2014年

8月

05日

特集:強い大学 Part1 大学改革と就職力 2014年8月5日特大号

 ◇グローバル人材か、地域人材育成か 改革に動く大学の競争と挑戦

 

(編集部)

 

「上位100位に入った日本の大学は東京大13位(前年14位)、京都大16位(同15位)、慶応大34位(同70位)、早稲田大40位(同100位圏外)、大阪大43位(同35位)、東北大72位(同95位)、九州大92位(同100位圏外)、東京工業大96位(同100位圏外)」──。サウジアラビアの世界大学ランキングセンターが7月15日公表した「2014年度世界の大学トップ1000校ランキング(CWUR)」で、京都大と大阪大以外は昨年より順位を上げた。

 世界の主流の大学総合ランキングとされる英高等教育専門誌の「THE 世界大学ランキング」、英大学評価機関の「QS世界大学ランキング(QS)」、中国の上海交通大学の「世界大学学術ランキング(ARWU)」と比べ、CWURは企業家の人数も評価項目に加える。英語の論文数や外国人教員数など、英米系が有利とされるTHEやQSと異なる角度の分析で、12年からランク付けを始めた。大学間の国際競争力への関心の高まりとランキングそのものの多様化を反映した動きだ。

 

 ◇アジア勢の追い上げ

 

 実際、昨年のTHEで上位100位に入った日本勢は東京大23位(同27位)、京都大52位(同54位)だけで、共に前年より順位を上げた。

 一方、昨年のQSで上位100位に入った日本勢は東京大32位(同30位)、京都大35位(同35位)、大阪大55位(同50位)、東京工業大66位(同65位)、東北大75位(同75位)、名古屋大99位(同86位)。東大など4校が前年より順位を下げ、CWURで上位だった慶応大、早稲田大は100位圏外だ。調査主体により順位はまちまちにもかかわらず、各校は一喜一憂する。

 大きな理由は、大学ランキング上位校に世界の優秀な学生が集まるためだ。THEでも、東京大はアジアではトップなものの、シンガポール大学や香港大学、ソウル大学、北京大学などアジア諸国の有力大学に追い上げられている。

 また、韓国や中国が世界の有力大学への留学生を増やしているのとは対照的に、日本は減少傾向にある。10年前のピーク時に8万人を超えていた日本からの海外留学生は足元では、6万人を切っている。特に米国の大学への留学生は10年前の半分以下の約2万人にまで落ち込んだ。

 人口が日本の半分以下の韓国の海外留学生数が日本の2倍に達し、中国に至っては10倍である。また、米マサチューセッツ工科大学などの有力大学は、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)はじめ新興国に留学生を積極に送り出している。

 グローバル化が加速し、政治的にも経済的にも新興国との交流が重要となる中で、有能な若者を現地で生活させて、実体験を積ませる狙いだ。さらに留学先では、留学生同士の世界的なネットワークが形成され始めている。欧米人とアジアはじめ新興国の優秀な人材が大学生の頃から人脈を構築する中に、日本人がいない状況は将来的に外交や通商、ビジネスにおいて将来の禍根となりかねない。

 日本の大学では多様性を生かした授業は望めないと、高校を卒業後、すぐに米ハーバード大学に進学する学生も現れた。開成高校(東京都)を今春卒業した大柴行人さんは、その一人。「表現力がなければ、何も考えていないのと一緒。その力を磨ける場所に行きたいと考えてハーバード大を目指した」と語る。

 優秀でやる気のある若者が日本の有力大学ではなく、世界を目指す時代なのだ。

 こうした現状に政府や民間企業は危機感を募らせる。

「世界のトップ大学と同じ土俵で戦えるようにしたい。意欲ある大学への支援は惜しまない」

 下村博文・文部科学相は大学に競争を促し、世界に通用するグローバル人材の養成に向け国を挙げて支援すると訴える。文科省は、日本の大学の国際競争力を強化し、グローバル人材の養成機関にしようと、「スーパーグローバル大学創設支援」を今年度からスタートさせた。

 これは、世界トップレベルの教育・研究を行う大学(トップ型、10大学)や国際化を牽引(けんいん)するグローバル大学(グローバル牽引型、20大学)を選定して、そこに重点的に支援する制度だ。国公立私立大から104校の応募があり、現在選定中である。

 下村文科相は、「世界大学ランキングトップ100入りを10大学以上にしたい」と意気込みを語る。

 

 ◇秋入学構想から改革へ

 

