2014年

7月

08日

特集:とことん分かる2014年下期マーケット いまマネーはどこに流れているのか? 2014年7月8日特大号

 ◇欧米と一部新興国に資金回帰

 

秋本裕子

(編集部)

 

 世界的に長期金利の低下傾向が強まっている。同時に、米国、欧州、一部新興国の株価は過去最高水準までジリジリと上昇し、その変動幅は小さい。この状況は何を意味するのか。

 

 ◇南欧国債利回り低下

 

 欧州債務危機の影響でユーロ圏から流出していたマネーが、再び戻っている。自国債や自国株式の購入に向けられ、ドイツDAX指数は過去最高水準で推移している。

 南欧諸国では資金回帰がさらに顕著だ。ユーロ圏債務危機の最悪期に売り浴びせられたイタリア国債やスペイン国債の利回りは、足元ではそれぞれ2・8%台、2・6%台まで下がっている。米国債の利回りとほぼ同じ低水準だ。欧州中央銀行(ECB)の追加緩和期待による下支え効果が大きい。

 また、今年1月に米国の量的緩和縮小(テーパリング)開始観測からマネーが一斉に流出した新興国でも、一部の国で資金が回帰し、モディ首相誕生で注目されるインドや、7月に大統領選が予定されるインドネシアの株式や債券市場が活況だ。

 ベアリング投信投資顧問の溜(たまる)学・運用本部部長は、「中国経済の減速で、中国の影響を受けにくいインドやインドネシアにはマネーが入る一方、影響を受けやすい南アフリカやブラジルなどには流れにくいという構図が生まれている」と分析する。

 一方、米国はどうか。米ダウ工業株30種平均やS&P500種株価指数は、このところ最高値水準で推移。3%程度が続いていた長期金利も、5月末に一時2・4%台まで下落した。米国にも資金が流れ続け、「株高・債券高」の両立が起きている。

 米連邦準備制度理事会(FRB)が量的緩和を縮小しているなか、米国債金利の低下が続いているのはなぜか。その理由について、大和証券の熊澤伸悟マーケット・アナリストは、「南欧国債が利回り低下で投資妙味を感じにくくなっており、南欧にお金を入れつつ、ドイツ国債や米国債にも振り向けている」と解説する。

 

 ◇取り残される日本

 

 このように、ユーロ危機で欧州から、米量的緩和縮小観測で新興国から逃げ出したマネーは、それぞれ自国に回帰して株式市場、債券市場を下支えし、さらには米国の株式・債券市場にも流れ込んでいる。

 その一方で、マネーが素通りしているのが日本だ。アベノミクスへの期待から、昨年末には日経平均が1万6291円をつけ、1年で6割近く上昇した日本株だが、昨年の主役だった外国人投資家の動きは鈍い。足元で若干の上昇基調にはあるものの、その水準は1万5000円台前半にとどまっている。

 ドル・円相場もほぼ膠着(こうちゃく)している。政府は6月24日、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)改革などを盛り込んだ新成長戦略をまとめ、外国人投資家を再び呼び込もうとしているが、昨年のような上昇局面が、果たして訪れるのだろうか。

 

 ◇リスクは地政学と米利上げ

 

 今後のマネーの動きを左右する要因として、地政学リスクと、米国の量的緩和縮小終了後にやってくる利上げが挙げられる。

 実際、イラク情勢の緊迫化により、投機マネーは原油相場の上昇を引き起こしている。WTI原油先物は6月21日、一時1バレル=107ドル台をつけた。イラクの原油生産量は、石油輸出国機構(OPEC)内ではサウジアラビアに次ぐ。「イラクの混乱の長期化で、ヘッジファンドによる持続的な買いが入りやすい状況」(マーケット・アナリストの豊島逸夫氏)。

 利上げをめぐっては、FRBは量的緩和策終了後もゼロ金利をしばらく続ける姿勢を示しており、それが足元の株価を下支えし、株高・債券高の同時進行につながっている。

 だが、過去の例では、株高・債券高の両立は比較的短期間で終わってきた。つまり、「そう遠くない時期に、どちらかが誤りという結果が出る」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘投資情報部長)。果たして、間違っているのは債券なのか、株なのか。

 一つのカギとなるのは成長率だ。国際通貨基金(IMF)は6月16日、14年の米国の経済成長見通しを、4月時点の2・8%から2・0%へと下方修正。「高齢化が進み、生産性の伸びが鈍化するなか、潜在成長率は2%近辺にとどまる」と指摘した。6月10日には、世界銀行が米国の成長率を2・8%から2・1%に下方修正したばかり。つまり、今年前半の「14年は3%近く成長」との見方を覆し、低成長が続くとみているわけだ。「株はいずれ、膨らみすぎた期待の調整局面がやってくる」(藤戸氏)と考えるのが自然だ。

 

 ◇世界経済は微妙な均衡上

 

 その株価は、過去最高値を更新しているが、変動率は小さい。一見すると安定的に推移しているようではあるが、バブル懸念も出ている。変動幅が小さい時ほど、その後の株価急落の衝撃も大きくなる傾向にあるからだ。サブプライム危機前の07年ごろまでがそうだった。

 FRBのイエレン議長も6月18日の記者会見で、「あまりに変動率が低いと、投資家のリスク志向を誘い、過剰なレバレッジを伴うかもしれない。それが金融市場不安定化のリスクとなりうる」と懸念を示している。

 これは、最近のグローバル市場にも通じるものがある。「マネーが大移動しているわけではなく、コアな受け皿があるわけでもない」(豊島氏)。欧州、米国、一部新興国の株と債券がそれぞれ恩恵を享受し、心地よい水準で均衡を保っている構図だ。

 日米欧の緩和競争から一足早く出口に向かった米国。イエレン議長は、バブルの危険性を認識しながら、ギリギリまで時間稼ぎをしたいのが本音。まるで、「中央銀行と市場関係者の間で、止まれないチキンレースが続いているようだ」(溜氏)。

 何か一つの引き金で均衡が崩れかねない微妙なバランスの上に成り立っているのが、現在の世界経済だ。今後訪れる米国の利上げ局面や地政学リスクが、世界経済の均衡、マーケットの安定を崩す火種にならないか──。