2014年

6月

24日

特集:老後費用1億円! 年金だけでは収支は不足 2014年6月24日特大号

 ◇老後の資金をしっかり把握

岩崎日出俊
(インフィニティ代表取締役)

 夫婦2人で老後を過ごすには、総額でいくらかかるのか。答えは「1億円」だ。
 老後に必要なおカネについて考えるとき、いまや長生きはリスクとなる。今から50年前。東京五輪が行われた1964年は、日本人男性の平均寿命は67・67歳しかなかった。こういった時代であれば、仮に65歳まで働くとして、無収入で過ごすのはたったの2~3年間しかない。しかし、幸か不幸か、日本人は今ではずっと長生きするようになった。厚生労働省の「簡易生命表の概況」によると、2012年時点の平均寿命は男性が79・94歳、女性が86・41歳。給与をもらうことなく過ごす年数が格段に長くなった。

 それでは、老後に必要なおカネを計算するうえでの第1のステップとして、いったい何歳まで生きると想定すればいいのだろうか。残念ながら前述の平均寿命では足りない。平均寿命とは0歳児からみた「平均余命」のことだ。「簡易生命表の概況」によれば、12年時点で65歳の人の平均余命は男性18・89歳、女性23・82歳。すなわち、65歳まで生きた男性は83・89歳、女性は88・82歳まで平均で生きることになり、平均寿命よりもさらに3~4年長い。このことを認識しておかなければ、老後の生活設計が狂ってしまうことになる。
 さらに、老後の必要資金を計算するうえでは、平均余命以上に長生きした場合なども考慮し、資金の余裕をみておく必要がある。長生きの結果として生活が破綻してしまえば元も子もない。平均余命よりも早く死んでしまった場合はおカネが余ってしまうが、残ったおカネは葬儀費用などに充ててもらえばいい。さらに余ったとしても、子どもたちに相続財産として残すことができる。ここでは、余裕分として平均よりも5%程度、長生きするケース(年数にして約4年)を考える。すなわち、男性は88歳、女性は93歳まで生きると想定しておこう。

 ◇消費額は月25万円

 老後に必要なおカネを算出するうえでの第2のステップは、老後に必要となる毎月の生活費を計算することである。総務省の家計調査報告によると、13年時点で世帯主が65歳以上の世帯(2人以上)の場合、平均月額消費額は25万4000円である。また、生命保険文化センターの13年度の「生活保障に関する調査」では、老後生活を送る夫婦2人の日常生活費は最低で22万円。ゆとりのある場合では35万4000円が必要となっている。
 ここでは、家計調査報告の数字を使って試算してみる。ゆとりある老後生活とは程遠いが、実際に使われている金額だ。試算の前提条件として、夫は65歳まで働く。3歳年下の妻は専業主婦とする。夫婦とも最晩年まで健康というケースは非現実的なので、夫は80歳から、妻は85歳から、それぞれ介護付き老人ホームに入ることも想定。東京から1時間程度で行けるホームを前提に、入居一時金がない代わりに月額利用料を25万円とした。もっとも、入居一時金600万円、月額利用料18万7500円で計算しても同じ結果になる。
 ◇総額「1億860万円」

 以上の前提で老後に必要なおカネを試算する。

▽夫65~80歳、妻62~77歳(自宅)
 25万4000円×12カ月×15年=4572万円…①
▽夫80~88歳(老人ホーム)
 25万円×12カ月×8年=2400万円…②
▽妻77~85歳(自宅)
15万5000円(65歳以上単身世帯平均値)×12カ月×8年=1488万円…③
▽妻85~93歳(老人ホーム)
 25万円×12カ月×8年=2400万円…④
①+②+③+④=1億860万円

