2014年

8月

05日

経営者:編集長インタビュー 中田卓也 ヤマハ社長 2014年8月5日特大号

 ◇攻めのM&Aで事業を強化

 

── ピアノの市場環境は?

中田 当社のアコースティックピアノは半分以上が中国で売れていて、前期までその中国で2ケタ成長が続いていました。しかし政府の倹約令の影響でここにきて成長が足踏みしています。世界的にもアコースティックピアノの成長はもはや期待できません。一方で比較的安価で場所をとらない電子ピアノは、先進国、新興国を問わず伸びています。

── 中国でピアノは地元メーカーに次ぐ2位。今後どう戦いますか。

中田 三つあります。第一に価格競争をするつもりはないが、コストパフォーマンスは意識していく。第二に電子ピアノに力を入れる。第三にピアノ一本足打法を改め、ギターや音響機器にも力を入れる、です。

── 電子ピアノでヤマハらしさをどう出しますか。

中田 電子ピアノでも当社は世界シェアの約半分を占めるトップ企業です。電子といっても、鍵盤をたたき、さまざまな機構が働くところまではメカであり、鍵盤を知っているヤマハの強みが出ます。最近は、アコースティックと電子の技術を融合したハイブリッドピアノが音楽家から高い評価を受けています。

── 前期は業績好調でしたが、為替効果も大きかった。

中田 確かに台数ベースでは微増に終わりました。その大きな理由は、インドネシアなどを除き新興国市場が苦戦したことです。一方で欧米市場は回復しました。長期的には新興国市場が有望ですが、今期は、新興国は堅めに見ています。

 

 ◇エレキギターと電話会議

 

── ピアノ以外の他の楽器は?

中田 管楽器も世界シェアが約3割ありますが、ここも大きな成長は望めません。販売台数を追うよりコストダウンを徹底して収益性を上げていきます。一方、楽器市場で最も大きな塊であるギターは当社の弱い分野です。シェアは10%未満で、特にエレキギターが足を引っ張っている。逆に言えば成長余地があるということです。そこで今年1月、ギター周辺機器の開発・製造を手掛ける米ラインシックス社を買収しました。世界に先駆けてアンプシミュレーターをつくった会社です。アンプシミュレーターとは、1台でいろいろな音色(おんしょく)をつくりあげられる機器で、ラインシックスのブランドはお客さんに深く浸透しています。

 今回の買収でアンプのシェアは確実に拡大します。さらに同社は、ギター本体にいろいろな音色を出せる機器を内蔵したエレキギターも出しました。これを今後はヤマハがOEM(相手先ブランドの製品製造)供給することも考えられます。

── 楽器以外に電話会議システムなども手掛けています。

中田 ヤマハの歴史を振り返ると、生産技術や製造技術を掛け合わせて新しいビジネスに乗り出してきました。オートバイや家具がそうです。ピアノをつくるための木工技術があるなら家具がやれるだろうと。こういう事業発展も大切ですが、今後は、お客様の側から見た隣接地域に進出して、お客様にワンストップでトータルソリューションを提供していきたいと思っています。その一つが「電話会議システム」です。

── といいますと?

中田 当社はSOHO(小規模事業者)向けルーターではナンバーワンのシェアがあります。そこから隣接領域を探していたら電話会議システムがあったのです。電話会議は通信機器のルーターとは親和性が高い。電話会議システムとルーターをセットで販売するようになりました。

 今年3月には電話会議システムを手掛ける米レボラブズ社を買収しました。同社は無線LANの技術に秀でている。当社が小規模で有線の電話会議システムが強いのに対して、レボラブズ社は、中規模で無線という特徴があり、補完関係があります。我々の業務用音響機器の技術を組み合わせると、大規模イベントへの展開も考えられます。

 

 2013年4月からの3カ年計画で、同社としては初めてM&A(合併&買収)の特別投資枠300億円を設定し、ラインシックスやレボラブズの買収で約200億円を使った。次は商業施設向け音響システムの会社を狙う。

 

── M&Aにあと100億円投入する?

中田 300億円は予算ではなくて、それぐらいの規模でM&Aを考えているという我々としての表明でした。手を上げたことで、いろいろな会社をご紹介いただけた。いい会社があれば、今後も金額に関係なく検討します。

── 生産拠点や販売拠点の統廃合を進めてきました。あらためて見えてきた課題は?

中田 音楽教室はずっと同じところに立地し、地域ごとの人口構成の変化に必ずしも対応できていませんでした。これらの課題がトップに上がる体制にしたので、今後はしっかり手を打っていきます。

 昨年8月にはピアノや管楽器など製品別だった事業部制を廃止して、製造部、開発部など機能別の体制にしました。ピアノ、ギターなど製品別の組織の殻を破り横のつながりを強化することで、我々の技術が有効活用できます。そこから新たな価値が生み出せるはずです。(Interviewer=横田恵美・本誌編集長)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 30歳で平社員だったにもかかわらず、シーケンサー(自動演奏装置)の開発リーダーになりました。最初は9人の組織が半年ごとに倍になっていき、3年ぐらいで100人の組織になっていました。

Q 最近買ったもの

A スーツ。社内報をフルカラーにするというので、紺やライトグレー、ストライプなど色や柄の違うものを数着買いました。

Q 休日の過ごし方

A ギターを弾いたり模型をつくったりしています。20本近く持っているギターの半分は、研究目的で自腹で購入した他社製品です。カメラも好きで、室内でシャッターを切る感触を楽しんでいます。

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 ■人物略歴

 ◇なかた・たくや

 岐阜県出身。1981年慶応義塾大学法学部卒業後、日本楽器製造(現ヤマハ)入社。2006年執行役員。取締役執行役員、ヤマハコーポレーションオブアメリカ取締役社長などを経て13年6月から現職。56歳。