2014年

10月

28日

特集:株安連鎖 2014年10月28日特大号

 ◇“影の銀行”でたまるマグマ 米国から世界へ連鎖する株安


秋本裕子

(編集部)


 世界の株式市場は一気に調整局面に入った。

 米ダウ工業株30種平均は10月15日、1万6141ドルと4月11日以来、約半年ぶりの安値となった。5日連続の下落となり、下げ幅は850ドル超に達した。日経平均株価も16日、335円安の1万4738円と、5月30日(1万4632円)以来、約5カ月ぶりの安値となった。

 欧州市場でも、ドイツのDAX指数が10月8日、8995と約1年ぶりに9000を割り込んだほか、英FTSE100も10日、約1年ぶりの安値水準をつけた。

 きっかけの一つは、10月7日にIMF(国際通貨基金)が今年と来年の世界経済見通しを下方修正したこと。これに9日のドイツの貿易統計で輸出が減少したことが加わり、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁がユーロ圏の経済成長の減速に言及。欧州がデフレに陥るのではないかとの懸念が出始めた。

 IMFの世界経済見通しの引き下げは、高値警戒感が渦巻いていた市場に波紋のように広がり、世界経済への楽観論が影をひそめた。市場では株安の連鎖がどこまで続くのか、警戒感が広がっている。


 ◇震源地は米緩和マネー


 世界経済はいま、新興国経済の減速、欧州経済の再失速と日本化、原油など商品市況の暴落、中東・ウクライナなどの地政学リスク、エボラ出血熱の拡大など、さまざまなリスクに直面している。そして本来、世界経済を牽引(けんいん)するべき米国経済も、その回復力は決して強くない。

 15日のダウ平均が一時460ドル急落し1万6000ドルの大台を割り込んだのも、エボラ出血熱の米国内での拡大懸念と8月の米小売り統計が市場予想を下回ったことがきっかけだった。

 米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめ世界の中銀は、量的緩和で市場へのマネー供給量の拡大を競ってきた。あふれた流動性が向かったのは、リーマン・ショックを経てデレバレッジ(投資縮小)に向かった銀行ではなく、主にヘッジファンドやノンバンク、債券を中心に投資信託として運用するMMF(マネー・マネジメント・ファンド)などの「シャドーバンキング(影の銀行)」だ。

 シャドーバンキングは、リーマン・ショック後の銀行規制の強化や潤沢な流動性などを背景に急成長し、主に機関投資家の投資資金の受け皿になってきた。

 そのシャドーバンキングが格好の標的としたのが、高利回りが得られる資源(商品)や新興国債券だった。IMFによれば、世界の高利回り債の27%は投資信託が保有し、しかも資産運用会社の集中が進み、上位10社だけで19兆ドルにまで膨張しているという。この中には、日本の個人が投資している外貨建て高利回り債や米国のハイイールド社債なども含まれる。

 少しでも利回りが得られる投資対象を探そうと、市場では「サーチ・フォー・イールド」「ハント・フォー・イールド」といった言葉が渦巻き、アフリカのドル建て債などを求め、「国はどこでもいい。大事なのは利回り、といった投資行動が見られた」(みずほ総合研究所の長谷川克之市場調査部長)という。

 しかし昨年来、中国など新興国経済の変調で、その資金が新興国や資源から逃げ出し始めた。そして新たな投資先を求め、「比較的高い利回りが得られる株や、欧米のハイイールド債に向かった」(BNPパリバ証券の中空麻奈チーフクレジットアナリスト)という。


 ◇400兆円損失シナリオ


 今、投資家の不安心理を示す米VIX指数は、2年4カ月ぶりの水準まで高まり、投資家は急速にリスク資産の売却へと向かっている。その結果、シャドーバンキングのマネーは米国株からも逃げ始めた。それがこのところの株価急落の要因だ。

 そして、米国株から逃げ出したマネーは、より安全な日米国債やドイツ国債、ドルなどの安全資産へと逃避している。米国の長期金利は15日、一時1年5カ月ぶりに1・86%まで低下、日本でも16日に一時、約1年半ぶりに0・47%をつけた。国際金融の動向に詳しい倉都康行RPテック代表は、「米金利の2%割れは、株式市場以上に債券市場でパニックが起きている証拠」という。

 この流れは、単に一時的な調整なのか、それとも今後も継続的に続く世界経済危機の始まりなのか。

 IMFが8日発表した「世界金融安定報告」では、米国を中心に広がったシャドーバンキングの膨張に警鐘を鳴らしている。現在の規模について、「米国では貸し出し全体に占めるシェアが50%を超える」と分析する。シャドーバンキングには銀行部門の補完という機能もある半面、内在するリスクも大きい。IMFは「取り付け、複雑化・非透明化、レバレッジ」などのリスクを挙げた。

 膨張するシャドーバンキングについて、中空氏は「株価急落やデフォルトリスク顕在化など何かのきっかけで解約が相次ぎ、ファンドが凍結されることも考えられる。そうなれば、株式や債券市場などから連鎖的に資金流出が始まる」と話す。

 売りが売りを呼ぶ形で市場の下落を加速させる。まさにリーマン・ショックの再来だ。

 米国では10月28・29日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で量的緩和の停止を決める見通し。その後に焦点になるのは、米国がいつ利上げに向かうか、だ。

 IMFは米国が利上げに踏み切る過程で「対応を怠れば金融の安定が危うくなる懸念がある」と警告。利上げに伴って現在は低水準の債券の利回りが1%上昇し、価格が急落するなど、一定の条件で世界全体の債券の評価損は時価総額の8%以上に相当する3・8兆ドル超(約400兆円)に上る、と試算した。「短期間でこの規模の損失が発生した場合、債券市場の混乱が起き、世界的に金融市場が混乱する」とも警告している。

 実際、市場関係者の間では、少し前まで市場で15年1~3月期や15年半ばとも予想されていた利上げの先送り論も出始めた。来年1月に投票権を持つFOMCのメンバーになる米シカゴ地区連銀のエバンズ総裁は13日、利上げ開始時期を「16年第1四半期になる」との考えを示した。米国の物価上昇のペースが緩慢な中では利上げには踏み切れない、というわけだ。

 利上げができなければ、その間危機のマグマはたまり続け、世界経済は金融緩和からの出口を失ってしまう。その先に広がるのは出口のない迷宮だ。

 先行きが混沌(こんとん)とした世界経済。この動向を踏まえ、日本株の先行きはどうなるのか。

 今年末の日経平均株価予想では、現在の株価を大きく上回る1万7000円が多かったものの、上は1万8000円から下は1万4500円までに分かれた。

 世界経済が失速すれば、輸出先国の景気や米国株下落などを通じて、日本経済や日本株への影響も大きくなる。