2014年

10月

07日

特集:甦る建設株 2014年10月7日号

 ◇市場の評価が急回復 長期上昇支える確かな内需

 

中川美帆

(編集部)

 

 建設株が相次ぎ高値を更新している。清水建設は2012年11月のアベノミクス相場開始からの上昇が約3・5倍に達する。8月28日には年初来高値882円をつけ、過去10年の高値水準に迫ってきた。大成建設も、12年11月の底値水準から今年8月19日にはその約3倍となる639円をつけ、デフレ不況に突入する前の1996年の水準まで回復した。他のゼネコンの株価も軒並み上昇している。準大手ゼネコンの安藤ハザマは8月27日に上場来高値を記録した。

 他業種と比べても、建設株の上昇は際立っている。3月末時点から9月25日までの東証株価指数(TOPIX。東証1部の全上場企業を対象とした指数)は11・9%上昇している。一方、業種別のTOPIXをみると建設業は21%の上昇率。同期間の上昇が1%台とほぼ横ばいの不動産とは対照的な動きだ。

 

 ◇株価はまだ3合目との声

 

 建設株急回復の背景にあるのは、旺盛な需要と業績改善だ。20年の東京五輪開催に向けたインフラ整備や都心再開発が次々と動き出し、収益拡大期待が高まった。8月19日にはJR東日本が羽田空港と都心を結ぶ新線の構想を発表。8月26日にJR東海がリニア中央新幹線の工事計画を国土交通相に申請すると、建設株はさらに上昇。鹿島は年初来高値を更新した。

 業績の改善も鮮明になっている。清水建設と大林組は4~6月期決算で、工事の粗利を示す単体の完成工事総利益率が6・3%(前年同期比1・2ポイント上昇)、4・7%(同0・5ポイント上昇)となった。人件費は上がったが、工事代金に上乗せできる好採算の案件を選別受注できるようになってきたためだ。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の水谷敏也シニアアナリストは、「建設は衰退産業だったが、契約単価はこの2年で約2割上がり、正常な姿に戻ってきた。建設株は歴史的な転換点を迎えた」と指摘。アナリストの間では、「現在の株価はまだ3合目に過ぎない」など、長期上昇を予想する見方が多い。

 建設会社を取り巻く環境が、これほど良くなったのは約20年ぶりだ。建設投資は80年代後半から急増して、92年度に84兆円まで増加。だが、その後は、01~06年の小泉純一郎政権による構造改革、09~12年の民主党政権による「コンクリートから人へ」の政策で、公共工事が大きく減った。デフレで民間投資も低迷した。建設投資は10年度に42兆円とピーク時の半分まで落ち込んだ。

 建設会社は少ないパイの奪い合いとなり、不毛な価格競争に突入。「安値で入札した3社が集められて再入札となり、発注者から、さらに安く入札するよう求められた」「追加工事の費用を発注者に支払ってもらえないのは当たり前」(建設会社)など、デスマッチ状態に陥った。

 こうした状況下で、需要が降って湧いた。

 需要急増の端緒は、11年3月の東日本大震災に伴う復旧・復興だった。

 次は、12年12月に発生した中央自動車道・笹子トンネルの天井板崩落事故。インフラの老朽化対策に対する国民の意識が高まり、同時期に発足した安倍晋三政権は「国土強靱(きょうじん)化」のための巨額支出を打ち出した。東日本高速道路(NEXCO東日本)などの高速道路会社は、今後10~15年にわたり、数兆円を投じて高速道路を補修する。

 

 ◇五輪の波及効果は大

 

 そして、13年9月に決まった東京五輪開催だ。五輪は波及効果が非常に大きい。政府は、外国人観光客を20年に2000万人にする目標を掲げ、その達成のためのインフラ整備が一気に動き出した。

 都心を囲む3環状道路は、13年4月末時点の整備率58%を、20年までに92%に引き上げ、鉄道も整備する。品川、渋谷などの再開発も盛んだ。森ビルは、今後10年間に1兆円をかけて虎ノ門など東京都港区で再開発する計画。三菱地所と三井不動産も、それぞれ約3000億円を投じて、東京駅周辺や日本橋を再開発する計画を今年、打ち出した。みずほ総合研究所は「競技場建設など直接の建設プロジェクトは1兆円程度だ。民間投資が10・6兆円、公共投資が1・7兆円ある」と試算する。

 このように、東京五輪、首都圏再開発、インフラの整備・補修、震災復興、リニアと需要は目白押しで、事業規模の総額は概算で50兆円に達する見通しだ。

 それでは現在の株価回復は、いつまで続くのか。これほど需要が急増すると、頭をよぎるのは、80年代後半に発生した「建設バブル」だが、市場関係者は「前回とは違う」と見る。

 理由の一つは、長期にわたるプロジェクトが多い点だ。JPモルガン証券の穴井宏和シニアアナリストは「大型プロジェクトは、むしろ五輪後の方が多いかもしれない」と予想する。

 構想段階の羽田空港の滑走路増設やカジノが実現すれば、莫大(ばくだい)な建設需要を生む。原発の廃炉となれば、数十年にわたり10兆円以上の事業費が見込まれる。しかも震災復興や雨水対策、インフラ補修などは、長く続くうえ、安心・安全のために必要不可欠な投資なので、財政が悪化しても削減対象になりづらい。

 そもそもGDPに占める総固定資本形成(設備投資、インフラ投資、住宅投資など)の比率は90年代初頭に6%と先進国最大になったが、今は3%を切っているので、これ以上下がる可能性は低い。

 また、「前回のバブルは国主導だった。プラザ合意後の低金利を背景にした“不動産神話”で需要のない場所まで開発した。だが今回は民間主導なので、投資を回収できる堅実なプロジェクトが主体だ」(ラジオNIKKEIの和島英樹記者)との見方もある。確かに民間主導なら、過去の小泉政権や民主党政権のように、政権交代による公共投資急減のあおりを受けるリスクは小さい。

 

 ◇余力をどこに向けるか

 

 このように今回の需要は底堅いため、建設株は長期にわたって上昇する可能性が高まっている。

 ただし、短期の需要については慎重な見方もある。ドイツ証券の大谷洋司シニアアナリストは「民間の設備投資は低迷する予兆があるうえ、今年度は消費増税後の景気の冷え込みを避けるため、国が公共工事の発注を前倒ししたので、秋以降にその反動が出る可能性がある」という。建設経済研究所も、14年度の建設投資が47兆8600億円で、前年度比1・8%減少すると予想している。

 メガバンクの関係者は「20年までは、建設会社は安定した受注を期待でき、その間に財務面で余力ができる。20年以降を見据えて、そのもうけをどこに投資するかが、各社の経営戦略の焦点になる」と指摘する。

 過去の建設業界では、有望と見込んだ領域に各社が殺到するなど、戦略の横並びや模倣が見られた。だが今は「もし需要が減っても、過去のように価格の叩き合いをしないで済むようにしよう」という意識に変わり、積極的に手を打つようになってきた。

 大林組や清水建設は海外展開や新規事業の創出、前田建設工業はコンセッション(民間企業への公共施設の運営権売却)への参入検討、熊谷組は維持更新の拡大、といった具合だ。

 現在の需要急増にあぐらをかかず、五輪後を見据えて着実に手を打てる建設会社なら、市場の評価もさらに高まるだろう。