 この「1億860万円」が老後にかかるおカネの総額だ。なお、最低日常生活費22万円を使って同じ計算をすると、所要資金は「1億248万円」とやはり1億円を超えてしまう。また、ゆとりのある老後の生活費35万4000円を前提に計算すると、「1億2660万円」とさらに必要額は増える結果になる。
 老後に1億円が必要といっても、多くの部分は公的年金でカバーされる。ただ、夫婦の公的年金への加入形態によって、年金の受給額は大きく異なる。この老後に必要なおカネのうち、どれくらいが公的年金でカバーされるのか、今度は老後の収入面をパターンごとに試算してみよう。

 ◇会社員と専業主婦 老後資金の3割不足

 夫が会社員、妻が専業主婦の場合、老齢基礎年金と老齢厚生年金を受給する。この夫婦2人分の標準的な年金受給額は月額21万8000円。老後にかかるおカネの試算と同じように夫は88歳、妻は93歳まで生きるとし、夫の死後は妻が老齢基礎年金と遺族厚生年金(夫の老齢厚生年金額の4分の3)を受給する想定で計算してみる。

▽夫が生きている間の夫婦の年金受給総額
 21万8000円×12カ月×23年=6017万円…①
▽夫の死後の妻の年金受給総額
 13万2000円×12カ月×8年=1267万円…②
①+②=7284万円

 つまり、老後に必要な資金1億860万円の67%は、公的年金でカバーできることが分かる(19ページ図1)。そこで、老後を乗り切るには、公的年金でカバーしきれない部分、すなわち1億860万円-7284万円=3576万円を自分で備える必要がある。
 それでは残り約3割の足りない部分をどうするか。会社員の場合は退職金と企業年金に頼ることになる。企業年金がある会社は全体のおおよそ4割。ただし、大企業の場合は約8割に企業年金があるようだ。企業年金制度がない会社では、退職金は退職時に一時金としてすべてが一括で支払われる。一方、企業年金制度の場合は、退職金の一部が企業年金の形で支払われる。
 厚生労働省が昨年11月に発表した「就労条件総合調査結果の概況」によると、勤続35年以上の大卒者(管理・事務・技術職)の平均退職給付額は2156万円。企業年金制度がある場合は、このうち例えば1000万円を一時金でもらい、残り1156万円を企業年金の形でもらうようになる。いずれにせよ、公的年金だけでは足りない部分の3576万円のうち、2156万円は退職金でカバーできるとすれば、本当に足りない分は1420万円となる。
 ただ、この数字はあくまで平均であって、退職金の額は企業によって異なる。自分の退職金額が詳細に分からないまでも、過去の実績などからおおよそのメドは付けられるだろう。個人によって異なるこの「本当に足りない部分」を事前に把握し、現役時代に資産形成しておく必要がある。

 ◇夫婦共働き 大半を年金がカバー

 夫婦共働き(どちらも会社勤め)の場合は、公的年金の受給額が増えるので、老後はぐっと楽になる。これまでと同じように夫は88歳、妻は93歳まで生きると想定し、夫婦ともに標準的な年金額を受け取るとすると、2人分の合計受給額は月30万8000円となる。

▽夫が生きている間の夫婦の年金受給総額
 30万8000円×12カ月×23年=8501万円…①
▽夫の死後の妻の受給総額
 15万4000円×12カ月×8年=1478万円…②
①+②=9979万円

 この結果、老後の必要資金の92%が公的年金でまかなえることが分かる。夫婦2人分の退職金も合わせれば、余裕のある老後を送ることができるといえるだろう。

 ◇夫婦とも自営業 働き続けることが肝心

 会社勤めの人や公務員に比べ、自営業者は厳しい。非正規社員として働き厚生年金に加入していない人も、同じく老後の資金繰りが大変になる。老齢基礎年金の月額6万4000円しかもらえないからだ。夫婦2人で計算しても、受給額は月12万8000円。この前提で、これまでと同じように夫は88歳、妻は93歳まで生きるとの想定で計算してみよう。

▽夫が生きている間の夫婦の年金受給総額
 12万8000円×12カ月×23年=3533万円…①
▽夫の死後の妻の年金受給総額
 6万4000円×12カ月×8年=614万円…②
①+②=4147万円

