2014年

12月

02日

緊急特集:アベノミクス相場 第2幕 2014年12月2日特大号

 ◇増税先送り総選挙 危うい期待先行の市場


濱條元保/池田正史

(編集部)


「私が進めている経済政策が間違っているのか正しいのか、ほかの選択肢があるのか、論戦を通じて明らかにする」

 安倍晋三首相は解散を表明した11月18日の記者会見で、総選挙の争点としてアベノミクスを挙げた。


 ◇株価には強気


 予想外の解散・総選挙に株式市場は沸いた。解散が現実味を帯び始めた11月10日から20日までの10日間で、日経平均株価は520円も上昇し、1万7300円となった。選挙後も株高が進むという強気の予想が多い。

 大和証券の木野内栄治チーフテクニカルアナリストは、今後、提示される自民党のマニフェスト(政権公約)に注目するという。「TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉やカジノ関連法案などが株式市場の材料になる。年末までの日経平均の上値は1万8000円を予想する」。

 いちよしアセットマネジメントの秋野充成執行役員は「増税延期に対する株式市場の評価は高まっている」と指摘。自民党が総選挙で大きく議席を減らさなければ、「年末あるいは来年3月末には1万9000円に達する」とみる。

 期待が先行する株式市場とは裏腹に、実体経済の状況は必ずしも芳しくない。


 ◇「大変な景気後退」


 実質国内総生産(GDP)成長率はアベノミクス1年目の2013年度こそ、前年度の0・7%増から2・3%増となった。だが、14年7~9月期は同1・6%減と、事前の市場予想(2%増)を覆すマイナス成長となった。4~6月期の7・3%減に続く2四半期連続のマイナス成長である。

 維新の党の小沢鋭仁国会議員団幹事長は「大変な景気後退で、選挙なんかやっている場合ではない」と首相の解散・総選挙を強く批判した。

 明治安田生命の小玉祐一チーフエコノミストは、7~9月期のマイナス成長について「4月の消費増税後の景気基調が大方の予想以上に弱いことが示された」と言う。GDPの6割を占める個人消費は、7~9月期に前期比0・4%増と2四半期ぶりにプラスに改善したものの、4~6月期の前期比5・0%減からの反発力は鈍い。物価上昇に賃金の伸びが追いついていないことに加えて、急速な円安に伴う輸入物価上昇が家計を直撃しているからだ。

 脆弱(ぜいじゃく)な個人消費が将来需要の見通しを悪化させ、企業の設備投資は7~9月期に前期比0・2%減と2四半期連続のマイナスとなった。「企業経営者が先行き需要に確信を持てず、設備投資に慎重になっている」と、シティグループ証券の飯塚尚己エコノミストはみる。

 1ドル=118円台まで進んだ円安も、原材料などの輸入への依存が大きい企業の業績にマイナス要因だ。


 ◇「増税は失敗だった」


 アベノミクススタート直後から慎重な見方を崩さないBNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは、「13年度は、日銀の金融緩和と財政政策で経済成長した」と指摘する。安倍政権発足直後の金融緩和と12年度補正予算による10兆円の財政出動によって、2・2%の成長につながったとの見立てだ。

 経済の実力である潜在成長率が0・3%程度にまで低下した日本経済は、需要不足ではなく建設業界に代表されるような供給制約(人手不足で公共工事の執行不能など)で、公共工事で需要を増やしても、経済成長できなくなっているというのが河野氏の認識だ。

 従って構造改革などで潜在成長率を引き上げる第3の矢をもっと強力に進める必要がある。

 ニッセイ基礎研究所は14年度の実質GDP成長率の予想を0・3%増から0・6%減に、明治安田生命も0・3%増から0・7%減に下方修正するなど、大半の民間シンクタンクが成長率予想をマイナスに引き下げた。

 アベノミクスの大胆な金融緩和を支持する三菱UFJリサーチ&コンサルティングの片岡剛士主任研究員も、「4月の増税は失敗だった。脱デフレに向けたアベノミクスはやり直し。10%への再増税は当面凍結すべきだ」と指摘する。

 増税先送りと解散・総選挙は、10月末の日銀の追加金融緩和「黒田ショック」と合わせて、市場のサプライズを誘い、株価の急上昇をもたらした。しかしそれは同時に危うさをはらむ。

 楽天証券経済研究所の窪田真之チーフ・ストラテジストは、10月末から外国人投資家が大幅に日本株を買い越していることを指摘して、「①日銀の追加緩和、②年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の日本株組み入れ比率の引き上げ、③円安、④解散・総選挙、この四つの材料が一気に出たことで、政府と日銀は株価を上げるためには何でもやるのか、と外国人は驚いた」と解説する。

 総選挙で自民党が圧勝し、安倍長期政権が実現すれば、何でもありの株価対策と金融緩和が続く。その結果、株式市場と実体経済との乖離(かいり)がますます進み、株価はバブルの様相を帯びてくる可能性がある。

「リーマン・ショック以降、市場の目は短期化しており、外国人は日本経済の長期的な成長や財政には関心がない」(証券アナリスト)。十分な利益を出せば、すぐにでも売って別の市場に資金を振り向ける。その時、日本経済の成長力と企業業績が伴っていなければ、株価は持ちこたえられないだろう。アベノミクス相場第2幕の賞味期限は意外に短いかもしれない。