2014年

11月

11日

特集:原油急落と中東情勢 Part1 今なぜ原油急落か 2014年11月11日号

 ◇下値は1バレル70ドル台 世界経済減速と供給過剰


中川美帆

(編集部)


 原油価格が急落している。米国産標準油種(WTI)は10月3日、英国産の北海ブレント原油は10月13日に1バレル=90ドルを割って、80ドル台に突入。この水準はその後も続いている。

 急落の原因は需給の緩和だ。供給面では、米国のシェールオイルの生産量が急増した影響が大きい。また、石油輸出国機構(OPEC)産油国の生産量も高水準だ。OPECの9月の原油生産量は日量3047万バレルで、6月に比べ約2・5%増加した。10月に入ると、サウジアラビア、イラン、イラクが輸出価格を引き下げたとの現地報道が相次いだため、OPECの協調が崩れて生産シェア確保に走り、価格競争が激化するとの観測が市場で拡大。原油先物相場で売りが優勢になった。

 地政学リスクの後退も価格下落に作用した。イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」が勢力を拡大した6月、原油価格は上昇した。だがその後、シーア派が多く、油田が集まるイラク南部には、イスラム国の勢力がほとんど及んでいないことが判明。リビアでは、イスラム過激派が支持する内閣と、反イスラム過激派が支持する内閣が併存する格好で国が分裂状態となり、戦闘が続いているが、一部緊張が緩和するなどした。このためリビアの生産量は5月末の日量15万バレルから、10月には同約80万バレルまで急増している。ロシアは、ウクライナ問題を巡り欧米諸国から経済制裁を受けているものの、石油供給にはほとんど影響が及んでいない。むしろロシアの原油生産量は、旧ソ連時代以降で最高に近い水準だ。

 その一方で、需要はさえない。国際通貨基金(IMF)が10月7日に発表した2014年と15年の世界の国内総生産(GDP)増加率の見通しは、7月時点の予想から下方修正。4~6月期の欧州連合(EU)や中国のGDPでも、減速の実態があらわになった。また、国際エネルギー機関(IEA)は10月14日、今年の石油需要の伸びを平均で日量70万バレルと、前回の見通しから同20万バレルも引き下げる見通しを発表した。その結果、今年の世界の石油需要は日量9240万バレルの見通しとなる。

 このように、供給が潤沢ななかで、経済減速と原油需要の低迷を示す指標が次々と発表されたため、原油価格が急激に下落したのだ。


 ◇サウジ減産が焦点


 世界経済の回復による原油需要の大幅な拡大は当面見込めない。米国経済は好調だが、不調の欧州や新興国を牽引(けんいん)できるほどではない。米ゴールドマン・サックスは10月26日、15年1~3月のWTIの予想を、従来の1バレル=90ドルから75ドルに引き下げた。

 北半球では11月から翌年3月まで暖房用の石油製品の需要期となるが、その後は再び使用量は減る。三菱商事原油部シニア・アドバイザーのトニー・ヌーナン氏は「経済協力開発機構(OECD)加盟国の15年7~9月期の原油在庫は、この10年間で最高水準になる見通し。このため15年中は現在の軟調傾向の原油価格が続く」と話す。

 今後の焦点は、11月27日のOPEC総会で、サウジを中心とする加盟国が減産するかどうかだ。原材料の調達価格リスクのアドバイスをするマーケット・リスク・アドバイザリーの新村直弘代表は「OPECが日量50万~100万バレル減産すれば、北海ブレントで1バレル=90ドルを回復する動きになるだろう。減産を見送れば、同75ドル程度まで下がる可能性がある」と予測する。

 一方で原油価格の下落は、原油消費国の生産コストを下げる。新村代表は「世界の原油消費量を日量9000万バレル、為替を1ドル=105円とすると、数カ月前のピーク時から30ドル近く下落した現在の原油価格が3カ月続けば、世界全体で26兆円、日本で1・2兆円ほどのコストダウンになる」と試算する。実体経済に影響が出るまでは時間がかかるが、結果的に、コストが下がれば企業収益が回復し、消費も促すため、景気の好転につながる可能性がある。


 ◇火だねくすぶる中東


 数年単位の中期で見ると、原油は1バレル=100ドル前後まで回復するとの見方が市場関係者の間では優勢だ。理由の一つはコストとの兼ね合い。シェールオイル開発にかかるコストを勘案した採算分岐点は1バレル=70~80ドルとの見方もあり、それを下回る価格での生産は難しい。SMBC日興証券株式調査部の塩田英俊シニアアナリストは「原油価格が下がってシェールオイルの生産が減れば、原油の需給はタイトになる。長期的に見ると、安値は長く続かない」と指摘する。中東産油国にとっても、油価が下落しすぎると打撃が大きい。原油以外の産業があまり成熟しておらず、石油収入で公共投資を賄っているためだ。IMFによると、財政の歳入と歳出のバランスがとれる原油価格が100ドルを超える国は珍しくない。

 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の野神隆之・上席エコノミストは「市場シェアの争奪戦が続けば、生産量の拡大が難しくなり、石油収入が大きく減少しかねない。このため、いずれサウジが中心になって、減産に向け協調するようになる」と見る。

 しかも、地政学リスクは解消しそうにない。イラクでは、イスラム国による首都バグダッドでテロが激化し、イラク政府の統治力が低下して、南部の油田地帯の治安が悪化するリスクがある。リビアでは戦闘が続いているため、昨年のように再び油田の操業が脅かされかねない。イランは核開発問題を巡り、11月24日の期限に向けて欧米など関係6カ国と交渉中。米オバマ政権はイラン制裁を緩和したい意向だが、共和党は違う。16年の大統領選で共和党の大統領が誕生すれば、制裁が強化され、イランの原油輸出は減る可能性がある。ウクライナ問題でも、ロシアからの石油供給が途絶える可能性が残っている。

 このため、原油価格が再び上昇する余地はある。