 公的年金の受給総額では、老後の必要資金1億860万円の38%しかカバーできず、6700万円以上の資金不足が発生してしまう。ただ、自営業者の人には定年がない。老後資金が不足していれば、見通しが明るくなるまで働き続けることが大切だ。

 ◇インフレで目減りリスク

 ここまでの試算の結果は、現在と同じ経済環境や年金制度が続くという前提だ。これから老後に備える人にとって、さまざまなリスクが存在する。その大きなものが、インフレと年金受給開始年齢の引き上げだろう。
 日銀が異次元緩和に取り組む中、日本経済はようやくデフレを脱却しつつある。アベノミクスで景気は好転しているが、これから先の時代がインフレになれば、年金額は物価上昇率ほどは上がらず、目減りしてしまう可能性がある。デフレ下で見送られてきた「マクロ経済スライド」と呼ばれる年金額調整の仕組みが、インフレになれば適用されるからだ。
 例えば、物価上昇率が1・5%でスライド調整率が0・9%の時、実際の年金額の改定率は0・6%となる。この前提で、今後25年間にわたって年率1・5%のインフレが進むと仮定した場合、現在の夫婦2人のモデルケースの年金受給額である月21万8000円は、25年後には17万4000円の価値しか持たなくなってしまう。また、日銀はインフレ率2%を目標とするが、今後25年間のインフレ率が2・0%でスライド調整率1・2%なら、実際の年金改定率は0・8%となり、25年後の実質価値は16万1000円となる。
 公的年金の受給開始年齢が引き上げられるリスクも考えておかなければならない。男性の場合、現在は老齢厚生年金は61歳から、老齢基礎年金は65歳から受給する。そして、老齢厚生年金の受給開始年齢はこの先、25年にかけて段階的に65歳に引き上げられることがすでに決まっている(女性は男性より5年遅れのスケジュール)。

 ◇受給開始年齢引き上げも

 問題は25年以降である。現在の年金制度は急激な少子高齢化の洗礼を受け、抜本的な見直しを迫られており、さらに年金受給開始年齢が引き上げられる可能性が高い。厚生労働省が今年6月に発表した5年に1度の年金財政検証では、現在の年金制度は、①13~23年度の実質経済成長率を年率平均2・1%とし、②年金資金の実質運用利回りを年率3%以上とする──といった、甘めの見通しに立って長期にわたる持続が可能という結果が示された。
 しかし、例えば23年度までの実質経済成長率を年率平均1・3%とし、その後はマイナス0・4%といった経済低迷を前提とするシナリオのもとでは、55年度に年金原資の積立金が底をついてしまう。つまり、年金制度の維持のためには、現行制度に抜本的メスを入れざるを得ず、受給開始年齢のさらなる引き上げや、デフレ下でもマクロ経済スライドを適用する仕組みへの変更も実施せざるを得ない。
 他国の受給開始年齢をみると、米国では現在66歳からで、27年までに段階的に67歳へ引き上げることを決めている。ドイツも67歳、英国も68歳まで段階的に受給年齢を引き上げる。これらの国々と比較した場合、少子高齢化が一番進んでいるのは日本である(高齢化率23%、出生率1・39)。米国(高齢化率13・1%、出生率1・89)、英国(高齢化率16・6%、出生率1・91)、ドイツ(高齢化率20・4%、出生率1・36)と比べれば、最も少子高齢化の進む日本の年金受給開始年齢はいずれ、引き上げられざるを得ないだろう。
 漠然と老後に不安ばかりを抱き、やみくもに節約しても仕方がない。一方で、根拠なく楽観していれば、ゆくゆくは生活が行き詰まる。老後への備えでまず重要なのは、将来の収支やリスクを把握したうえで、足りない分の対策を今から考えること。目標額を定めてコツコツと積み立て投資をするのもいいし、住宅ローンなど家計の支出を見直すのでもいい。65歳までと限定せず少しでも長く働けば、老後はその分、楽になる。また、地方の老人ホームに入るなら、利用料は安くなる。目標や課題がはっきりと見えてこそ、具体的な対策は可能になる。