2015年

1月

13日

ワシントンDC 2015年1月13日号

 ◇米国内で存在感増すラテン系 大統領選見据えた移民救済措置


篠崎真睦

(三井物産ワシントン事務所長)


 先日、ホワイトハウスの前に大勢の移民活動家らが集まり、オバマ大統領に感謝のサインを掲げているのを見た。オバマ大統領が昨年11月20日、移民制度改革に大統領令を発令すると発表したためだ。

 現在米国には約1100万人の不法移民者が存在しており、その大半はメキシコやグアテマラなど、中南米諸国の出身者である。近年は多くの不法移民者が強制退去させられることで、家族が離散したり、退去先でホームレス化するなどの問題が出ている。今回の大統領令で、不法移民の半数近くにあたる約500万人が3年間の滞在を認められる救済措置を受ける。

 大統領令は中間選挙で民主党が大敗した後に行使されたため、共和党とオバマ大統領の間で対立が激化している。しかし移民制度を巡ってはさまざまな議論はあるが、不法移民を雇用する企業が、社会保障費を含めた労働コスト面で競争上優位になるなど、現在の制度に欠陥があるとの点では両党の認識は一致している。

 ではなぜオバマ大統領はこの時期に大統領令行使に乗り出したのか。

 現在、米国には約5400万人のラテン系が存在しており、全人口の17%を占める「米国一のマイノリティーグループ」を確立している。

 米国勢局が実施した2011年版アメリカン・コミュニティー・サーベイ(ACS)を見ると、米50州のうち43州でスペイン語が第2共通語として使われており、公用語化されつつある。さらに人口増加率も高く、ラテン系人口は60年までに31%まで拡大すると言われている。


 ◇完全なる浮動票


 この人口構成は政治家にとっても極めて重要である。従来、ラテン系は民主党の強い支持者で、12年の大統領選でオバマ大統領は71%ものラテン系の票を獲得した。

 ただし、常に民主党を支持しているわけではなく、例えばテキサス州では、共和党のジョン・コーニン上院議員が48%のラテン系の票を獲得した。非常にリベラルなニュージャージー州でも同党のクリスティー知事がラテン系の票の51%を得ている。

 ラテン系自身の見方では、32%が保守派、31%が中道派、そして30%がリベラル派だとしている。現在ラテン系の票は完全な浮動票と言えよう。そして1986年から2010年の選挙を見ると、棄権するラテン系たちの割合は下がり続けている。

 今回の中間選挙結果と前回の大統領選挙(12年)を地元メディアの出口調査を基に比較すると、今回の中間選挙の投票率は全米平均で36・3%と戦後最低水準となり、明らかな傾向として「女性、マイノリティー、若者、リベラル」といったオバマ(民主党)支持層の投票比率が下がり、「男性、白人、中高年、保守」といった共和党支持層が厚みを増した。

 特にラテン系の民主党支持率は約8%も低下した。人口増加率の高いラテン系グループに対する政治的行動は、共和・民主両党共に将来の選挙で当選を果たす大きなポイントになるだろう。

 また経済でも米国内のラテン系市場が大きな影響を与えつつある。12年現在での米国内ラテン系世帯は1558万9000世帯(平均所得が3万9000ドル)で、市場規模としては6080億ドルと計算できる。仮にラテン系グループが一つの国であった場合、世界のトップ20カ国に入る規模である。

 世界規模で影響力を拡大し始めているラテン系グループとの関係は、アメリカの政治経済を大きく左右する問題であり、オバマ大統領は16年大統領選で民主党内後継者にバトンを渡すことを見据え、今回の移民制度改革に踏み切ったのである。