2014年

6月

24日

ワシントンDC 2014年6月24日特大号

 ◇タリバンと捕虜交換実現 米世論は現実容認に変化

今村卓
(丸紅米国会社ワシントン事務所長)

 オバマ大統領は5月31日、アフガニスタンの反政府勢力タリバンとの捕虜交換を発表した。発表直後はこの判断に批判が上がったものの、次第にトーンダウン。世論の反応も鈍い。そこにアフガン戦争終結に向けた米国の変化がみえる。

 捕虜交換の対象となったバーグダール米陸軍軍曹は、アフガン戦争で米軍唯一の戦争捕虜だった。オバマ政権は最近、解放に向けてカタール政府の仲介でタリバンとの交渉を再開し、キューバのグアンタナモ米海軍基地に拘束していたタリバン幹部5人との捕虜交換で合意。5月31日に、軍曹の解放と同時にタリバン幹部5人はカタールへ移送された。
 タリバン幹部の事実上の解放という判断に対しては、議会で党派を超えた批判が出た。最も目立ったのは、テロリストと取引したとの批判や、タリバン幹部の解放は譲歩しすぎというものだった。5人の移送を議会に事前通知しなかったことを法律違反と問う声もあった。
 慎重さを欠くメディア戦略も混乱を招いた。オバマ大統領は軍曹の両親を招いて解放を発表、ライス国家安全保障担当大統領補佐官は軍曹を「戦場で捕らえられた名誉ある米国人」とたたえた。しかしメディアは、軍曹の脱走疑惑、捜索で6人が亡くなったとの証言を報じ軍曹を英雄視する政権に疑問を突き付けた。
 真相は依然不明だが政権の対応は後手に回った。外交政策で成果の上がらないオバマ政権が焦って軍曹の解放に飛びつき失敗したと酷評する保守系メディアもあった。

 ◇戦争終結に向けまた一歩

 しかし、議会やメディアの追及の勢いはそこまでだった。世論の関心も低い。この理由は二つある。
 一つは、党派と政権を超えて外交・安全保障政策の専門家が、オバマ政権の対応を支持していることだ。前ブッシュ政権の元高官も複数が「前政権も同じ判断をしただろう」と述べる。それは次の見方に基づく。
 捕虜となった米兵が、その理由にかかわらず全て救出されるのは当然。さらにグアンタナモで拘束しているタリバンは捕虜であってテロリストではない。16年末までに米軍がアフガンから全面撤退して戦争が終結すれば、国際法上、米国政府はタリバン拘束の正当性を失い解放せざるを得ない。それなら今、捕虜交換に応じる方が得策だ──。
 もう一つは、アフガン戦争を終わらせるという政権の判断に世論が同意し、それに伴う「変化」も容認しつつあることである。戦争終結が視野に入った今、最後の捕虜は速やかに解放すべきであり、その条件交渉に拘泥すべきではない。
 米世論はアフガン国家再建に米国は関わらないという政権の判断を支持している。であれば、アフガン政府がタリバンを排除しない以上、米国もその存在を認めるしかない。国家再建に関わらないのにタリバンは排除するという矛盾は許されないからだ。オバマ政権はそれを認めているからこそ、現在のアフガン政府とタリバンの和平協議を支援し、今回のタリバンとの捕虜交換が協議進展を促すと判断したとも考えられる。
 問題はタリバンの追放を断念し交渉に応じるという非常に抵抗の多いであろう「変化」を、世論が受け入れられるかにあった。ただ、捕虜交換への反応をみると、この「不都合な変化」の受け入れも相当進んでいると思われる。逆にタリバン幹部の解放に反対している議員は、世論にも後れを取っていることになる。
 アフガン駐留米軍の完全撤退はもう少し先のことだが、今回のバーグダール軍曹の帰還は、13年近くも続いた長い戦争の「終わりの象徴」となるのかもしれない。