2014年

7月

22日

ワシントンDC 2014年7月22日特大号

 ◇米輸銀を巡って割れる意見 一時機能停止に陥る懸念も

 

堂ノ脇伸

(米国住友商事会社ワシントン事務所長)

 

 80年の歴史を持つ米国輸出入銀行(米輸銀)の存続が岐路に立たされている。連邦議会下院共和党の院内総務に就任予定であるケビン・マッカーシー議員が、同行の業務権限の再授権法案に関して、これを支持しない旨の発言を行ったからだ。

 政府出資の特殊金融機関である米輸銀は、米国企業の貿易活動、特に輸出において信用供与と金融援助を与え、企業の国際的な競争力維持を支援してきた。

 一例としては、米ボーイングの航空機を購入する海外のエアライン会社に、低利の融資による資金提供を行うことで、間接的に仏エアバスなど海外競合企業に対する米国企業の競争力を高めてきた。その原資は税収による国庫金で、議会の定める上限額の枠内において財務省からの借り入れによって賄われる。

 米輸銀が新規の融資や保証業務を行っていくうえでは、今年9月末が期限の業務権限について、議会から再授権されることが必要。現在、再授権法案が議会に示されているが、下院共和党ナンバー2のポジションに就く予定のマッカーシー議員はFOXニュースのインタビューで、米輸銀に関して「民間で行えることは民間に任せればよく、政府は介入すべきではない」と述べた。

 ティーパーティー(茶会派)を中心とした共和党内の右派勢力も、米輸銀の廃止を主張している。これを支持するシンクタンクのヘリテージ財団も、米輸銀が米国内の特定大企業と政治の癒着を促して、自由な競争環境をむしばんでいると糾弾する。

 

 ◇9月末が期限だが

 

 しかし、党内で意見は分かれている。企業の利益を重視する党内穏健派からは、再授権法案の可決を求める声が聞かれる。

 米輸銀の廃止が、そのまま中小企業を含む米輸出産業の国際競争力を削(そ)ぐことになりかねず、企業の収益悪化、さらには米国経済の低迷と雇用不安をもたらすと考えているのだ。マッカーシー議員の発言の翌日には、同じ共和党の41人の下院議員がベイナー下院議長とマッカーシー議員宛ての書簡で、米輸銀存続を支持する姿勢を表明した。

 企業間でも意見は混在している。米デルタ航空のアンダーソン最高経営責任者は先述のボーイング社の航空機輸出に関わる融資などは「顧客獲得競争において、敵(海外エアライン会社)を利するようなもの」と米輸銀の業務に猛反発しているが、存続を求める声も大きい。

 全米製造業協会、全米商工会議所は、再授権法の可決が米国産業にとって不可欠であるとし、活発なロビイングを展開している。他国に同様の政府系金融支援制度が存在する状況で、米国がこれを放棄することは、一方的に国際競争の舞台から降りるようなものだというのが訴えの内容だ。

 ただし、現状では再授権法案が9月末の期限までに下院本会議で採決に付される可能性は低い。同法案を扱う下院金融委員会のヘンサーリング委員長(共和党)が、マッカーシー議員と同じく米輸銀のあり方に否定的な立場を表明しているためだ。法案が委員会から本会議に上程される見通しが立たない中、一時的にせよ、9月末をもって米輸銀の機能は停止する可能性が高い。

 このことは輸出促進による経済浮揚をもくろむオバマ政権にとっては当然打撃となろう。他方、共和党においても、内部の対立を先鋭化させ、支持基盤となってきた産業界との間には軋轢(あつれき)を生じさせる。今後の動向によるが、「勝者なき政争」にもなりかねない。