2014年

9月

09日

ワシントンDC 2014年9月9日号

 ◇「イスラム国」の脅威高まる 迫られるシリアでの軍事行動

 

今村卓

(丸紅米国会社ワシントン事務所長)

 

 米軍は8月8日から、イラク北部でイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」への空爆を開始した。孤立していた少数派ヤジディ教徒を救い、クルド人自治区の中心都市であるアルビルへの進撃を阻止するなど一定の成果を上げた。しかしオバマ政権は、この「緒戦の勝利」がかすむ現実に直面している。

 イスラム国の勢力は100回近くに上る空爆でも弱体化しないだけでなく、シリア国内で拘束していた米国人ジャーナリスト、ジェームズ・フォーリー氏を殺害するという米国に対する明確なテロ行為に出た。資金と優れた軍事能力を備えた組織であり、米国にとって差し迫った脅威であると自覚させられたといえる。

 オバマ政権は、米国や欧州を標的にテロ攻撃を仕掛ける恐れもあるイスラム国を早急に封じ込めようと決意を固めている。8月初めまでイラク国内での限定的な空爆にさえ慎重だったオバマ大統領は、「21世紀にイスラム国の居場所はない」「米国民を守るために無慈悲になる」と明言している。政権内部では、その壊滅のため、シリアにあるイスラム国拠点の空爆も可能性を排除していない。

 米議会も米国世論も、イスラム国が自国への脅威である以上、シリアでの軍事行動に理解を示すだろう。しかし実際の行動はかなり難しい。

 

 ◇イラク空爆と違う難しさ

 

 一つは、シリアが全面的な内戦状態にあり、米軍にとって「頼りになる友軍」がいないことである。イラクでは、政府軍とクルド人部隊が米国の助けを得て、イスラム国を追い立てるという明快な構図がある。しかも、両者は米国の軍事顧問の助言、武器供与などを受けて、イスラム国を上回る軍事力を有していた。

 これに対してシリアでは、アサド政権の政府軍と反体制過激派のイスラム国、反体制穏健派が三つどもえで戦っている。米国が支援する反体制穏健派は弱く、そのテコ入れもうまくいっていない。イスラム国による奪取を恐れて、武器供与も限定的にせざるを得ない。

 もう一つは、シリアにおける米国の諜報体制の整備の遅れだ。空爆で成果を上げるには、爆撃対象となる地点や人物について詳細かつ大量の情報の事前入手が欠かせない。イラク北部での空爆が成果を上げられたのも、それが可能だったからだ。一方、シリアでは協力者も少なく、情報不足が顕著だという。

 米国政府によるフォーリー氏救出作戦の失敗もそれが原因との指摘もある。オバマ政権内部からは、空爆に必要な情報を入手するための諜報体制構築はシリアでも可能だが、数カ月以上の時間が必要との見方が示されている。

 他にも制約がある。米国と敵対する勢力に対空攻撃能力がないイラクと異なり、シリアにはアサド政権の政府軍にその能力がある。米軍によるシリア国内の情報収集を恐れるアサド政権が、自国領空への米軍侵入を許すはずがない。オバマ政権もアサド体制の存続容認など米国内の反対が強すぎて政治的にあり得ない。「敵の敵は味方」にはならないのだ。

 こうしてみれば、イラクとシリアの国境はイスラム国には存在しないが、米国にとっては明確に存在すると分かる。とはいえ、イスラム国が差し迫った脅威である以上、オバマ政権には1年前と同じくシリアに対する軍事行動を回避するという判断はあり得まい。米国にとっての脅威のレベルが格段に大きいからだ。

 当面はシリア政府軍の対空攻撃能力を回避できる範囲での空爆など、イラク以上に限定的な軍事力行使にとどまる可能性が高い。ただ、時間をかけても、オバマ政権はイスラム国の壊滅を目指すだろう。