2014年

7月

08日

ワシントンDC 2014年7月8日特大号

 ◇火力発電でCO2新規制案 既存プラントに対応求める

 

篠崎真睦

(三井物産ワシントン事務所長)

 

 米環境保護庁は6月2日、国内で稼働する火力発電所からの二酸化炭素(CO2)排出量を2020年までに05年比で25%、30年までに同30%削減する規制案を発表した。オバマ大統領は、この規制実施・確立によって、環境対策におけるレガシー(政治的な遺産)作りを狙っていると見られている。

 今回の規制案は主に石炭による火力発電所を念頭に置いた内容。石炭は全米の電力供給源の約40%を占める。環境保護庁は昨年9月、CO2の分離回収・貯留技術(CCS)を導入していない石炭火力発電所の新設を事実上排除する新基準案を発表している。これは新設の火力発電所が対象だったが、今回は「既存」のプラントに照準を定めてきた。

 30年までに30%削減という目標は全米平均の値で、環境保護庁は各州にそれぞれ異なる削減基準を設定し、目標達成に向けた計画を州独自に策定する柔軟性を与えている。各州の削減基準は現在調整中だが、フロリダ州には30年までに05年比で温暖化ガス排出量の38%削減を、テキサス州は同39%削減を求めるとの試算もある。

 各州政府の主な選択肢としては、まず天然ガスコンバインドサイクルといった低炭素発電源の利用拡大が挙げられる。これは燃料を燃やしてガスタービンを回し発電するとともに、その排ガスの余熱で水を沸騰させ蒸気タービンによる発電も行う形式だ。また、風力・太陽光などクリーンエネルギーへの転換、省エネなどの電力需要削減、地域ベースでの排出権取引導入などがある。

 環境保護庁は今後1年かけて具体的な施行細目を作成し、15年6月に最終的な規制を公布する予定。その後、各州政府は16年6月までに実施計画書を提出することになる。

 オバマ大統領は09年の政権発足当初、連邦政府主導の包括的気候変動・エネルギー法案の通過を目指したが、議会の反対により頓挫した。こうした経験から、大統領は13年6月に「気候変動行動計画」を発表し、議会の承認が不要な大統領権限で実施可能なアプローチを最大限に活用して、既存法に基づく規制強化へとかじを切っている。

 

 ◇企業団体は抵抗するが

 

 しかし、こうした規制案は今後、法的・政治的な壁に直面し、実施延期に追い込まれる可能性もある。全米商工会議所、全米製造業協会など多くの企業団体は規制案を強く批判している。新基準をクリアするには企業側の負担コストがかさみ、米国経済に悪影響が及ぶとの理由からだ。電力会社などからは法廷闘争で規制を阻止しようという動きも出てくると見られ、訴訟は最高裁まで争われる可能性がある。

 また、議会共和党は規制を阻止するための法案可決を目指すだろう。秋の中間選挙で共和党が上下両院の多数派となれば、すでに提出されている環境保護庁の規制権限を剥奪する法案の可決へ動く可能性がある。ただ、オバマ大統領はそうした法案には拒否権を発動し、任期中に規制実施を軌道に乗せ、自らのレガシーとする戦略を描いているようだ。

 いずれにせよ、米国ではシェール革命に伴う天然ガス価格の低下を背景に、老朽化した石炭火力発電所の閉鎖と天然ガス火力への移行が加速しつつある。天然ガスはCO2排出量が石炭より低いのもメリットだ。加えて、環境保護庁は12年4月から、石炭及び石油火力発電所から排出される水銀及びその他の有害大気汚染物質を規制する基準を導入・施行している。

 オバマ政権のレガシー作りの成否とは別に、旧来型の石炭火力発電所の閉鎖は進みそうだ。