 大学側も政府の危機感や企業の期待感を受け、グローバル人材の養成に動き始めている。

 東京大学の濱田純一総長は、グローバル人材の養成について「大学でしっかり教育をやるので、企業や国にはそのためのリソース(資源)の提供をお願いしたい」と要望する。

 濱田総長が12年4月にぶち上げた「秋入学構想」は事実上、頓挫したが、構想を打ち出したことで、改革に対する東大教職員の意識は格段に高まったという。難しいと言われた2学期制から4学期制への移行はほぼ終えた。これによって留学先からの帰国後、元の大学の授業に復帰しやすくなるなど、国内学生の海外留学や外国人留学生の受け入れがしやすくなった。

 慶応義塾大学は、双方の学位が取得できるダブルデグリープログラムを世界の23大学との間で実施している。さらに香港大学と韓国の延世大学の三つのキャンパスで1年間学ぶプログラムを導入。清家篤塾長は「国内の学生と外国人留学生が一緒に学び、共同作業することで将来言語や文化を異にする人たちと仕事をする素地が育まれる」と期待する。

 早稲田大学では学生が留学しやすいように、13年度から4学期制を導入した。加えて留学先の単位を早稲田大の単位としても認めている。今年4月には、外国人留学生の受け入れをしやすいように、中野国際学生寮を新設した。グローバル人材養成に向けて「インフラ整備をしないのは、(大学の)怠慢」と、鎌田薫総長は言い切る。

 しかし、グローバル化に積極的に対応する有力大学がある一方で、これまでの大学改革はスピード感を感じさせなかった面が否めない。

「大学は企業が求める人材を養成できていない」「企業が新卒を鍛え直し、人材を育成してきた」といった経済界の不満は言われて久しい。学長以上に強い権限を握るとされる「教授会」が、時代に見合った学部の統廃合などの改革を阻んできたという批判の声は根強くあった。

 

 ◇立大経営学部の挑戦

 

 大学が改革に後ろ向きな「象牙の塔」と揶揄(やゆ)される中で、いま注目を集めているのが立教大学経営学部だ。

 06年4月に新設されたこの学部では、1年生のほぼ全員が「ビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)」を履修して、この中で「権限がなくても発揮できるリーダーシップ」の養成を行っている。

 具体的には同学部と提携する企業から課題をもらい、それを5人ぐらいのグループで解決策を考える課題解決型のグループプロジェクトだ。学生はBLPと並行して学ぶ経営学の専門科目で得た知識を活用したり、関係省庁や企業にヒアリングなどの調査をして、課題解決に向けた具体的な提案にまとめる。それを教員や提携企業の担当者の前でプレゼンテーションし、質疑に答える。

 ただし、重要なのは提案の中身やプレゼンの仕方ではない。プレゼン後の授業で、グループワークを通じて学生一人ひとりが当初立てた目的に対して結果はどうだったか、主体的に行動できたかを「振り返る」ことが最も重要だ。この反省を踏まえて、後期にはディベートなどを通じて論理的思考力を養う。

 課題に対して、主体的に取り組むことの大切さを入学直後に身をもって体験できるBLPの効果は、すぐに表れた。BLPを受けた経営学部の学生と受けていない別の学部の学生とでは、1年の後期からの授業に取り組む姿勢が明らかに違うと教授陣から高い評価を得たのだ。

 その効果は就職活動においても顕著に表れた。有力企業からの内定者が増えると同時に、採用企業から行動力やコミュニケーション能力の高さが評価されるようになった。

 改革に取り組むのは、首都圏の有力大学ばかりではない。人口減がすでに始まっている地方でも、独自路線でたくましく生きる大学がある。鍵となるのは就職だ。全ての大学がグローバル人材を養成する必要はない。地域経済・社会を担う人材育成に地道に取り組む大学である。

 就職率9割以上で、しかも3年以内の離職率が7%という驚異の実績を誇るのは、福井大学だ。全国から250社の人事担当者が来校し、学生と面談。お互いが気に入れば、学生が本社を訪問したり、工場を見学するという地道できめ細かな就職支援が高い実績の背景にある。

 また、OBやOGを積極的に大学に招き入れて、就職活動の体験を学生に伝えさせるという地道な取り組みにも余念がない。

 地方の私立大でも介護や福祉、教育などに特化し、地元企業との連携を強めることで、高い就職率を上げる大学が目立つ。知名度や偏差値では、首都圏の有力大学には遠く及ばないものの、就職という実績では決して引けをとらない大学が地方にはたくさんある。

 大学通信が偏差値が低く入りやすいが、就職率が高いという「お値打ち大学」を指数化(就職率-偏差値)して割り出したところ、文系・理系ともにランキング上位を占めたのは地方の私立大学だった(40~41ページ)。文系では福祉と教育系、理系では理工系に加えて看護や保健医療など医療系学部の指数が高く、お値打ち感が高いという結果が出た。

 グローバル化への対応や少子化という逆風に、日本の大学が立ち向かっている。