2014年

7月

01日

特集:官製相場の賞味期限 Part1 どうなる株&為替 2014年7月1日号

 ◇「当面、ABEに逆らうな」上がる株価と潜む危うさ

 

濱條元保

(編集部)

 

 外国人投資家には、日本株上昇につながる「政治圧力」への期待が大きい。安倍晋三首相による、世界最大規模の130兆円を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用方針見直し要請だ。

「GPIFの運用の見直しを前倒しするように」

 安倍首相が6月3日、田村憲久厚生労働相に、こう指示していたことが明らかとなった。見直しのポイントは、現在運用資金の6割を占める国内債券比率の引き下げと日本株比率の引き上げだ。

 2013年末時点で、GPIFの日本株の比率は17・2%だが、これが大幅に引き上げられると内外の投資家が期待を寄せている。

 すでにGPIFの米沢康博運用委員長は内外のメディアに対して、日本株比率の引き上げを検討する意向を示しており、投資家の期待は高まるばかりだ。麻生太郎副総理兼財務相は6月6日、閣議後の会見で「仮に(GPIFが)10%動いたら、13兆円」と、株式市場に与えるインパクトの大きさを披露した。

 

 ◇信託銀行の大量買い

 

 実は、GPIFはじめ公的年金の日本株買いは、すでに始まっている可能性が高い。

 日経平均株価は直近安値の1万4006円をつけた5月19日からほぼ一本調子で上昇を続け、6月3日には1万5000円台を回復した。

 この上げ相場を一貫して買い手となって牽引(けんいん)したのが、信託銀行部門だった。5月第1週から6月第1週まで6週連続の買い越し額は、7986億円に達した。特に5月第4週は1782億円、5月第5週は2499億円、6月第1週は1113億円と1000億円を超える規模で買い越している。

 通常、年金の運用資金を預かる信託銀行は、相場が下がる時に買って、上がると売る「逆張り売買」が中心だ。ところが、今回は株価が上昇する中での大幅な買い越しである。

 5月からの信託銀行部門の買い越しを「不自然」とみる大和証券の塩村賢史シニアストラテジストは、買い手として公的年金を有力視したうえで、三つの仮説を立てる。

 ①15年10月に予定されている3共済(国家公務員共済組合〈13年3月時点で国内株比率は6・8%〉、地方公務員共済組合〈同15・1%〉、私立学校教職員共済組合〈同10・5%〉)とGPIF(17・2%)との一元化を前に、3共済がGPIFの比率に合わせようと株を買い増している、②GPIFが現在の枠内で株を買い増している、③簡保マネーによる株買い──。

 塩村氏の試算によると、公的・準公的資金の運用・リスク管理を見直す政府の有識者会議で座長を務めた伊藤隆敏東京大学大学院教授が提言した、GPIFの国内株比率を20%に引き上げた場合、3・6兆円の資金が株式市場に流入するという。これに3共済分が加わると、7・6兆円にまで流入資金が膨らむ。

 公的年金に続き日本株に資金を振り向けたのが、外国人投資家だ。

 

 ◇先物買いの外国人

 

 岡三証券の石黒英之シニアストラテジストは、「公的年金の買いと推測される状況が5月から継続し、日本株の底堅さを好感した外国人が、先物で日本株に資金を振り向けるようになった」と指摘する。

 外国人投資家は、5月第4週から日本株を買い越し始め、同週に1177億円、第5週に2050億円、6月第1週に6905億円とわずか3週間で1兆円超の日本株を買い越した。

 いま市場では、これが合言葉だ。

「当面、ABEに逆らうな」

 外資系証券の幹部は、ニューヨークやロンドンとの電話ミーティングで、こんな運用方針を打ち立てたと明かす。「ABE」とは、もちろん安倍首相のことだ。

 その安倍首相に逆らうなとは「政治力を総動員してアベノミクスが目指す脱デフレ、日本経済再生は、純粋な経済要因で物事は動かない。完全に政治要因で動く。『官製相場』に刃向かっても何の得にもならない」と、同幹部は解説する。

 つまり、国のトップが旗振り役となっている政策を前に、もはや市場原理や経済合理性を議論しても始まらない。株価上昇、脱デフレ、景気回復を至上命題とするアベノミクスにしばらく乗るのが、得策ということだ。

 このような相場を反映して、5月中旬から日本株担当者が外国人投資家から質問攻めにあっている。

「GPIFはいつ、日本株を買い増すのか」「夏場以降にGPIFが日本株を買い増すなら、今が仕込み時ではないか」「ゆうちょマネーからも日本株の買いが入るのではないか」──。

 

 ◇危うさが潜む市場

 

 しかし、公的マネーの押し上げによる「官製相場」には、危うさがつきまとう。

「GPIFの運用規模がいくら巨額といっても、いつまでも国内株買いが続くはずがない」(大手証券ストラテジスト)。市場関係者が懸念するのは、まさに持続性だ。

 5月第4週から3週連続1000億円以上を買い越した外国人投資家の実体は、超短期志向のヘッジファンドによる先物投資とみられている。欧米先進国の年金などの中長期の投資家が日本株を買い続けない限り、持続的な株価上昇とはいかないだろう。

 世界に目を転じれば、イスラム教の宗派対立を契機にイラク情勢が急速に悪化するなど地政学リスクに投資家が警戒感を強めている。

 OPEC(石油輸出国機構)で第2の産油国となったイラクが泥沼の内戦に発展すれば、原油価格の上昇を通じて世界経済に波及する。アジアで指標となるドバイ原油は6月16日、1バレル=約109ドルと5カ月ぶりの高値をつけた。

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの芥田知至主任研究員は「過激派武装組織が中央政府を転覆させるような事態に発展し、南部の原油生産・輸出に悪影響が出るような事態となれば、1バレル=120ドルにまで上昇する可能性がある」と警戒する。

 行き場を失った世界のマネーが先進諸国の国債に滞留し、市場はボラティリティー(変動率)が小さな凪(なぎ)の状態が続いている。だが、日米欧の先進国も新興国も景気の足腰が本当に強いわけではない。ちょっとしたショックで、大きく揺さぶられる状態だ。その中での官製相場はひときわもろいと言わざるをえない。