2014年

12月

23日

ワシントンDC 2014年12月23日特大号

 ◇米社会を揺るがす警官不起訴 党派を超えて広がる疑問の声


今村卓

(丸紅米国会社ワシントン事務所長)


「警察の黒人に対する人種差別」という米国に古くから残る根深い問題が、再び社会を揺るがす存在として浮上してきた。

 11月下旬、ミズーリ州ファーガソンで8月に白人警官が黒人青年を射殺した事件で、同州の大陪審は警官を不起訴とする判断を下した。ファーガソンでは抗議運動が暴動に発展、抗議運動も全米に広がった。

 その暴動がようやく収まったばかりの12月3日、今度は7月にニューヨーク市スタテン島で黒人男性が白人警官に首を絞められる形で身柄を拘束され、直後に死亡した事件について、こちらも大陪審がこの警官を不起訴にした。同日夜にはニューヨークやワシントン、シカゴなど米国の複数の主要都市で抗議デモが行われ、翌日にはその規模が数千人に拡大した。

 もっとも二つの抗議運動には大きな違いが生じている。ファーガソンでは抗議運動に加わった住民の一部が暴徒化し、オバマ大統領がそれを「言い訳できない犯罪行為」と非難して自制を呼びかける事態となった。社会的には、人種差別を非難するリベラル派や公民権擁護団体と、「射殺しなければ自分が殺されていた」と訴える白人警官を支持する保守派の対立も生じつつあった。

 これに対してスタテン島事件の不起訴に対する抗議運動は一部で逮捕者こそ出たが、統制の取れたデモが続き、目立った暴力は伝えられていない。さらに保守派の論者からも、不起訴の判断は理解し難いと非難の声が上がっている。


 ◇ビデオが突きつけた異常


 この違いを生み出したのは、スタテン島の事件現場を撮影したビデオの存在だ。タバコの不法販売を疑われた男性は複数の警察官と口論こそしたが、丸腰で無抵抗。警官らが押し倒し、一人の警官は腕で男性の喉を締めつけた。「息ができない」と繰り返し訴えているのに警官は腕を緩めず、結果として男性は窒息死した。

 男性の首を絞めた警官は「誰も傷つけるつもりなどなかった」と声明を出したが、ビデオを見ればなぜこの警官が不起訴になったのか、首を傾げるのが一般的な反応だろう。スタテン島のビデオの存在は、抗議運動への支持を広げ、警察の改革へ政治が動き始めるきっかけとなりうるかもしれない。

 米国の人口のうち黒人は13%だが、無抵抗でありながら警官に拘束された際に死亡した人数では42%を占めるというデータもある。あまりに多くの黒人男性が、警官に不当に疑われた経験を語っている。オバマ大統領も、スタテン島の事件の不起訴の後、警察の法執行が「公平に扱われていると確信できない多くの事例を見ている」と明言した。これまで人種対立をあおりかねない発言を控えてきたオバマ大統領としては、一歩踏み出した対応といえる。議会でも、共和党のベイナー下院議長が二つの不起訴の問題を審議で取り上げることを示唆した。党派やイデオロギーを超えて、スタテン島の事件を問題視する声は広がっている。

 もちろん、差別の克服への道のりは遠い。保守派は警官個人の問題にしようとしているという見方もある。また、民主党の支持勢力であろう警官の労働組合は、スタテン島の事件の警官を擁護する声を上げている。オバマ政権が警察改革に着手しようとすれば、激しい抵抗が待っていることは間違いない。それでも、ビデオの説得力は、オバマ政権が議会に求めている全米の警官への小型カメラ装着を後押しするだろう。

 自制の利いた抗議デモが象徴するように、静かに米国の一つの問題が改善に向かい始めることを期待したい。