2014年

11月

04日

ワシントンDC 2014年11月4日号

 ◇後手に回った感染症対策 広がるエボラ出血熱騒動

及川正也

(毎日新聞北米総局長)


 米国で、リベリアから入国した男性がエボラ出血熱で死亡した。オバマ政権は知人や親戚らへの感染拡大を警戒したが、その裏をかくように治療にあたった看護師が2次感染した。予防には細心の注意を払うはずの医療従事者への感染が確認されたことで、オバマ政権の初動など危機管理能力が問われる事態に至っている。

「感染症は国家安全保障の最優先課題だ。必要なことはすべてやる」。オバマ大統領は10月6日、主要閣僚らとの協議で強調した。エボラ出血熱の封じ込めへの強い決意だった。ホワイトハウスの発表によると、協議で担当スタッフらは病院の体制は十分であり、米国内での流行は阻止できるとの自信を強調していた。

 その2日後の8日、リベリア人男性のダンカン氏(42)がテキサス州ダラスの病院で死亡。感染症対策を担う米疾病対策センター(CDC)などは、男性の知人ら約50人を潜伏期間最長の21日間をめどに経過観察対象者として監視していた。

 しかし、新たな感染者は想定外の「院内感染」を通じた同じ病院の看護師だった。米メディアによると、男性の治療にあたった女性看護師のニナ・ファムさん(26)は今月10日に発熱するなどエボラ出血熱の症状を示し、隔離されていたが、12日に2次感染が確認された。さらに17日にも、同じ病院の看護師の感染が発表された。

 慌てたのはオバマ政権やCDC。医療スタッフは政府の観察下にはなかったからだ。感染症対策では世界最高水準のノウハウと設備を持つ米医療関係者らの最初の反応は「感染のナゾ」だった。感染防護用の装備や着衣の装着を定めるCDCの手順マニュアル(プロトコル)は詳細で、医療スタッフへの感染はあり得ないと考えられたからだ。

 だが、それは過信であり、その過信が騒ぎを拡大させた。エボラ出血熱は患者の血液や唾液など体液に直接触れることで感染する。CDCの手順マニュアルは、治療にあたる際は顔を覆うシールドやゴーグル、マスク、ガウン、手袋などの装着具や着脱の仕方も定め、体液に触れないように指示している。


 ◇政界にも飛び火


 CDCのフリーデン所長は12日の記者会見で「マニュアル違反があった」と述べ、装着具を外した際の手順ミスで感染した可能性を指摘。これに猛反発した全米最大の看護師団体「全米看護師連合」は13日のテレビなどで「看護師は十分な教育を受けていない」と反論し、フリーデン所長が謝罪に追い込まれる失態を演じた。動揺は全米に広がり、テキサス州に隣接するルイジアナ州の廃棄物処理機関は焼却処分されたダンカン氏の所有物の灰の受け入れを拒否するなど過剰反応も見られた。

 11月4日の中間選挙を控え選挙戦真っただ中の政界にも飛び火した。共和党がオバマ政権はエボラ出血熱に十分な対策を講じていないと批判すれば、民主党はエボラ出血熱対策のCDC予算を削減したのは共和党だと反論。中にはエボラ出血熱の流行を不法移民にたとえ、「国境を閉鎖せよ」と主張する共和党候補も出てきた。

 2005年夏に南部諸州を襲ったハリケーン・カトリーナでは政府の初動の遅れから悲惨な現場が何日もテレビで放映され、当時のブッシュ政権批判が高まった。

 今回、どこまで感染が広がるかは予断を許さない。オバマ政権は再発・拡散防止のための防護策徹底や流行鎮圧に向けた国際社会の支援強化を訴えるが、対策が後手に回った印象は否めない。