2014年

7月

29日

特集:あなたの土地の相続増税 2014年7月29日号

 ◇「売るしかないのか」 あきらめ漂う郊外地主

 

桐山友一

(編集部)

 

「やっぱり土地を売るしかないんですかね」──。首都圏郊外で農業を営む50代後半の男性Aさんがため息をつく。

 Aさんの父は現在、90歳を超えた。12カ所に分かれた土地計1ヘクタール超は、すべて父名義だ。この土地のうち、3分の2は貸倉庫や駐車場などとして賃貸。残り3分の1を農地として保有する。父の資産のほとんどが土地で、これら土地の相続税評価額は約7億円にものぼる。もともと、ほとんどが農地だったが、転機となったのは1970年代。急速に都市開発が進み、その後に鉄道路線も開通した。時代に乗って農地を転用すると、その資産価値が大幅に上昇した。

 

 ◇「納税資金」が不足

 

 Aさんが懸念するのは相続税額だ。被相続人(亡くなった人)に配偶者がいる「1次相続」なら、相続税が大きく軽減される配偶者控除が適用できる。しかし、Aさんの母はすでに17年前に亡くなり、相続人はAさんやAさんの妹ら4人。父が亡くなれば配偶者のいない「2次相続」となり、相続税額の試算は1億3000万円を超える。さらに、2015年からは相続増税も控える。基礎控除が「5000万円+1000万円×(法定相続人数)」から「3000万円+600万円×(法定相続人数)」に引き下がる影響で、相続税額は1500万円ほど増える見込みだ。

 しかし、Aさん一家が持つ現金など金融資産は1億円程度。もし、相続が発生すれば、金融資産をすべて納税しても不足する。Aさんは駐車場として活用している土地2筆のうち、1筆を売却するしかないとあきらめかけている。駐車場の土地1筆は時価5000万円程度だが、「いざ売りたいときに思うような価格で売れるのかどうか。買い主側に足元を見られそうで心配です」。そもそも、Aさんの家系が代々、引き継いできた土地。できれば売りたくないのは山々だ。

 

 ◇相続財産の半分は土地

 

 国税庁が昨年12月に発表した相続税の申告状況(12年分)によると、相続財産のうち「土地」は45・9%と、他の財産に比べて最も多い。地価の高かった94年には、実に相続財産の7割を超えていた。その比率は年々低下してはいるものの、土地は依然として日本人の資産の多くを占める。相続増税はまさに「土地」を直撃する形だが、カギとなるのは土地をいかに活用して収益を生み、相続税評価額を引き下げるかという観点だ。

 Aさんの父の自宅には毎日のように、不動産開発業者の営業マンが飛び込みで訪れる。土地の相続税評価額を下げる節税策として、賃貸アパートやマンションの建築を勧めるためだ。担当する地域分けがないのか、同じ業者でも午前と夕方で別の営業マンがやって来ることもある。ただ、Aさんも土地の評価額を何とか下げようと、すでに8年前に父の名義で介護福祉施設を建設。社会福祉法人に賃貸しているが、借入金の返済がまだ残っている。空室が目立つ近隣のアパートを見ると、とても新たな土地活用には踏み切れそうにない。

 野村総合研究所の予測では、13年度に98・7万戸だった国内の新設住宅着工戸数(賃貸含む)は、25年度には62万戸と4割弱も減少する。人口減少や成長率の低下などが主な背景だ。かつては土地活用の“王道”だった賃貸アパート・マンション経営だが、今後もこれまでのように通用するとは限らない。加えて、ここ最近の建築費の高騰も、収益見通しを一層厳しくさせる。不動産コンサルティング会社、ハイアス・アンド・カンパニー(東京)の川瀬太志常務は「土地オーナーが開発業者や不動産管理会社にお任せの姿勢では、不測の事態に陥る可能性が高くなる」と指摘する。