2014年

7月

29日

経営者:編集長インタビュー 水田正道 テンプホールディングス社長 2014年7月29日号

 ◇事務系派遣も常用雇用を増やす

 

 創業者の篠原欣子会長から2013年6月に経営を引き継いだ。人材紹介大手インテリジェンスの買収により、売り上げ規模で業界3位以下を大きく引き離し、2位に浮上した。

 

── 人材市場の需給が逼迫(ひっぱく)しています。足元の環境は。

 

水田 堅調ですが、我々にとって一番良いのは需要と供給のバランスが一致している状態で、今の状況が良いとはいえません。求人案件に対して人材を探すのに時間がかかるようになってきており、当社の生産性は低下しています。

── 求人情報が旺盛なことがむしろ利益圧迫要因になっている?

 

水田 そうです。マーケットの需要が増えれば業界の利益も上がるという構造ではありません。業界が抱える構造的な宿命だと思います。

 最も需要が沸騰しているのはスマホ関連のエンジニアですが、簡単に人材は集まりません。育成にも時間がかかります。金融関係も需要がありますが、資格を持った経験豊富な人材が不足しています。

 

 ◇買収で人材紹介を強化

 

── 13年3月に同業のインテリジェンスを買収しました。

 

水田 人材紹介に強いインテリジェンスが傘下に入りサービスの幅が広がりました。取得金額は514億円。当社にとって初めての大きな買い物です。乾坤一擲(けんこんいってき)の決断でした。

 人材紹介はリクルートとインテリジェンスの2強体制でした。当社も紹介事業を強化しようとしましたが失敗続きで、人材派遣の一本足打法になりつつありました。

 

── 派遣と紹介は別物ですか。

 

水田 似て非なるビジネスで、派遣の延長線上で紹介をやってもなかなかうまくいきません。派遣はスタッフが就業した後も継続的なフォローが必要な農耕型。一方、紹介は入社時点で案件をいったんクロージングするので、常に次の案件を探し続ける狩猟型といえます。派遣と紹介、それぞれのビジネスに合ったやり方があるので、今後も別会社のまま、営業も別々に行います。

 

── 全く異なる二つの会社をどう経営していきますか。

 

水田 各社が主体的に取り組んでいくのが大原則ですが、求心力も必要なので「はたらく歓びを、いっしょにつくる」というスローガンを設定しました。ここだけはグループ共通の目的にしたいと思っています。

 

 労働者派遣法の改正が検討されている。改正案では業務を問わず派遣労働者が派遣先で働ける期間を最長3年間に統一する。一方で3年を超えた場合は別の派遣先を探す、派遣先に直接雇用を申し入れる、派遣会社の無期雇用社員とするなどの措置を派遣会社に義務づける。派遣会社は、派遣労働者の雇用に対して従来よりも重い責任を負うことになる。

 

── 労働者派遣法の改正案は廃案になりましたが、秋の臨時国会で再提出されると見られています。

 

水田 派遣法は企業が正社員を派遣社員へと代替するのを防ぐことを大前提としています。一方で派遣スタッフの雇用を安定化しなければいけない。矛盾しています。雇用を安定化させるには、我々が雇用責任をまっとうするしかありません。これが法改正の一番のポイントです。

 我々が常用雇用(正社員などの無期雇用)すれば派遣スタッフは期間制限を受けないので、雇用は安定します。人材移動のミスマッチ解消にも貢献できます。

 

 ◇雇用安定化に「覚悟」

 

── 常用雇用を増やすことは負担になりませんか。

 

水田 雇用責任は重いですが目をそらすわけにはいきません。我々がやらなくても他社がやるでしょう。現状では技術系は常用雇用が多いですが、事務系はほとんどが登録制の有期雇用なので、そこの常用雇用を増やすことになります。

 

── 覚悟が問われますね。

 

水田 人材の稼働率が一番大きな課題です。対策の一つとして、事務センターなどのBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業の受託に力を入れています。何かあった時、そこに優先的に常用のスタッフを派遣することが可能になります。事務系は女性が中心なので、出産・育児など多様性への対応も課題です。

 生産性の向上も求められます。改正派遣法は大手に有利といわれていますが、問われるのは企業規模よりも収益性です。業務効率の向上に努め、低コスト体制を徹底していきます。経営努力と営業努力なくして常用雇用はできません。

 

── 技術者の雇用は。

 

水田 技術系の派遣スタッフはほとんどが常用雇用です。この分野は教育投資が重要なので、新卒を採用して社内で教育します。キャリア形成を積み上げてできるかぎり長く当社で働いてもらうことを重視します。

 

── 海外展開は。

 

水田 中国、東南アジアで拠点整備をしています。ライセンスの問題があるので紹介事業が中心です。中期経営計画では17年3月期に売上高5000億円、営業利益300億円としているので、海外部門も影響力のある数字が求められます。(Interviewer=横田恵美・本誌編集長、構成=花谷美枝・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A テンプスタッフで朝から晩まで猛烈に営業していました。当時、当社の知名度は低く「郵便局ですか」といわれたこともありました。

Q 最近買ったもの

A 書籍、雑誌をよく買います。歴史小説が好きで、特に城山三郎がお気に入りです。禅に関する本もよく読みます。

Q 休日の過ごし方

A 自転車で近隣の日帰り温泉に行ってリラックスしています。帰宅時に汗をかくので、結局自宅でまたシャワーを浴びることになります(笑)。

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 ■人物略歴

 ◇みずた・まさみち

 1959年生まれ。神奈川県出身。84年青山学院大学経営学部卒業、リクルート入社。88年にテンプスタッフ入社。常務取締役、代表取締役副社長を経て2013年6月から現職。55歳。