2014年

12月

16日

特集:実家の後始末 Part1 認めたくない現実 2014年12月16日特大号

 ◇不要な家は今すぐ売却 家の価値はどんどん下がる

長嶋修
(不動産コンサルタント)

 東京で働くAさんは、奥さんと子ども1人の3人家族で、通勤にも便利な都市部にマイホームを所有している。5年前に父親は亡くなっており、母親が1人で暮らしていた実家は、他県の郊外にある。Aさんは数カ月に一度、様子を見に行っていた。ところが、7カ月前に突然、母親がけがをしてしまい、介護施設に入居することに。その後は、ずっと空き家状態が続き、処分に困っている。電気や水道を止めていて、日常的に使われない家は、傷むスピードが速い。庭の雑草も伸びる。Aさんは「片道2時間以上かけて定期的に実家を訪れ、空気の入れ換えや草むしりをしている。大変だ」とこぼす。

 空き家問題が深刻化しつつある。2013年10月時点の空き家数は過去最高の820万戸となり、5年前に比べ63万戸増加。空き家率は13・5%に達した。空き家のうち、318万戸が「放置された空き家」と言え、5年前より18・7%も増えた。本格的な少子化と人口・世帯数の減少により、40年に空き家率が30%以上になるとの予測もある。空き家対策は、待ったなしの状況だ。

 ◇新築住宅が多すぎる

 こうしたなか、防災や景観などで危険や迷惑を及ぼす空き家に対し、市区町村による立ち入り調査、解体の命令や代執行を条件付きで認める「空家等対策の推進に関する特別措置法」が11月19日に成立した。だが空き家増に歯止めをかけるには力不足だ。実際、同法に先立って空き家解体の代執行を条例で定めた秋田県大仙市は、所有者に代わり強制的に解体し、費用を所有者に請求しているが、未回収の案件が少なくない。
 一方、住宅は過剰に造られ続けている。日本の適正な新設住宅着工戸数は約45万戸と筆者は見ているが、昨年は100万戸、今年は90万戸ほどになる見込み。これは、日本ではいまだに「景気回復の道具として新規の住宅建設が重要な役割を果たす」とされ、住宅供給量をコントロールしていないためだ。他方、経済協力開発機構(OECD)に加盟する多くの国は「住宅総量目標」「住宅供給目安」などの指標を持ち、市場の住宅数をコントロールしている。
 このように少子化、人口減少、住宅の需給緩和が相まって、住宅価格は下がる。麗澤大学の清水千弘教授らの研究によると、日本の住宅価格は今後30年間に年2%弱ずつ下落するという(37~39ページ参照)。こうした情勢で空き家を放置するのは「資産の価値を減らす」ことにほかならない。にもかかわらず、価値総合研究所が昨年実施したアンケートでは、空き家所有者の約7割が「何もしていない」と答えている。
 既に空き家を抱えている人、あるいは、離れて暮らす親の介護施設入居や死亡などで、空き家の実家を相続する可能性が高い人は、どうすればよいのだろう。売るのか、貸すのか、解体するのか。結論を言えば、多くの空き家は「今すぐ売った方がいい」。既に地方などでは、引き取り手のない「売るに売れない」空き家が多く生まれている。こうした空き家は相続放棄したくても管理義務が残り、国や自治体に寄付したくても断られるケースが大半。やがてこの波は都市部にも来る。以下で、空き家の処分方法の判断材料を示す。

 ◇売る? 貸す? 解体する? 七つのチェックポイント

 空き家をどう処分するか。判断の目安になる七つのポイントで簡単にチェックしてみよう。

 ①建築時期

 まず確認したいのは、家を建てた時期。建築確認の月日が重要で、耐震基準が改正された1981年6月1日の前なら旧耐震基準、後なら新耐震基準だ。時期を示す書類は、建築確認書類一式の中にあるはずなので探してみよう。
 インターネットを使えば、法務省の登記情報提供サービスで調べられる。利用時間は平日午前8時30分~午後9時。土曜日も月1回、午後5時までだが利用可能(12月の実施日は13日)なので、仕事の合間に手軽に確認できる。登記情報の日付は建築確認日より数カ月後だが、目安にはなる。
 旧耐震基準による物件なら、基本的に売った方がいい。将来、住宅ローンを受けにくくなる恐れがあるからだ。住宅にとって融資は、販売価格を左右する決定的な要素。賃貸する場合は、耐震補強が必要になることもある。
 新耐震でも、戸建ては新築から15年ほどたつと、一気に価格が下がる傾向にある。新しいほど売りやすいので、早期売却が望ましい。
 マンションの場合、首都圏の旧耐震比率は25%に上るので、親から相続したマンションは当てはまる可能性が高い。東京都の場合、旧耐震のうち83%が耐震診断すらしていないのが現実だ。今は大丈夫でも、将来、耐震化促進が加速して、診断しないと売りに出せない、診断して建物全体の補強が必要になる、建て替えに巻き込まれる、といった恐れもあるので注意したい。

