がるとみられている。
 残り任期が約2年となる中間選挙で敗北すれば、レームダック(死に体)化は一気に進む。それを見越して民主党内の関心は早くも2016年大統領選に移り、「黒人でだめなら、次は初の女性大統領」とばかり、ヒラリー・クリントン前国務長官を推す声が高まっている。オバマ大統領の「悩み」は、やはり深い。