2014年

8月

19日

ワシントンDC 2014年8月12・19日合併号

 ◇大統領選候補のヒラリー氏 その「選択」に高まる関心

 

篠崎真睦

(三井物産ワシントン事務所長)

 

 ヒラリー・クリントン氏(66)が6月に国務長官時代の回想録『困難な選択』を出版した。ワシントンでは今、彼女の生い立ち、性格、行動様式に至るまで、あらゆる分析がなされている。

 1947年シカゴ生まれのヒラリー氏は、名門ウェルズリー大学を首席で卒業。エール大学ロースクールで出会ったビル・クリントン氏と75年に結婚し、アーカンソー州に移り住んだ。その後の大統領夫人、ニューヨーク州上院議員、国務長官への道のりは周知の通り。華々しい経歴の裏には、伝説的とまでささやかれる勤勉さ、失敗にめげない精神力、政界の力関係を瞬時に察する「策士」としての素質が挙げられる。

 長年の政治活動で築かれた名声や、政治・産業界とのつながりを武器とするヒラリー氏は、2016年大統領選挙の民主党有力候補と目されている。当の本人はまだ出馬表明していないが、舌戦は早くも始まっている。

 というのも、最近になってヒラリー批判が多く見受けられるようになったからだ。アーカンソー州時代の不動産投資や商品先物取引に関するスキャンダル、はてはカリスマ的なビル氏や雄弁なオバマ大統領に比べるとガリ勉なだけ、等々。

 だがこれらの批判は、同氏を大統領選における強敵とみなす共和党によるネガティブキャンペーンの一環であるとの見方が強い。

 

 ◇最大の敵は現政権への失望

 

 ヒラリー氏が出馬表明を延期している理由の一つが、今秋に誕生する予定の初孫の存在だ。「わくわくする。本当に待ち遠しい」と述べ、一人娘の第1子誕生に向け、家族との時間を確保したいと語る。

 とはいえ、民主党の本命候補であることに変わりはないだろう。政治リスクを分析するユーラシアグループのウェスト氏は、民主党はヒラリー氏に対し一刻も早く決断するよう迫るはずだと予想する。

 もちろん、ヒラリー氏が08年の予備選で勝利は必至とされながら、彗星(すいせい)のごとく現れたオバマ現大統領にしてやられた経験や、選挙時は69歳となる同氏の健康問題をメディアや共和党は忘れていない。だが、今日の民主党には彼女に匹敵する人材がいない。対する共和党も候補者選出に困難な状態だ。健康問題にしても08年の共和党大統領候補だったマケイン上院議員は当時72歳だった。

 こうした環境下で、ヒラリー氏の最大の敵は、現オバマ政権に対する国民の失望だと指摘されている。「オバマ第3期政権」とみなされないように距離を取りつつ、国務長官として仕えた同政権に忠誠心を示す綱渡りが必要、というのだ。

 米国史上初の女性大統領が誕生したら、この国はどう変貌するのか。ワシントンでの長年の経験を生かし、共和党員をもうまく取り込んだ議会主導の政治が復活するのではないかと期待の声が上がる。「弱腰」と非難されるオバマ外交に比して、ヒラリー氏はアジア関係強化を念頭に軍事力行使もいとわない強気の方針と指摘する向きもある。

 また、その中道左派的な傾向において、ビル氏やオバマ大統領と共通項が多い。だが、90年代にビル氏が推進したグローバル化や技術革新の後、国内の中低所得者層は職を失った。実質賃金も低迷を続ける。夫同様の政策は受け入れられない。

 夫ビル氏はしばしば自己抑制の欠如によって失敗した。オバマ大統領は議会への無関心があだとなっている。ヒラリー氏の方針転換を行わない頑固さと、揺るぎない推進力。この表裏一体の彼女の姿勢が、その成否をどう左右するのか。米国民の関心は高まる一方だ。