 ②駅から7分

 次に確認するのは立地。特にマンションは、駅からの距離が徒歩7分以内であることが重要だ。住宅の購入や賃貸に際し、求められる駅からの距離は近年、徐々に短くなっている。5年前は「10分以内」だったが、今は「7分以内」。それより遠いと資産価値が減っていく可能性が高いため、早めの換金が望ましい。
 一方、東京の赤坂、青山、白金のような「都心部の超一等地」で「専有面積25平方メートル以上」のマンションなら、基本は所有したままで大丈夫。内装を手直しして貸しておけばよい。東京都心部の不動産価格は、ロンドン、シンガポール、香港、ニューヨークのような世界の大都市と比べ割安で上昇余地がある。池袋、新宿なども、世界に知られた地名で海外投資家が選好するため有望だ。
 一戸建てはマンションほど駅からの近さを求められないが、近いに越したことはない。地方はもちろん、郊外の典型的なベッドタウンの一戸建ては今のうちに売るべき。何らかの理由で若年層の流入が見込まれ、人口を維持できそうな状況でない限り、一戸建ての価格は当面下がる。
 なお、今年8月の都市再生特別措置法の改正は要注意だ。改正法が目指すのは、端的に言うと、「生かす街」と「捨てる街」を決め、「集まって住む」を実現させること。本格的な人口減少が始まる今後に向けて、上下水道の修繕やゴミ収集などの行政効率を上げようとしている。
 具体的には、自治体が「都市機能誘導地域」「居住誘導地域」を指定する。指定された地域は容積率や用途制限が緩和され、税制面も優遇される。つまり、優遇されるほんの一部の立地と、放置され価格をダラダラ下げていく立地に二分されるのだ。区域割りはこれからだが、指定区域内に入りそうな空き家なら所有したままでもよい。そうでないなら売りだ。

 ③容積率

 容積率とは、敷地面積に対する、建物の延べ床面積の割合。建て替えや売却を検討するなら容積率を調べ、「既存不適格」に該当していないかチェックした方がいい。既存不適格とは、建設当時は適法でも、その後の法改正などで建築基準法の基準に合わない状態になること。そのまま家を使っても、違法にならず、行政が強制的に改善させることもできないが、一定の増改築などの際、その時点の基準に合わせ、改めて建築確認を受ける必要がある。もし建て替えの際、建設時より厳しくなった規制に引っかかり容積率がオーバーしていたら、現状より容積率の小さい家にしなければならない。
 容積率は「建物の延べ床面積÷敷地面積×100」で計算する。これらの面積は「検査済証」などで調べられる。こうして求めた容積率が、現行の容積率を上回っていれば、既存不適格。現行の容積率は、市区町村の都市計画図などで確認できる。
 増改築した場合は、法務省にその登記があれば、この式で計算できる。登記がなければ、増築時の設計図などを確認しよう。図面などが残っておらず判然としない場合は、建築士などの専門家に確認してもらう手もある。費用は数万円だ。
 既存不適格のマンションが建て替えられる可能性はないと見ておこう。このタイプは郊外に多い。所有し続けるのは論外。すぐに売ろう。

 ④無接道家屋

 道路に接していない土地に建つ建物は無接道家屋と呼ばれる。建て替えられないから、原則として売りだ。新たに建物を建てる、または建て替えるためには、幅4メートル以上の公道に、建物の敷地が2メートル以上、接している必要がある。
 ここで注意したいのは、道路に接しているように見えても、それが公道ではなく私道ならNGだということ。一方で、道路の幅が4メートル未満でも特例的に建て替えられる場合もある。これらは、市区町村の道路課など管轄の窓口で確認できる。
 現在こうした「再建築不可物件」のニーズはほとんどなく、価値も低めだ。それでも道路に接している隣地の所有者が購入すれば、その土地の価値は生まれ変わる。近所づきあいを深め、早めに動いてそうした可能性も見いだしたい。

 ⑤部屋の広さ

 マンションに限れば、専有面積もポイントになる。20平方メートル未満のニーズはない。できれば25平方メートル以上ほしい。マンションを買おう、借りようとする人が不動産の検索サイトで条件を設定する際、広さは「25平方メートル以上」とするケースが多い。
 バブル期に建てられたワンルームマンションは、都心3区(千代田区、中央区、港区)でも空室率が20~30%台に達している。20平方メートル未満の物件が多いのが要因だ。

 ⑥管理の質

 マンションなら管理の質も確認したい。古いと外壁や屋根はもちろん、配管類の修繕や更新も必要になる。こうした工事は大規模で費用もかさむので、修繕計画の有無やマンション全体の修繕積立金などを調べる。所有者はマンション管理組合の議事録を確認できる。議事録には、修繕に関することのほか、積立金の滞納や問題のある入居者の有無、課題なども記載しているので必ず確認しよう。大きな問題がなければ、所有したまま賃貸に出してもいい。
 一方、経年劣化による外壁などの修繕を怠っているマンションは、修繕積立金も不足していることが多く、将来は負の遺産となる。すぐに売りたい。

 ⑦補助金

 市区町村は、問題のある空き家の撤去を促すために、さまざまな補助金制度を設けている(32~33ページ参照)ので問い合わせてみよう。古い一戸建てで、建物の解体に補助金が出るなら、解体して土地を売却するのがベストだ。
 また、国土交通省は近い将来、郊外の空き家を活用して、高齢者のデイケアサービスなどを行う企業・団体を、規制緩和や補助金などで支援する方針だ。こうした動きに該当する可能性があるなら、所有したままにする手もある。

 ◇スピード勝負

 以上、簡単なチェックポイントを紹介したが、都心の超一等地に建つ物件や、地域で最高級の物件などでもない限り、住宅の資産価値は今後、下がる一方だ。株式の損切りと同じで、早めの処分が、ほとんどのケースで最も合理的な行動である。
 1カ月以上売れない住宅は「売れ残り」のイメージを持たれる。住宅を売る場合、相場より7%以上高くすると、1カ月以内に売れる確率はとたんに低くなる。早く処分するなら、適正相場からあまり乖離(かいり)しない価格を付けよう。長期的に下落することが確実な住宅の売却は、時間との戦い。スピードが必須だ。