2015年

1月

27日

特集:自動運転・AI・ロボット 2015年1月27日号

 ◇100兆円市場に成長する新産業 ものづくり日本の逆襲が始まった

中川美帆/大堀達也
(編集部)

 荒天の東京湾岸。風雨の中、駐車場の中央にたたずむ人影に向かって、1台のクルマが突進していく。雨で視界がふさがれたのか、クルマが減速する気配はない。このままではぶつかる、というその時、クルマが急ブレーキをかけ、間一髪、人影の直前で止まった。

 この光景を傍(はた)から見ていて、「クルマは止まったが、ドライバーはブレーキを踏んでいなかった」と想像できた人はどれくらいいるだろうか。
 これは昨年11月、トヨタ自動車が報道陣に公開した、クルマの自動衝突回避システムのデモンストレーションの一幕である。
 このシステムは、走行中のクルマが前方の障害物に衝突しそうになったら、自動で減速し停止させる。この日、トヨタが3年後をめどに全車種に導入すると公表した。これまではドライバー=人間がしていた判断を、これからはすべてクルマ=機械がするのだ。
 一方、都内オフィスビルの建設現場では、昨年12月に3人の左官工が装着型ロボット「作業支援用HAL(ハル)」を身につけて仕事をしていた。重さ25キロものセメント袋を軽々と持ち上げる最年長67歳の男性は、「そろそろ引退することを考えていたが、あと数年は続けられそう」とよろこぶ。ハルを開発したのは、筑波大学発ベンチャーのサイバーダイン。大手ゼネコンの大林組は昨年10月から現場にハルを導入し始め、建設作業用にどこまで効果を発揮するか、サイバーダインと共同で実証を重ねている。建設現場の作業員の約7割は腰に持病を抱えるとされる。深刻な人手不足のなか、負担を軽くし、高齢者にも長く働いてもらう効果が期待されている。

 ◇研究開発に国費

 今、世界中が自動運転とロボット、その頭脳の人工知能(AI)の開発にしのぎを削っている。将来の爆発的な成長が見込まれる、数少ない有望市場だからだ。
 自動運転の市場は、現在の約5000億円から、2030年には20兆円になると予想されている。ロボットの国内市場は、35年に9兆7080億円になり、12年実績の10倍以上に激増するとの見通しを経済産業省などが示した。しかも、政府が強力にバックアップしている。昨年6月に公表した「日本再興戦略」の改訂版でロボット技術の浸透を掲げ、研究開発に続々と国費を投入。ロボット普及に向けて大きく離陸した。
 自動運転、ロボット、AIの世界市場は、関連部品も含むと30年にざっと100兆円に到達しそうだ。

 ◇異業種が参戦

 自動運転とロボットの市場拡大に共通するのは、時代の要請にピッタリ当てはまることだ。高齢化や人手不足、新興国の人件費上昇などが課題になる一方で、安全性や品質に対する要求は高まっている。
 この状況に対し、自動運転は安全で快適な走行を支援。ロボットも活躍する。例えば、老朽化した橋を点検するには、高所の作業車に人が上って、ひび割れなどを目視しなければならないことがある。三井住友建設らが開発した、伸縮するポールにカメラを設置した点検ロボットをタブレットPCで操作すれば、作業員は安全な場所で効率良く点検できる。
 医療や介護、農業などにロボットを導入すれば、間違えない、疲れない、といったメリットも大きい。
 この成長市場を狙い、従来と異なる業種も参戦している。象徴が、20年に自動運転車を実用化すると表明したグーグルだ。自動運転は、自動車メーカーが手薄なAIなどの先端技術を使うため、業界や国境を越えた取り組みが加速しやすい。自動運転車に搭載する半導体を巡っても、大手メーカーの米インテルだけでなく、オランダ企業モービルアイなどが台頭している。
 ロボット市場も百花繚乱(りょうらん)の状態だ。「ドローン」と呼ばれる無人飛行機の開発、量産を目指す自律制御システム研究所(千葉市)のような大学発ベンチャーが出現し、国内外から高い評価を獲得。ロボット本体だけでなく、それを構成する要素のアクチュエーター(駆動制御装置)、コントローラー、センサー、バッテリー、通信などを扱う会社にも出番がある。スマートフォンと同様に、他産業からの参入障壁は低い。
 インフラの維持管理には、従来の建設会社だけでなく、交通量などのビッグデータの処理でITベンダーが参入。工場作業の自動化を支援する次世代ロボットの開発などで、オムロンとサイバーダインが昨年末に業務提携したように、業界の垣根を越えた連携も加速しそうだ。

 ◇規制対策が課題

 自動運転とロボットの開発が猛スピードで進むなか、表面化してきたのが法の未整備などの課題だ。
 もし、運転支援システムの故障で事故が起きた時、法的責任がドライバーにあるのか、システムを提供する会社にあるのか、線引きが難しくなる可能性がある。
 ロボットは、規制が開発と普及の足かせになりかねない。例えば、日本の公共インフラの点検では、発注者が目視による確認を求めることが多いという。また、ドローンは物流の効率化などで大いに普及が期待されているが、現在の日本の航空法は、ドローンの商業利用を想定していない。高度150メートル未満なら規制対象外と解釈され、安全のためのルールが抜け落ちた状態だ。このため政府は、昨年立ち上げた「ロボット革命実現会議」などで規制緩和やルール作りを検討している。
 日本は高齢化や人手不足などに、他国より一足早く直面する。自動運転やロボット、AIに必要な電子部品や高機能素材、半導体など裾野産業でも世界で唯一無二の広がりと懐の深さ、技術力の高さを持つ。
 さまざまな国が直面する問題に対し、日本の産業が垣根を越えて「協調と競争」を組み合わせれば、“新しい日本モデル”を世界に展開し、100兆円市場を切り拓くことができるかもしれない。