2014年

9月

02日

経営者:編集長インタビュー 山海嘉之 CYBERDYNE社長 2014年9月2日号

 ◇「重介護ゼロ」社会を創る

 

 ロボット工学者の山海嘉之・筑波大学大学院教授を中心に設立されたCYBERDYNE(サイバーダイン)は、体が不自由な人たちや、その介護に当たる人などが身に着けるロボットスーツ「HAL(ハル)」を開発した。HALは手足や腰などに装着すると、体を動かそうとする脳から神経を経て筋肉に至る微弱な生体電位信号をとらえ、人の意思に応じて動作を助ける。運動意思にしたがって動くので、高齢者、病気やケガで手足が思うように動かない人、また力仕事を必要とする介護者などに大きな需要が見込める。医療、介護・福祉分野で、世界的に注目を集めている。

── HALを開発しようと思った きっかけは。

山海 まず、「社会が直面する課題をテクノロジーで解決する」という理念がありました。高齢化による人間の機能の低下をテクノロジーで補おうとしたとき、介護される側とする側、両方が使える技術としてHALを開発しました。最終的に「重介護ゼロ」社会を創ることが狙いです。

── 事業化で大変だったことは。 

山海 最初に経営のプロを雇ったりしたのですが、当時の証券会社や監査法人から部局化を強く勧められ、何をするにも縦割りの部局ごとの承認が必要な大企業的な組織体制となってスピードが落ちました。ベンチャーはフットワークの軽さが重要なのに、古い会社構造しか知らない人たちは、いきなり「大企業病」に感染させようとします。結局、プロジェクト単位で私と直結した体制を組むことで、スピードが上がりました。それまでは4年かかっても取れなかった医療機器の国際規格が、8カ月で取れました。

── 今年3月に東証マザーズに上場しました。その前の資金調達は。

山海 設立から2年後の最初の資金調達段階では20人弱の投資家と会い、日本初の無議決権株式のみの第三者割当増資を実施しました。その後も、同様の種類株式を発行して66億円もの外部資本を集めることができました。私たちの理念や技術を理解していただけたからでしょう。

 

 HAL(医療用)は2013年、世界的な第三者認証機関のテュフ・ラインランドから欧州における医療機器認証を取得し、欧州連合(EU)全域で販売が可能になった。公的労災保険の適用が始まったドイツでは、機能改善治療事業を展開する。手術支援機器ではなく、ロボット治療機器としての医療機器認証は世界初。一方、日本では治験中で、医療機器としては未承認。現在は立ち座りや歩行が不自由な慢性期の人を対象とした「HAL福祉用」のレンタル事業(160以上の病院・福祉施設で、350台以上が稼働中)を展開する。

 

── 日本より先に欧州で医療機器認証されました。

山海 医療産業で世界のトップを走っているのはドイツと米国です。新たな医療産業は常に両国が牽引(けんいん)しています。一方、日本の医療産業は6~9位を行ったり来たりしていて先進国の医療機器を焼き直したものが大半。新しい機器は治験が必要ですが、それに慣れていないのです。今、サイバーダインは医療ロボットの国際規格を議論する委員会の専門員になっています。そのため日本より先に欧州で医療機器認証を取得しました。医療ロボットなどの分野では、ゼロから安全評価方法も含めて規格を作っているので、認証機関も当社に研修に来るほどです。

── 日本での承認が待たれます。

山海 承認を得るための過程で、病院で臨床データを集めなくてはなりません。しかし、医療機器でないものは、基本的に病院に持ち込めません。そのためにHAL福祉用を準備し、臨床データを収集できるようにしました。国内では神経筋難病疾患の方に対して、昨春からHAL医療用を使った医師主導治験が始まりました。治験実施の終了後、治験データの解析を終えて、この冬には承認申請を行えればと思います。

── レンタル方式にした理由は。

山海 黎明期の段階では、HALの進化は早いので、導入してくれる方々のために、タイミングを見計らってHALをアップデートできる体制が良いと考えました。将来的にも常に最新版にしながら事業展開が可能となります。

 

 ◇HAL導入に動く欧州

 

── 今期は赤字予想です。

山海 今は事業基盤づくりが大切です。ドイツでの事業展開でも、新たに基盤づくりが進行中です。14年にドイツの公的労災保険機構から、傘下の九つの中核病院との包括契約の申し出があり、すでに、ドイツ側で契約締結の処理が進んでいます。これらを拠点病院にして、各エリアの一般病院と連携を進め、ドイツ全域に展開していく戦略です。世界の医療産業のフロントランナーであるドイツが動くということは、世界各国が動くということです。イタリアやスペインも、HALの導入に向けて動きが活発化しています。また、7月に米食品医薬品局(FDA)に対して、医療機器申請を開始しました。来年の夏ごろには、と期待しています。

── 今後の目標は。

山海 重介護ゼロ社会を実現するための新産業創出拠点を準備し、それによって今の消費型経済から「社会課題解決型経済」にシフトさせていきたいと思います。(Interviewer=横田恵美・本誌編集長、構成=大堀達也・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんな研究者でしたか?

A 社会課題解決のための革新技術づくり、それ自体を新産業にすること、そして手探りで未来開拓ができるチャレンジャーの育成を始めたのがちょうど30歳でした。

Q 最近買ったもの

A 人気アニメ「エヴァンゲリオン」に出てくる組織「NERV(ネルフ)」の携帯電話カバーです。ドイツ語のネルフは「神経」という意味です。

Q 休日の過ごし方

A 休日はありません。家に帰っても疲れ切って床で寝てしまいます。布団で寝たのはこの15年で十数回。今は気迫で生きています(笑)。

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 ■人物略歴

 ◇さんかい・よしゆき

 筑波大学大学院工学研究科(システム制御工学分野)博士課程を修了後、1987年筑波大学講師。2013年同大学機能・工学系(現システム情報工学研究科)教授。04年サイバーダインを設立し社長就任。14年3月、東証マザーズ上場。56歳。