2014年

9月

30日

ワシントンDC 2014年9月30日特大号

 ◇オバマ氏が避けたかった「戦時大統領」の呼び名

 

及川正也

(毎日新聞北米総局長)

 

 米国で「戦時大統領」と言えば、英国との独立戦争を勝ち抜き、後に初代大統領に就任したワシントン、奴隷解放を巡る南北戦争を指揮したリンカーン、第二次世界大戦で自由と民主主義を守ったルーズベルトが有名だ。

 戦端を開いた英雄たちとは異なり、「戦争を終わらせる」と言って就任し、武力を振りかざす手法を嫌うオバマ大統領からは縁遠い存在のようにみえる。だが、そのオバマ大統領が新たな対テロ作戦の開始を宣言した。まさしく「戦時大統領」へと変貌しようとしているのだ。

「戦争の終わりにいつも行われることだ。ワシントン、リンカーン、FDR(ルーズベルト)のときもそうだった。すべての戦闘状況にあてはまることだ」

 今年6月、ボウ・バーグダール陸軍軍曹の解放に際しオバマ大統領はこう語った。軍曹は5年にわたりアフガニスタンの武装勢力タリバンの捕虜となっていた。解放は、キューバのグアンタナモ米軍基地に拘束していたタリバン兵5人の釈放との交換だったことが賛否を呼んだが、むしろ「戦争の終わり」という表現が耳目を集めた。

 その後の8月と9月、シリアとイラク国境で勢力を広げるイスラム過激派組織「イスラム国」が、シリア内戦取材中に拘束されたとみられる米国人ジャーナリスト2人を相次いで殺害し、その映像を公表。ブッシュ前政権のラムズフェルド元国防長官が言った「テロとの長い戦い」が終結から程遠い現実を突きつけた。

 米国人の相次ぐ殺害は、オバマ政権をいやが応でも、イスラム国掃討作戦の立案に追い込んだ。「拘束されたジャーナリストらの救出作戦を夏に実施したが、失敗した」と米政府は明かしている。オバマ政権の失態に追い打ちをかける「斬首映像」は、政権だけでなく、米国民世論の敵愾心(てきがいしん)にも火を付けたのだ。

 

 ◇「平和の大統領」のはずが

 

『ワシントン・ポスト』紙とABCテレビが9月9日に発表した合同世論調査によると、イラクでのイスラム国空爆への支持は、6月時点の45%から7月54%、9月71%と上昇。イスラム国を「米国の深刻な脅威」と考える人は90%に達し、同紙は「ジャーナリスト2人の殺害に合わせ軍事介入への支持が急上昇した」と分析している。

 国際社会の反対を押し切ってブッシュ前大統領はイラク戦争を始めたが、戦争の大義となったイラクの大量破壊兵器は見つからず、米国の国際的な信頼は失墜した。その汚名を返上するため就任したオバマ大統領はイラク戦争を終結させて戦争に別れを告げ、「平和の大統領」として歴史に名を刻むのが役目だと自任していた。米国防総省が練るイスラム国壊滅作戦は「3年」に及ぶという。その通りなら、皮肉にも、残り任期2年半弱のオバマ大統領は「戦時大統領」として名を残すことになる。

 第二次世界大戦後の「アメリカの戦争」で、米国が明確に勝利したといえる例はない。朝鮮戦争、ベトナム戦争、イラク・アフガニスタン戦争しかりだ。軍事的には勝利した湾岸戦争も、結局、イラクに民主化は訪れず、イラク戦争、イスラム国空爆と、イラクとのしがらみから脱却できないでいる。

 激烈な内戦を経て奴隷解放を実現したリンカーンをオバマ大統領が尊敬しているのは有名だ。2009年の大統領就任式ではリンカーンが使った聖書に手を載せて宣誓した。そのリンカーンは「最後の結果」が評価のすべてを決めるという「名言」を残した。オバマ政権の評価も、最も嫌った「戦争の実績」によって定まるのかもしれない。