2014年

12月

16日

経営者:編集長インタビュー 野上一孝 ザインエレクトロニクス社長 2014年12月16日特大号

 ◇画像処理用半導体で世界を狙う

 工場を持たない「ファブレス」の半導体メーカーとして創業。2011年に国内テレビの需要激減のあおりを受けて12億円の赤字に転落後、世界トップシェア製品もある画像処理用半導体を武器に業績回復の途上にある。

── 赤字を経験した後、どうやって事業を立て直していますか。

野上 11年当時は、液晶パネルメーカー向けにカスタマイズした画像処理用の半導体が売り上げの大半を占めていました。大手電機が軒並み赤字になり、当社も営業赤字に転落しました。それまでのテレビ「一本足打法」では厳しいと考え、製品展開を多角化するポートフォリオ型の事業構造に転換しました。

── 現在の事業構成は。
野上 テレビなど民生用機器向け、コピー複合機や監視カメラを中心とした産業機器向け、スマートフォンなどモバイル向け、車載器向けの4分野を重点的な市場と位置付けています。また、地域的にも市場拡大を図っています。特に、半導体の巨大市場になった中国の需要を取り込むために、13年1月に深圳、同11月に上海に拠点を作りました。

 ◇業界トップの世界標準品

── 製品展開も変わりました。
野上 特定の顧客専用に作り込むカスタム品でなく、「ASSP」という特定分野で汎用的に使える製品に注力しています。ASSPは世界標準なので複数企業に買ってもらえ、リスクが分散できます。当社の強みは画像データを高速送信する「LVDS」技術です。11年当時、LVDS製品をはじめ汎用品をいくつか生産していたので、カスタムから汎用への切り替えにも対応できました。
 そのうち最も売り上げが伸びているのがオフィスで使われるコピー複合機向け半導体です。高精細でデータ量の大きい画像を短時間で伝送できるのが最大の強みです。
── 液晶パネルやカメラの用途拡大も追い風ですね。
野上 液晶パネルが付いたパチンコ・パチスロ機器向けが伸びています。特にパチンコ機器では、パチンコ玉同士の衝突で発生する静電気で、LED(発光ダイオード)の制御信号にノイズが混入します。そこでノイズに強い当社製品が、多様な機種に採用されています。もう一つ有望なのが東京五輪で市場拡大が見込まれる監視カメラ向けです。今、4Kテレビの内部機器間の情報伝送用半導体で、当社の汎用品「V‐by‐One HS」が世界標準になっています。これが監視カメラにも使われ始め、出荷が伸びています。
── 車載器向けはどうですか。
野上 クルマには衝突防止の安全装置や運転状況を記録するドライブレコーダーなどが装備されつつありますが、これら車載器には複数のカメラが使われます。速度メーターなども液晶パネル化しています。車載器間で画像データをやり取りする技術を求めている各自動車メーカーが、当社製品を採用しています。
── 海外戦略は。
野上 まず、アジアを中心に海外拠点の販売力強化を図ります。汎用品の場合、顧客の言う通りに作るだけでよかったカスタム品と違って、売れる仕様を考えなければならないという難しさがあります。いい例が韓国です。テレビ向けカスタム品の最大顧客だった韓国メーカーがテレビの不振で売り上げを激減させた時、当社の韓国子会社は存続の危機に陥りました。その際、社員が必死に開拓したのが、韓国で普及していたドライブレコーダーの市場でした。そのカメラにスマホカメラ向け半導体「ISP」が使えそうだということでメーカーに売り込みました。読みは当たり、霧の中でもはっきり撮れる霧補正などの機能を加えたところ、韓国中のメーカーがISPを買い求めました。ちょうどPM2・5による視界不良が問題化していた中国でも売れました。
 米欧にも手を広げています。自動車に後方確認カメラの取り付けが18年から義務付けられる米国で、売り上げ増が期待できます。また、当社のように、ある分野に特化したメーカーにとって、米半導体大手が提供する「リファレンスデザイン(半導体製品の設計図)」に自社製品を載せてもらうことが重要です。これを参考に電機メーカーなどが製品設計を行うため、載れば製品を買ってもらえる可能性が高まります。現在、米半導体大手NVIDIA(エヌビディア)のリファレンスデザインに当社の製品が載っています。
── 足元の課題は。
野上 多機能化した半導体は、より緻密なプロセスが求められる分、開発コストが上がります。1製品で数億円も珍しくありません。コストダウンのためファブレスの強みを生かしたいです。もう一つは、高機能のハイエンド品を追うだけでなくローエンド品も押さえることです。技術的に進んだ製品にシフトする時、従来品の生産をやめてしまうと、その市場を後発企業が押さえてしまいます。後戻りできない状況でハイエンド品の顧客が売り上げを落とせば、共倒れです。この「イノベーションのジレンマ」に陥らないことが大事です。
── 今後の目標は。
野上 半導体製品の世界市場は金額ベースで国内市場の8・5倍あります。「世界一のソリューション」で、営業利益25億円を目指します。(Interviewer=横田恵美・本誌編集長、構成=大堀達也・編集部)

 ◇横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか?
A 33歳の時に東芝の研究所から米スタンフォード大に1年半留学しました。94年に帰国しソニーの「プレイステーション」用の半導体開発にも携わりました。39歳の時に、飯塚哲哉さん(現ザインエレクトロ二クス会長)に声を掛けられました。
Q 最近買ったもの
A 「トアルコトラジャ」コーヒーにはまっています。オフィスにコーヒーメーカーも入れました。
Q 休日の過ごし方
A 出身地の大分県のサッカーチーム「大分トリニータ」の試合観戦です。
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 ■人物略歴
 ◇のがみ・かずたか
 東京大学工学系大学院物理工学専攻修了後、1984年東芝入社。99年ザインエレクトロニクス入社。2001年取締役、13年3月社長就任。55歳。