2014年

7月

01日

ワシントンDC 2014年7月1日号

 ◇新段階入りの輸出倍増計画 直面する課題は議会交渉

 

須内康史

(国際協力銀行ワシントン首席駐在員)

 

 オバマ大統領は5月13日、輸出倍増を図る経済戦略「国家輸出イニシアチブ(NEI)」が新たな段階に入るとの声明を出した。同日、声明を受けてプリツカー商務長官が演説し、「NEI/NEXT」と銘打った輸出促進の新政策プログラムを発表した。

 NEIは2010年1月、今後5年間で輸出を倍増させ、200万人の雇用を創出するとして打ち出された。この戦略のもと、オバマ政権は「輸出促進閣議」創設による政策調整、米国輸出入銀行(米輸銀)の貿易金融拡大、パナマ、コロンビア、韓国との2国間自由貿易協定の締結など各施策を実施してきた。

 米国の輸出は金融危機の影響を受けた09年に落ち込みを見せた後、4年続けて伸長し、13年には過去最高の約2・3兆ドル(09年比で44%増)に達した。米国商務省の分析によると、13年に輸出により生み出された国内雇用は1130万人。この値は1993年以降で最大と推計されている。また、09年から5年間の米国GDP成長のおよそ30%が輸出によってもたらされたと分析している。

 政権はNEIの成果を強調するが批判的に見る向きもある。09年以降の輸出伸長は、金融危機後の経済回復の自然な成り行きであり、NEIの政策が寄与したものではないといった指摘だ。

 今回の「NEI/NEXT」の発表にあたり、政権からは輸出倍増の数値目標に対する言及がなかった。それゆえ、現状での評価は分かれるところだが、足元の輸出伸長の実績に照らせば、一定の成果を上げたとは言えるだろう。

 

 ◇企業の支援を目指すが

 

「NEI/NEXT」では輸出機会のさらなる創出を目指す。

 具体的には、①米国企業への海外市場に関する情報提供・技術支援、②輸出手続きの簡素化や輸送インフラ整備による輸出促進の環境整備、③輸出企業に対する金融支援拡大、④州・地方都市政府と連携した各地の米国企業への輸出啓蒙、⑤自由貿易協定推進等による海外市場機会の獲得──の五つの取り組みを推進する。基本的にはNEIの延長線上の策であるが、政権として今後の重点を改めて明示したと解釈できる。

 プリツカー商務長官によると、米国企業のうち輸出を手掛ける企業は全体の5%に過ぎない。それゆえ輸出機会の創出を支援する必要性は大きいという。今後において注目されるのは、自由貿易協定の推進と輸出のための金融支援の拡大だ。ただ、いずれも議会交渉がハードルとなる。

 環太平洋パートナーシップ協定(TPP)などの自由貿易協定では、貿易促進権限(TPA)の付与が不可欠とされる。同権限が議会から大統領に付与されれば、通商交渉の際、政権は交渉内容の限定などの義務を負う半面、議会に個々の内容についての修正を求められることなく、一括承認の採決に持ち込める。しかし、TPAについては、今年1月に超党派議員3人により法案が上下両院に提出された後、審議は進んでおらず、たなざらしの状態だ。

 金融の分野では、米輸銀が中核となる。だが、米輸銀が業務を遂行するには、今年9月末が期限の業務権限について議会からの再授権が必要な状況だ。現在、再授権法案が議会に提示されているが、「小さな政府」を志向する共和党保守派からは反対の声が上がっている。

 4月末に開催の米輸銀総会で、サマーズ元財務長官は「TPPに関する最も重要な交渉は(議会に通ずる)ペンシルベニア通りで行われる」と語った。「NEI/NEXT」の推進でも、ペンシルベニア通りは避けて通れない道になりそうだ。