2014年

7月

22日

特集:地図で学ぶ世界経済 第1部 マネー編 世界のマネーフロー 2014年7月22日特大号

 ◇米国が世界の資金を引きつける

 

緒方欽一

(編集部)

 

 米国は世界中のマネーが集まる中心地だ。米商務省の国際収支統計で、債券や株式といった証券投資だけでなく企業への投資といった直接投資も含めたマネーの流れをみると、多額の資金が米国に向かっている様子が分かる。

 2013年の1年間と、08~09年時点を比べるとその動きは顕著に違う。リーマン・ショックなど金融危機に見舞われた08~09年は国際金融・資本市場が混乱に陥り、世界的に資金の本国回帰(レパトリエーション)が起こった。海外にある資金を自国内に戻し、嵐の過ぎ去るのを待った。

 その後、世界経済は行きつ戻りつではあるが、改善の傾向にある。米連邦準備制度理事会(FRB)は危機対策として、米国債などの資産を買い入れることでマネー(ドル)を市中に大規模に供給する量的緩和策をとった。この効果もあり、経済面で米国は着実に回復に向かっている。ギリシャやスペインなどで政府債務問題が発生した欧州も、経済の低迷は続くが、最悪期は脱したとみられている。投資に積極的になったマネーが米国に引きつけられている。

 13年のマネーフローの特徴は、みずほ総合研究所の長谷川克之市場調査部長によると「米国―EU(英国を除く欧州連合諸国)間の『マネーの大動脈』の回復」だという。世界金融危機時や欧州危機時には、この大動脈が細った。「回復は米国発、欧州発の双方の資金の動きが活発化し始めていることを意味する」(長谷川部長)。

 

 ◇海外勢の米債購入は回復

 

 一方、米財務省の統計で証券投資の動きだけをみると少し異なる様相となる。海外投資家による米国債の買い越し額は12年、13年と縮小していたからだ。

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの塚田裕昭主任研究員は「ちょうどFRBによる量的緩和策第3弾(QE3)の時期(12年9月開始)と重なるため、米国債の主たる買い手が海外勢からFRBになったことによるものと思われる」と話す。

 ただ、今年に入ると海外勢全体の買い越し額の水準は戻ってきている。ウクライナ情勢の緊迫化など地政学リスクを意識した安全資産としての米国債の買い、さらには今年から量的緩和策の縮小が開始されたことで、米国債の買い手としてのFRBの比重が徐々に下がってきたことなどが影響していると考えられる。

 FRBが量的緩和を縮小し始めれば、長期金利はじわじわと上昇するというのが、昨年末までの市場の大方の見方だった。だが米10年国債の利回りは年末に3%をつけてから逆に低下し、現在は2・5%台前後。00年代半ば、FRBの利上げに反応しない長期金利を当時のグリーンスパンFRB議長は「コナンドラム(謎)」と呼んだ。この時はオイルマネーや新興国などが米国債を大量購入していたとみられている。

「第二のコナンドラム」とも言われる足元の米長期金利の低下は、米国債の購入を戻してきた海外勢の動きや、低金利のドルを調達して高利回りだった欧州周辺国債に投資する動きが一度巻き戻った(利益確定売りした)ことが影響しているようだ。

 なお、米国から海外への投資をみると、12年、13年と外国株式への投資が増えていたが、14年に入って減っている。これは量的緩和により米国内にあふれたマネーが海外株式へと流れ出ていたが、緩和縮小開始により、その資金量が減少した影響とも解釈できる。

 米国では10月にも量的緩和策が終了し、米国債の価格下落につながる将来の利上げも意識されているが、欧州では6月に欧州中央銀行(ECB)が初のマイナス政策金利を導入したことで、投資家は改めて世界的な金融緩和局面の継続を認識している。日本でも7月10日、3カ月物国庫短期証券が取引時間中とはいえ、00年代前半以来となるマイナス金利を一時付けた。

 国債取引に詳しい金融アナリストの久保田博幸氏は、「物価が予想以上の上昇基調になっている日本でマイナス金利を付けたのは、投資家の意識が世界的な金融緩和局面の長期化に傾いているからではないか」と指摘する。米国を中心にマネーが動く構図は今後も続きそうだ。