2014年

10月

07日

ワシントンDC 2014年10月7日号

 ◇浮上する国内テロの懸念 自国民も脅威の火種に

 

堂ノ脇伸

(米国住友商事会社ワシントン事務所長)

 

 13年前の9月11日、米国駐在中であった筆者はニューヨーク・マンハッタンで世界貿易センタービル崩落の惨事を目の当たりにした。複数の知人が犠牲となり、我々が日常生活を営むこの世界が決して平和ではないこと、テロの脅威がすぐそこにあることを身をもって体感した瞬間で、今でも当時を思い出す度に鳥肌が立つ。

 テロの実行犯が比較的容易に米国に入国し、運転免許証などの身分証明を得て米国社会の中に潜伏できていた事実に鑑み、米国では9・11以来、身分証明の発行にことさら慎重を期している。実際に多くの州では外国籍を持つ渡航者、駐在員などに発行する運転免許証の有効期限を従来の5年から、入国後2年など法的に認められる滞在有効期限までに短縮する等の措置を取っている。

 ところが、ここにきて米国社会は新たな層によるテロの脅威に直面しつつある。イラクとシリアで勢力を拡大しつつあるイスラム過激派組織「イスラム国」(米国ではもっぱらISIS(アイシス)〈Islamic State of Iraq and Syria〉と呼ぶ)に感化され、これに戦闘員として加わる米国や欧州の国籍を持つ若者たちだ。

 その正確な数は定かではないが、アーネスト米大統領報道官は8月28日の記者会見で、約50カ国以上から数千人規模の外国人がシリアに渡り、イスラム国に戦闘要員として参加しているとの見解を述べている。

 連邦捜査局(FBI)と国防総省によれば、このうち米国人は約300人。一部は最前線で戦闘に加わり、8月には2人の米国籍の戦闘員がシリア政府軍との交戦で死亡したことが明らかにされている。

 

 ◇法的規制を急ぐ米英

 

 問題は、これら欧米諸国のイスラム国戦闘要員が自国のパスポートを保持しており、将来自国やその友好国でテロ行為に及ぶ可能性が無視できないことである。

 CNN等の世論調査では、7割の米国市民が、イスラム国が米国内でテロを行うだけの能力を確保している可能性があると回答している。一足先に英国では、国外でテロ行為に関わった英国民の出入国規制、テロ容疑のある自国民のパスポートの没収など対策案の議論が始まった。

 オバマ政権も米国籍のイスラム国戦闘員の割り出しや、シリアなど紛争地域からの帰国者の監視強化、さらには法的な規制措置の導入を急いでいる。ただ、そこにはイスラム国が定義上「国家」ではなく「テロ組織」であるが故の難しさもある。すなわち、現行の「移民および国籍法」では、米国市民によるパスポート取得申請の却下や没収に際しては、米国と敵対する「国家」の軍隊に加担する者を対象とできるが、テロ組織だと行うことができない。

 連邦議会では共和党のテッド・クルーズ上院議員がイスラム国戦闘員になった米国民の市民権剥奪を定める法案を提出。下院でもミッシェル・バックマン議員とテッド・ポー議員(いずれも共和党)が同様の法案を提出した。日本や英国を含む特定国の市民が、90日以内の観光・商用目的ならばビザを要せずに渡米できる制度についても、見直しを求める声が下院国土安全保障委員会の小委員会で挙がっている。

 ただし、監視をどれだけ強化してもインターネット等を駆使した巧みな勧誘や、これに扇動される潜在的なテロの脅威を完全に払拭(ふっしょく)することは不可能とも言われている。唯一の道はイスラム国そのものの根絶にあるという意見が多く聞かれるが、その道のりは極めて長く困難だ。米国は今後しばらくの間、国内におけるテロの可能性を警戒していかざるを得ないと言える。