2015年

1月

20日

ワシントンDC 2015年1月20日特大号

 ◇一転上映「ザ・インタビュー」 米朝は新たな緊張関係に

及川正也
(毎日新聞北米総局長)

 米人気トーク番組のプロデューサーのもとに突然かかってきた電話は、北朝鮮の最高指導者である金正恩第一書記との単独インタビューの招待だった――。
 米映画会社ソニー・ピクチャーズエンタテインメントが製作したコメディー映画「ザ・インタビュー」はこうして本題に入っていくが、「平和の守護者」を名乗るハッカーが上映を阻止しようとサイバー攻撃を仕掛け、ソニー・ピクチャーズ側がいったん予定された昨年12月25日の封切りを中止したことで騒ぎが一気に広がった。

 米連邦捜査局(FBI)は攻撃ソフトや攻撃の手口の分析から北朝鮮が関与していると断定。オバマ米大統領は「相応の対抗措置」を取ると明言する一方、ソニー・ピクチャーズの判断を「間違いだ」と批判。北朝鮮は関与を否定したが、ハッカーは上映中止を評価し、さやあての応酬になった。
 問題は、招待されたトーク番組の司会者とプロデューサーのもとを米中央情報局(CIA)の女性エージェントが訪れ、暗殺を依頼するという筋書きにあるのだろう。映画では金第一書記の人名や北朝鮮など地名は実名で登場する。加えて、第一書記がコミカルに描かれている点も、抗議を受けてもおかしくない。
 予告編を見る限り、第一書記が米人気女性歌手ケイティー・ペリーの曲で盛り上がったり、互いに触れ合ううちに司会者が第一書記のことを「悪いやつじゃない」と暗殺をためらう場面があるなど、要は、全編、風刺やパロディーだ。「暗殺」という設定はともかく、米国ではこの程度のパロディーは普通だ。


 ◇風刺に寛容な文化


 古くは、第二次世界大戦に米国が参戦する前の1940年に公開されたチャールズ・チャップリンの映画「独裁者」は、実名ではないが、チャップリンがドイツのヒトラーやナチスをちゃかし、痛烈に批判する内容だった。近年ではイラクのサダム・フセイン元大統領らをパロディーにした映画も話題となった。
 国内ではもっと痛烈だ。2008年大統領選時には人気テレビ番組「サタデーナイト・ライブ」で民主党予備選候補だったヒラリー・クリントン氏や共和党副大統領候補だったサラ・ペイリン氏らをコミカルに演じたコントが大人気となり、同年公開の「ブッシュ」(原題「W.」)はブッシュ前大統領をコメディータッチで描いていた。
 オバマ大統領自身もパロディーの常連組となる米国では、大衆文化として権力者が風刺の対象となるのは当然であり、権力側もそれに寛容だ。オバマ大統領が一企業の上映中止を「間違いだ」とあえて言及したのは、米国の象徴である表現や言論の自由が脅かされたという直感的な危機感がある。オバマ大統領は今回のサイバー攻撃を「文化への破壊行為」と位置付けている。こうした攻撃に萎縮すれば、民主主義の盾となるマスメディア全体が危機にさらされるという強い危惧がうかがえる。
 こうしたサイバー攻撃にオバマ大統領は「相応の対抗措置」を講じると言明している。米国にも国家安全保障局(NSA)に大規模なハッカー部隊がある。米メディアはサイバー攻撃による反撃から、05年に実施して効果をあげた金融制裁、08年に解除したテロ支援国家の再指定までいくつかの案があると報じている。
 ソニー・ピクチャーズは12月23日になって一転して上映する方針に転換し、ホワイトハウスは歓迎声明を出した。金第一書記の風刺映画をきっかけに米朝関係は新たな緊張段階へと移ったのは間違いない。