2014年

12月

09日

特集:水素車・リニア・MRJ 2014年12月9日号

 ◇トヨタ、三菱、JR東海の「夢」 日本の技術力で拓く未来

谷口健/花谷美枝
(編集部)

 ニッポンの乗り物産業が大きく変わろうとしている。
 トヨタ自動車は水素と酸素を反応させて作る電気で動く水素車(燃料電池車)「MIRAI(ミライ)」を12月15日に発売する。開発開始から20年。満を持しての商品化だ。
 航空分野では、三菱航空機の民間小型旅客機「MRJ(エムアールジェイ)(三菱リージョナルジェット)」が2015年4~6月期に初の試験飛行を予定している。17年の納入に向けて、大きな節目を迎える。
 そしてリニアモーターカー。JR東海が、27年の東京─名古屋間のリニア中央新幹線営業開始に向けて、年内に着工する。

 ◇莫大な波及効果

 自動車、鉄道、航空機は部品点数が多く、裾野産業の広がりや波及効果も大きい。また、高い耐久性と量産化が要求される乗り物で実用化される新技術は、他の分野に応用される可能性も高い。
 燃料電池車はトヨタを皮切りに、ホンダも15年度中に発売を予定、日産自動車やスズキも開発を進めている。デロイトトーマツコンサルティングの予測では、燃料電池車の年間販売台数は18年こそ1万台にとどまるが、東京五輪の20年には5万台、30年には40万台に拡大する。経済効果は、20年に約8000億円、25年に約2・2兆円、30年には約4・4兆円となるとみられる。
 水素の利用は乗用車だけに限らない。バスやフォークリフトなどにも広がる。インフラとしての水素ステーション、エネルギーへの応用では水素発電、家庭用燃料電池(エネファーム)など幅広い用途が期待される。これらを合わせれば、水素がもたらす経済効果はさらに大きくなる。
 航空機はもっと広がりがある。MRJは1973年に生産を終えた「YS─11」以来の国産旅客機となるが、国内航空機産業の飛躍のきっかけになるとの期待は高い。
 民間航空機産業では、三菱重工業や川崎重工業、富士重工業などが米ボーイング向けに機体の構造部を手がけてきた。近年、ボーイングの機体の日本企業の担当比率は「767」で15%、「777」で21%、「787」では35%まで拡大してきた。だが、コストベースで見た場合、機体の構造部は航空機全体のわずか3割程度。35%という数字も、機体全体で見ると10%弱に過ぎない。残り7割は、エンジンや飛行制御システムなど装備品と呼ばれる高付加価値品で、収益性も高い。
 装備品の分野では、飛行制御用駆動装置のナブテスコ、降着システムの住友精密工業、機内の化粧室や厨房(ちゅうぼう)設備のジャムコなどの日本企業が世界的な企業だが、それ以外に目立った日本企業は少ない。しかし、この状況は成長余地がそれだけ残されているという意味でもある。
 現在、世界の旅客機産業は40兆円といわれるが、日本企業のシェアは1・5兆円程度にとどまる。だが、世界的には今後15年で80兆円まで拡大するといわれている。MRJで日本の航空機製造業が競争力を付けることができれば、市場の1割に当たる8兆円を日本が引き受ける潜在力も秘めている。
 リニア中央新幹線はどうか。経済効果は、東京─名古屋間開業の27年から50年間で10・7兆円、大阪まで一括整備された場合は16・8兆円になる(三菱UFJリサーチ&コンサルティングの試算)。建設費は東名間で5・4兆円、大阪まで含めると9兆円にのぼる。まずは土木・建設分野におカネが落ちるが、経済効果はそれだけにとどまらない。東名間が40分、東京─大阪間が67分でつながることによる経済効果は大きい。リニアが走れば、東海道新幹線の運営にも選択肢が増え、主要都市以外の駅にも新幹線がより多く止まりやすくなる。観光業も恩恵に浴することができるかもしれない。

 ◇三つが関連する世界

 水素車、リニア、MRJは日本のものづくりの懐の深さによって支えられている面が大きい。
 代表例が炭素繊維素材だ。東レがボーイングから今後10年で1兆円規模の大量受注を獲得したことで話題になったが、実は燃料電池車MIRAIにも同社の炭素繊維が使われている。アルミが主体のリニアの車両にも、一部で炭素繊維が採用されている。
 重工関連では、三菱航空機の親会社である三菱重工業は、リニアの先頭車両を作っている。「最高時速505キロで地面から浮いて走るリニアは、空気抵抗への対応が大きな課題。航空機の技術を取り入れている」(JR東海のリニア開発トップ、白國紀行専務執行役員)。軽量化と強度化はリニア車両にも航空機にも不可欠で、両産業は「技術課題が共通する部分もある」(経済産業省官僚)。
 ベアリング大手のミネベアは航空機向けにも自動車向けにも強く、飛行制御システムのナブテスコは鉄道車両向けのブレーキシステムやドア開閉装置も手がける。水素ステーションに積極的な産業ガス大手の岩谷産業は、リニアの超電導技術を支える冷却用のヘリウムも供給している。タイヤのブリヂストンはMIRAIやリニア車両で採用された。
 日本企業の技術力の高さは世界で定評を得ている。だが自動車、鉄道、航空機の構造部は、いずれも新興国の追い上げにあい、価格競争を強いられつつある。今後もものづくりで日本が存在感を発揮し続けるには、それぞれの先端技術をまとめ合わせ、実用化、量産化にいち早くこぎつけ、新たな市場を創出する必要がある。
 三菱航空機の川井昭陽社長はこう語る。「日本が飛行機産業をあきらめるのも一つの道かもしれないが、やはり飛行機を自前(日本)で作れるようになればば他の国はまねができない」。この思いには、トヨタも賛同し、三菱航空機に10%出資している。

 ◇課題も未来もある

 もちろん、いずれのプロジェクトも課題は多い。水素社会をめぐっては、日本政府の目標では、水素ステーションは15年に100カ所開設の予定だが、トヨタMIRAIの初年度販売目標は400台。1ステーションを4台しか使わない計算だ。インフラ側にとってはビジネスにはならない。
 リニアは、東京─名古屋間の路線の86%に当たる246キロが地下トンネルで、特に南アルプスを貫通する工事は「難関になる」(建設大手幹部)。建設工事を進めるなかで、新たな環境面の課題が出ることも想定される。開業後も赤字経営という経営課題がつきまとう。机上では解決済みだが、「実際に営業した際にコストがボトルネックになりかねない」(国土交通省関係者)。
 それでも、日本企業がグローバル競争を戦うために、水素社会で世界の先頭を行き、リニア新幹線も小型旅客機も海外に売るという筋書きは書けている。航空機産業は自動車産業を猛追する勢いがあるし、超電導リニアは日本で培った最新テクノロジーである。
 トヨタ、三菱航空機、JR東海が歩み出した方向は、乗り物産業全体が日本のGDP(国内総生産)を大きく伸ばすことでもある。その動きが今、活発化しようとしている。