2014年

11月

25日

特集:資源安ショック 2014年11月25日号

 ◇米国の「資源超大国化」が世界の資源の流れを変える


濱條元保

(編集部)


 原油価格の低下に歯止めがかからない中、世界が注目する石油輸出国機構(OPEC)総会が11月27日に迫る。

 総会でサウジアラビアが沈黙を決め込めば、市場が落胆し原油価格の下落を加速させるだろう。その一方で、乾坤一擲(けんこんいってき)の減産に打って出ても市況が反転しなければ、もはやサウジに価格調整能力がないことを世界にさらけ出す──。

 どちらに転んでも、注目の総会はサウジとOPECにとって有力産油国として特権を失う大転換点となる公算が大きい。米国で始まったシェール革命を契機に原油とガス、石炭などの資源高時代が終焉(しゅうえん)を迎えた。

 シェール革命とは、地下深くの頁(けつ)岩(がん)(シェール)層に含まれている非在来型石油の一種であるシェールオイルの開発・生産の成功を指す。2011年以降、指標の一つWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油が1バレル=100ドル前後という原油高を背景に、生産コストが約80ドルとされたシェールオイルの開発が進み、00年代後半から米国で生産が急拡大している。

 米エネルギー省(EIA)によると、今年のシェールオイル生産は日量450万バレルに達しているという。在来型の原油生産との合計は日量900万バレルで世界3位に急浮上した。

 シェールオイルは、硫黄分が少ない軽質油でWTIと同質とされる。シェールオイルを自給できるようになり、米国は同質のナイジェリア産原油の輸入が急減した。10年のピーク時に日量120万バレルあった米国の輸入は7月にはゼロになった。行き場を失ったナイジェリア産原油は、新たな買い手を求めてアジアに向かうという「資源の玉突き現象」が起きている。

 また、米国で原油生産が急増したため、欧州向けを中心に軽油などの石油製品の輸出が急伸している。その結果、11年には62年ぶりに石油製品の純輸出国となった。

 シェール革命は、天然ガスと同質のシェールガスの生産拡大をもたらしている。足元では、全ガス生産の4割をシェールガスが占め、将来的には在来型天然ガスを上回る主要ガスとなる見込みだ。

 シェールガス増産に伴うガス価格の低下は、発電用の原料を石炭からガスにシフトさせた。そのため、米国の石炭需要が急減。その結果、南米コロンビアから08年のピーク時、年間2400万トンを輸入していた米国の石炭輸入は、足元では600万トンに急減している。コロンビアは、石炭の供給先を失った。


 ◇米露のガス戦争


 米国内でだぶついた石炭は、欧州やアジアにも向かっている。これは欧州を天然ガスの有力供給先とするロシアにとって、ただごとではない。

 10年に800万トンだった米国の欧州向け石炭輸出は、12年には3倍以上の2900万トンに達した。ガスに代わって、発電用燃料として使われているのだ。ウクライナ危機をめぐる経済制裁中の欧州にすれば、同盟国・米国からの資源供給は心強い。逆にロシアとすれば、重要な天然ガスの販売先を米国に奪われている格好だ。

 日本エネルギー経済研究所の小山堅常務理事は「米露間で、天然ガス供給先をめぐるガス戦争が起きている」と、語る。

 今後、シェールガスの生産急増が見込まれ、天然ガスが余剰となる米国は、液化天然ガス(LNG)の形で、欧州や日本をはじめとするアジアに輸出する考えだ。日本は17年からの予定で、米国にガス液化施設を建設中である。

 ロシアも中国や日本などアジアに接近する。特に需要拡大が見込める中国に対しては、交渉が難航していた天然ガスの長期契約が5月にまとまった。年間380万トンで30年間、総額4000億ドルという大型契約の合意にこぎつけた背景には、ウクライナ危機に伴い中国に接近したとの見方が有力ではあるものの、世界のガス市場で台頭する米国の存在があったはずだ。

 一方で日本の電力、ガス会社が長期契約でLNGを輸入するカタールなどの中東諸国も他人事ではない。

 中東産LNGは、原油価格にリンクさせた日本独自の長期の契約形態で、転売できないなど縛りもきつい。原油が100ドル近かった当時の契約では、100万BTU当たり約17ドルとされる。一方で、米国産LNGは液化や輸送コストを含めても同約12ドルで輸入できる模様だ。転売禁止などの拘束も外れる可能性がある。

 こうした条件を比較すれば、米国産が有利だろう。売り手市場に慣れきってしまった中東のガス供給国にとっては、厳しい時代に突入する。

 つまり、シェール革命が米国を資源超大国化させ、そこからあふれ出す資源が世界の原油、ガス、石炭の流れに大変革をもたらしている。


 ◇アジア市場の争奪戦


 フランス・パリで10月30日に開催された国際エネルギー機関(IEA)と国際エネルギーフォーラム(IEF)、OPEC主催のエネルギーシンポジウム。アジア地域の天然ガスと石炭需要見通しのプレゼンに立った住友商事グローバルリサーチ(SCGR)の高井裕之社長は、出席した欧州・中東の資源関係者のアジア需要に対する期待の大きさに驚いた。

