2015年

2月

03日

特集:とことん分かる原油安 2015年2月3日特大号

 ◇金融市場の動揺の基点に 不安の連鎖を招く原油安

桐山友一
(編集部)

 原油価格の下落が、世界の金融市場を揺るがしている。
 米国産標準油種(WTI)が一時、約5年8カ月ぶりに1バレル=50ドルを割り込んだ1月5日、米ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は前週末比1・9%安の大幅下落で取引を終えた。下げ止まりの兆しが見えない原油安が嫌気され、米石油大手シェブロンなどエネルギー関連銘柄を中心に売り込まれた結果だった。米ニューヨーク証券取引所、ナスダックを合わせた株式市場の時価総額はこの日、1日で約6200億ドル(約73兆円)が吹き飛んだ。

 そればかりでない。翌6日の東京株式市場では日経平均株価が3%下落し、約3週間ぶりに1万7000円台を割り込んだほか、安全資産とされる日本国債への買いが集中。日本の長期金利(10年物国債)が初の0・2%台へと低下(国債価格は上昇)し、ドル・円相場も1ドル=119円台前半と前日に比べ1円強もの円高が進行した。原油安が基点となって、世界の株式や債券、為替市場を激しく値動きさせているのである。
 昨年半ばまで1バレル=100ドル前後の高値で推移していた原油価格。しかし、米国で開発が進むシェールオイルの産出増や、旺盛なエネルギー需要を支えた中国をはじめとする新興国の成長鈍化が鮮明になる。さらに、石油輸出国機構(OPEC)が昨年11月、減産見送りを決めたことで、需給の緩む懸念が原油市場で急速に拡大。わずか半年余りで半値以下へ急落した。ただ、ニューヨーク原油先物の市場規模は1500億ドル程度と、株式や債券市場に比べれば圧倒的に小さい。その原油価格がなぜ、世界の金融市場を揺るがしているのか。

 ◇米ハイイールド市場に懸念

 リーマン・ショック(2008年)後、世界経済が緩慢な回復基調をたどる中で、米連邦準備制度理事会(FRB)や日銀、欧州中央銀行(ECB)は積極的な金融緩和を実施。世界にあふれたマネーが向かった先は、信用力の低い企業が発行する米ハイイールド債市場であり、原油高に支えられた資源国だった。そして、この米ハイイールド債市場はシェールオイル開発など、米国のエネルギー関連企業の大きな資金調達先となっていたのである。
 しかし、原油安はこうしたエネルギー関連企業や資源国の収入減を引き起こし、資金繰りへの懸念を高めている。米エネルギー関連企業(トリプルB格)のクレジット・スプレッド(5年物米国債と比較した利回り差)は昨年夏以降、急拡大しており、エネルギー業種を中心に社債価格の値崩れが始まった。BNPパリバ証券の中空麻奈・投資調査本部長は「米エネルギー業界は大きな課題を抱え込んだ。米ハイイールド債市場では今後、デフォルト(債務不履行)が出る可能性を見ておく必要がある」と指摘する。

 ◇マイナス金利の「異常」

 原油安はいまだ底が見えない。欧州金融大手UBSグループの富裕層向け資産運用部門でグローバル最高投資責任者(CIO)を務めるマーク・ハフェル氏は「WTIの需給がバランスするには1バレル=65ドルを超える水準が必要だが、現在は需給の均衡を欠いた状態だ。短期的には現在の水準から1バレル=8~10ドルほど、WTIが下落してもおかしくない」と話す。すでに同部門は約2年前、長期的な運用資産の配分方針から原油を含む商品を外している。「商品投資のリスクは株式並みながら、債券並みのリターンしか得られない」(ハフェル氏)からだ。
 原油安が今後も進行すれば、信用不安が一層拡大しかねない。そうした不安の連鎖が安全資産へのマネーの逃避をかき立て、日本やドイツではいまや短・中期国債がマイナス金利に陥ることも珍しくなくなった。本来は債券を保有して金利を受け取るはずが、逆に金利を払わなければならない“異常事態”だ。原油価格への疑心暗鬼は当分収まりそうにない。