2014年

10月

28日

ワシントンDC 2014年10月28日特大号

 ◇課税回避の本社移転を規制 経済界からは反発の声


篠崎真睦

(三井物産ワシントン事務所長)


 最近、オバマ政権はコーポレート・インバージョンと呼ばれる「外国親会社設立による企業の租税回避」への批判を強めている。インバージョンとは、米国を本拠地とする多国籍企業が低税率の米国外に本社を移転することで、海外収益に対する米国の課税率39・1%を引き下げる行為を指す。

 インバージョンは目新しい行為ではない。しかし、近年、医療機器メーカーのメドトロニック、製薬会社のマイランやアブヴィー、薬局チェーンのウォルグリーンなどの大企業が、米国の課税を避けるために海外の小さな企業と合併して米国民の怒りを買ったことが、この防止策強化へとつながっている。オバマ大統領はインバージョンを「非国民的」と呼び、米議会が法整備に動かない場合は、大統領権限等を駆使して対処すると明言した。

 ルー財務長官は9月22日、インバージョンの魅力が薄れるよう、政府として可能な新たな防止策を発表した。この防止策ではインバージョン企業の定義を拡大した。①新たな多国籍企業のビジネス活動が、合併後の新たな外国親会社の本拠地で25%以下の場合、②合併前の米国親会社の株主が合併後の新親会社の株の最低6~8割を保持している場合、をインバージョン企業だとした。もし、当初の株主が新外国親会社の8割以上の株を保持する場合、その新会社は米企業として取り扱われ、租税回避のためのインバージョンは無効となる。

 また、新たなルールではインバージョン企業が租税回避目的として広く行っているテクニックの幾つかが排除された。例えば、米企業は米国の税金を払わずに海外資金を調達する「ホップスコッチ」と呼ばれる融資の利用などができなくなる。さらに、外国の新親会社が米国の元親会社から十分な株を買い取ることで子会社をコントロールし、繰り延べ収益への米国税を支払わない「デコントローリング」と呼ばれる方法も防止される。


 ◇「外国企業に優位になる」


 市場は既にこのニュースにネガティブな反応を示している。また、多くのアナリストも米政権は、税対策で海外移転を求める企業のイメージダウンに成功したと述べる。例えば、ノースカロライナに本拠地を置くサリックスという製薬会社は、政治環境の変化と米財務省によるインバージョン防止策を理由にアイルランド企業とのインバージョンを中止している。

 しかし、米財務省によるインバージョン防止策の実効性については疑問も上がっている。むしろ新しいルールによって、オフショア・キャッシュへのアクセス管理という点で、新ルールの対象とならない外国企業が、今後さまざまな制限を受けるライバルの米企業よりも優位に立つとの指摘もある。その結果、外国での収益に対する米国税を避けたいと望む米企業を、外国企業が今後一層買収するようになるかもしれない。

 ワシントンのビジネス団体の多くは、米財務省が今回発表したインバージョン防止策は一時しのぎに過ぎず、米国を企業本拠地としてより魅力的な場所にするためには包括的な税制改革が必要と指摘している。11月の中間選挙で共和党が上院過半数を制すれば来年の新議会で税制改革に着手する可能性が少しは出てくる。ただ、多くの政治アナリストは、包括的税制改革はオバマ大統領の任期が切れる2017年までは審議されることはないと見ている。オバマ政権は、中間選挙に向けてインバージョンを非国民的として批判し、そうした大企業を支持する共和党議員を非難し続けるだろう。