2014年

11月

18日

特集:世界低成長の「異常」 2014年11月18日特大号

 ◇限界へと向かう長期金利 景気停滞と金融バブル共存

桐山友一
(編集部)

「国債はもう買えない。米国債への投資を1000億円規模へ増やすべきですかね」──。
 10月31日午後、ある東日本のの信用金庫の一室。この信金から資産の一部を運用受託している投資ファンドの担当者を前に、信金幹部があきれた様子でつぶやいた。話題はもちろん、この日の午後1時44分に発表された日銀の追加緩和。日経平均株価はこの日、一時は前日終値比875円と約6年ぶりもの上げ幅を記録した裏側で、信金幹部の表情は一向にさえない。

 この地場中堅の信金は、総資産が1兆円を下回る規模。貸し出しが伸びない中で、国債や社債など有価証券の運用比率はいやが応でも高くなる。しかし、日本の長期金利(10年国債)の利回りは0・4%台と、歴史的な低水準が継続。一方で、地域金融機関は人件費や店舗の運営コストなど、利回り換算で1%強の経費がかかる。普通預金など金利の低い短期資金を調達し、金利の高い長期で運用することが収益の源泉となる金融機関にとって、長期金利の低下は死活問題だ。

 ◇膨れ上がる日銀

 日銀が昨年4月に異次元緩和を導入直後、一時は0・315%の過去最低を記録した日本の長期金利。それは、国債価格の極端な高値でもある。地域金融機関は貸し出しによる収益が細る中、安全資産として保有してきた国債を切り売りしてしのいできた。しかし、これ以上、高値にある国債を購入しても経費すらまかなえず、金利が上昇(国債価格が下落)すれば評価損を抱えるリスクが一層高まっている。すでにこの信金は相対的に金利の高い米国債などに数百億円を振り向けているが、さらにその比重を高めざるをえないのが現実だ。
 そうしたさなかに打ち出された追加緩和。日銀は長期国債を30兆円増額し、年間80兆円のペースで買い入れるという。追加緩和に伴って円安も加速し、11月に入って一時、1ドル=115円台まで進行した。地域金融機関はこれまで海外資産に投資する際、為替ヘッジをかけることで相場変動の影響を相殺する運用が大半。しかし、ある金融関係者は「円の先安観が強まる中で為替ヘッジをしない運用が増えている」と話す。あふれ出たマネーが海外へと向かい、それが一層の円安を招く連鎖が生まれている。
 世界的な金融危機をもたらした2008年のリーマン・ショック。日銀や米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)は、事実上のゼロ金利政策や国債などの資産を大量に購入したりする緩和策を繰り出し、世界は異例の「超金融緩和」状態に入った。特に、異次元緩和による日銀の資産購入規模はすさまじく、野村総合研究所によれば今年9月、日銀の総資産は国内総生産(GDP)比で5割超に達する。追加緩和によってそのペースはさらに加速し、15年末には8割近くとなる見込みだ。
 しかし、これほどの緩和にもかかわらず、日本をはじめ先進各国の成長ペースは緩慢だ。国際通貨基金(IMF)によると、一国の総需要が供給力を下回る「需給ギャップ」が先進各国で発生。IMFが10月に発表した世界経済見通しでは、先進国の14年の成長率は1・8%にとどまり、世界全体の14年の成長率も3・3%。リーマン・ショック前の景気拡大期だった03~07年、先進国で2%超、世界全体では4%超の成長を遂げていた姿とは明らかにかけ離れ、「低成長時代」へと突入したと言える。

 ◇「もうかる?」住宅ローン

 金利をどれほど下げても、設備投資などの需要が盛り上がってこない──。低成長時代の端的な例が、日本の住宅ローンに現れている。メガバンクの住宅ローンは現在、最優遇の当初5年固定金利で0・6%台と過去最低水準。一方、消費増税の対策として今年4月から「住宅ローン減税」が大幅に拡充され、年末の住宅ローン残高の1%相当額(最大年40万円)が最長で10年間、所得税・住民税から減税されることになった。つまり、住宅ローンの利用者にとっては、支払う利息よりも減税分のほうが多くなることもありうる状態だ。
 しかし、それでも消費増税の反動減は厳しく、分譲マンション販売は落ち込んでいる。不動産経済研究所が発表した9月の首都圏の新築マンション販売戸数は前年比44・1%減と8カ月連続の減少。住宅ローン事情に詳しいファイナンシャルプランナーの平澤朋樹氏は「上場企業の会社員や公務員でも、雇用や老後の年金など将来不安を抱える人が目立ち、いくら金利が低くても多額の住宅ローンを借りることに二の足を踏む人が増えている」と話す。
 日銀は10月に公表した「金融システムリポート」で、金融機関が保有する債券の金利が全年限で1%上昇した場合の評価損を7・6兆円、2%の場合を13・4兆円と試算した。日銀は「金融機関は全体として充実した資本基盤を有している」と、金利上昇などのショックに対して十分な耐性があると分析するが、ある銀行関係者は「もうこれ以上、金融緩和をやっても貸し出しは伸びず、金利の暴騰(債券価格の暴落)リスクを高めるだけ」と当惑を隠さない。景気の停滞と金融バブルが危うく共存している。