2014年

10月

14日

ワシントンDC 2014年10月14日特大号

 ◇ホルダー司法長官の辞任 オバマ政権の終わりの始まり

 

今村卓

(丸紅米国会社ワシントン事務所長)

 

 オバマ大統領が9月25日、ホルダー司法長官の辞任を発表した。オバマ政権の発足当初から残る3人の閣僚の一人であり、その実績から存在感が大きいホルダー長官の辞任は、残り2年余りの任期になったオバマ大統領の政権運営に大きな影響を与える可能性が高い。

 黒人初の司法長官であるホルダー長官は、公民権の擁護や同性愛者の権利拡大などの課題に積極的に取り組んできた。その一方で、こうした進歩主義の強い主張に対し、共和党は議会で厳しく批判を続けた。

 しかも、長官自身が対立をいとわず、共和党から反対を受ける行動を重ねた。加えて、IRS(内国歳入庁)による保守系団体の税務審査問題もあり、共和党の追及は先鋭化していった。そこに司法省の銃密売摘発作戦の失敗が発覚。共和党が多数派の議会下院はホルダー長官に関係書類の提出を求めて拒否されると、長官を議会侮辱罪で告発するという異常事態に至っている。

 それでも辞任に追い込まれずに済んでいたのは、オバマ大統領と民主党が徹底してホルダー長官を守ってきたからである。ホルダー長官はオバマ大統領にとって心を許せる数少ない緊密な友人の一人であるといわれる。ホルダー長官の進歩主義的な主張や行動はオバマ大統領の代役として担っている一面があり、ホルダー長官が共和党による激しい攻撃の矢面に立つことで、オバマ大統領を守っている面があるのだという。

 オバマ大統領は、2回の大統領選で団結や多様性の尊重を訴え、黒人から圧倒的な支持を受けた。しかし、現実のオバマ大統領は、人種差別問題に対して非常に慎重な発言や行動を続けている。そこには、米国の最高指導者である自分が同問題について一部の人種だけを支持したり批判したりすれば、逆に人種間の対立をあおりかねないとの自制が読み取れるが、そのままでは黒人のオバマ大統領への失望が広がりかねない。そうした苦しい立場にあるオバマ大統領と黒人など少数派の信頼関係をつなぎ止めて守ってきたのが、ホルダー長官だったのである。

 

 ◇難しい後任選び

 

 それだけに、後任選びはオバマ大統領にとって非常に難しい問題になる。ホルダー長官自身は、11月の中間選挙で上院の多数派を共和党に奪われる可能性の高さを踏まえ、辞任表明時期を戦略的に選んだとみられる。オバマ政権は現時点で後任を未定としているが、主要メディアはこのレームダック会期中の後任承認を見越して、ベリリ訟務長官やルムラー元大統領顧問らが有力候補と報じている。

 もっとも、誰が後任に選ばれても、ホルダー長官が果たしてきた役割を引き継ぐことは難しいだろう。退任まで残り2年余りとなったオバマ大統領が、自制を解いて本来の主張と行動に踏み出す可能性はあり、ホルダー長官もその展望が開けてきたからこその辞意表明という見方もある。

 ただ、その場合、来年の議会が上下両院とも共和党が押さえていれば、党派対立の一層の激化で重要課題はほとんど前進しなくなる。実際には、来年の早い時期から両党の関心は16年の大統領選に集中してしまうだろう。かといって、オバマ大統領が今のままでは、かろうじて4割強を保っている支持率が黒人など少数派の失望から落ち込んでレームダック化が避けられなくなるだろう。

 どちらにしても、オバマ大統領が訴えていた「一つの米国」の実現へ近づけないまま、任期を終える可能性だけは非常に高くなってきた。その意味では、ホルダー司法長官の辞任はオバマ政権8年間の終わりの始まりを象徴する動きなのである。