 IEAのデータを基にSCGRが試算したところ、世界の石油需要は11年の4108百万toe(石油換算トン)に対して、35年には13%増の4661百万toeに、天然ガスは2787百万toeから47%増の4119百万toeに、石炭は3773百万toeから12%増の4428百万toeにそれぞれ増加するという。

 日米欧はじめ世界的に需要鈍化が予想される中で、唯一、拡大が見込まれるのがアジアだ。この成長市場に米露や中東、アフリカ、豪州といった資源大国が売り込み攻勢をかけている。

 高井氏は「地政学リスクの収まりと米国のシェール革命によって、近年まれに見る世界的な石油とガス余りの状況は少なくとも3~5年は続く」と予想する。需給が緩み、資源価格が低迷する中で、供給先の激しい争奪戦が始まっている。

 資源安は、日本にとって朗報だ。

 カタール産LNGから米国産LNGに切り替えるだけで、3割も購入コストを抑えられる。欧州と対立関係にあるロシアも日本をサハリン産LNGの有力販売先としているはずだ。それ以外にもLNG供給国としては、豪州やインドネシアが挙げられる。

 また、米国はすでに石油製品の純輸出国で、今後原油の輸出解禁が注目される。ナイジェリアのように、米国向けから行き場を失った原油がアジア市場を目指すような玉突き現象が次々に起これば、8割以上という高い中東依存度を引き下げられる。同時に、価格や取引条件などの交渉が有利に進められるだろう。

 だが、米国産LNGの輸入が始まるのは17年以降である。米国産LNGの供給が本格化し、価格低下の恩恵を受けるには2年以上かかる。

 また、仮に米国が原油の輸出を解禁しても、中東産重質油に対応している日本の精製設備は使えない。米国産原油が供給されることで、相場全体が下がれば、その分はメリットに違いないが、米国産原油輸出が解禁されても日本が受ける恩恵は限定的である。

 さらに米国が資源超大国化してエネルギーコストが低下したことから、海外から製造業回帰が始まり加速している。一部のシンクタンクでは中国に生産拠点を置くよりも、米国およびその周辺国に販売するには米国で生産する方が、競争力が高くなったと指摘するほどだ。

 すると中国に進出し、米国向け輸出をしている日本企業も米国に移転する可能性が高い。現時点で米国はシェール革命の恩恵を受ける形で、エネルギーコストの低下が実現しているからだ。米国産LNGの輸入が始まり、日本のエネルギーコストが下がって、産業競争力がついた時には、米国の重要な市場はすべて先行して進出した企業に押さえられていることも念頭に置く必要がある。

 7月から約3割も急落した原油価格の低下に、いかに歯止めをかけるか。世界の注目は、最大産油国でこれまで原油価格調整役を担ってきたサウジの動向に集中する。

 サウジはシェールオイルの生産コストを1バレル=60~80ドルと、読んでいるようだ。80ドルを割り込む水準が続けば、生産を停止する事業者が現れ、米国の減産につながる。原油価格低迷はサウジにも痛手だが、これまでの蓄えで当座をしのぎ、シェールオイル事業者を潰すという戦略だ。

 また、米国を中心に進めるイランの核問題包括的協議に対するけん制と指摘する見方もある。イランが核開発を凍結することで、欧米による経済制裁の解除を模索する6カ国協議の期限が11月24日に迫っている。経済制裁が解かれれば、イランは経済活動を活発化させ、原油を増産させるだろう。

 つまり、サウジは原油価格低下でシェール革命を頓挫させ、宿敵イランの国家財政に打撃を与えると同時に、イランに擦り寄りをみせる米国をけん制する狙いという見方だ。


 ◇シェールオイル増産


 しかし、こうしたサウジの見立ては甘いのではないか。石油天然ガス・金属鉱物資源機構の野神隆之上席エコノミストによれば、米国のシェールオイル事業者の8割は、採算ラインが1バレル=60ドル以下という。80ドル割れで撤退に追い込めるというサウジの見通しが外れている可能性が高い。

 実際、米EIAが11月10日に発表したシェールオイル生産関連調査によれば、テキサス州などの主力地域の12月の生産見通しは、11月を上回る過去最高に達することがわかった。サウジの思惑とは裏腹に、シェールオイルの活発な生産が続く。

 原油市場をサウジが意のままに操れた時代は終わった。シェール革命で資源を武器にした米国による新たなエネルギー戦争の幕が切って落とされた。