2014年

11月

18日

ワシントンDC 2014年11月18日特大号

 ◇エボラ出血熱への過剰反応 政治を巻き込む不毛な混乱

今村卓
(丸紅米国会社ワシントン事務所長)

 米国内で確認されたエボラ出血熱の感染者数はわずかにとどまっているが、米国民の恐怖は急速に広がり、その勢いに政治が巻き込まれるような混乱が生じている。
 中間選挙の投票日が迫っていた10月末にもかかわらず、主要メディアの紙面は米国内のエボラ出血熱を巡る騒動がトップを占めていた。この時点において米国内で確認された感染者数は4人、うち1人は死亡したが国内で2次感染した2人の看護師は治癒しているという状況に照らせば、騒ぎすぎという感も否めない。

 だがそのメディア以上に米国民がエボラ出血熱に過剰反応している。2次感染患者が報告された直後に実施された世論調査によれば、45%が「自分か親友か親類がいずれ感染する」と考えたという。
 それから約2週間後の調査でも、80%が西アフリカから米国への渡航者に一定期間の隔離措置を義務付けることを支持した。この間にギニアで医療活動に携わって帰国した医師1人の感染は確認されたが、2次感染は発生していない。なのに、恐怖は鎮まるどころか拡大している。流行したのはエボラ出血熱ではなく、「流行への恐怖」だったのである。
 この問題が根深いのは、恐怖の流行を促したのが米国民の無知でもなければメディアの誤った報道でもなかったことだ。世論調査によれば、米国民の多くは米疾病対策センター(CDC)など政府や専門家が、エボラ出血熱は空気感染しない、患者と握手しても感染しないと何度も訴えていたことも知っていた。その上で多くの米国民は、政府などの言うことを信じず、このまま手をこまねいていれば米国内でのエボラ熱の大流行が避けられず、自分も巻き込まれてしまうと恐れていたのだ。
 しかも、この「恐怖の流行」は政治も混乱に巻き込んだ。国家的な争点も盛り上がりも欠いた中間選挙は、終盤の貴重な時間をこの問題を巡る与野党の非難の応酬に費やす不毛な戦いとなった。それはオバマ政権と民主党に、より不利に響いた可能性が高い。

 ◇隔離措置巡り対立

 西アフリカからの入国・帰国者に対する隔離措置を求める米国民の声は強いが、導入を巡り連邦政府と州政府の判断が割れ、双方の対立が起きた。連邦政府は西アフリカのリベリアなど3カ国からの入国経路を国内5空港に限定して体温測定を実施するなどにとどめたが、ニュージャージー州などは帰国した医療従事者に対する隔離策を導入、オバマ政権が見直しを働きかけても応じていない。
 もちろん、論理的に分があるのは、オバマ政権のほうだ。米国で患者が出る可能性を排除するには、発生源である西アフリカで封じ込め、終息させるしかない。それには高度な技術や機器を持つ米国の医療従事者が現地に赴くしかない。隔離策を導入してしまうと、医療従事者が西アフリカへの渡航をためらい、発生源での封じ込めは遅くなるだけ。それは専門家の常識でもある。
 現地での米国の医療従事者の活動は、オバマ大統領が言うように「単なる慈善行為ではなく」、米国民を守るという国益に直結する行為だ。この説明と、医療従事者が「国民的な英雄であり、敬意を持って処遇すべきだ」というオバマ大統領の主張に反対する国民はさすがに少ないだろう。
 とはいえ、恐怖にとらわれた多くの米国民が落ち着きを取り戻すには、医療従事者の感染例から新たな2次感染が発生しないという実績を積み重ねていく必要もある。その意味では、今後しばらくの間はオバマ政権の対策は極めて重要である。