2015年

2月

24日

ワシントンDC 2015年2月24日号

 ◇介入も後退も災いのタネに 果てることないテロとの戦い

及川正也
(毎日新聞北米総局長)

 テロとの戦いを「長い戦争」と定義づけたのは、2001年の米同時多発テロで報復を誓ったブッシュ前大統領だった。その戦争は今年15年目を迎える。泥沼化したベトナム戦争をはるかにしのぐ持久力と忍耐を強いられる戦いだ。だが、戦いの出口は見えないばかりか、オバマ大統領は新たな敵と向かい合っている。
「弱体化させ、最後には壊滅させる」。下院本会議場で1月20日に行われた一般教書演説。オバマ大統領はいつもの言い回しでテロに立ち向かう「オバマ戦略」を披露した。欧州やアラブ諸国との有志連合で空爆を重点的に実施し、地上戦闘はイラクやクルドに委ねる戦い方。オバマ大統領はこれを「より賢明な指導力」と呼ぶ。

 テロ組織を力任せで一撃するのがいかに困難かは、国際テロ組織アルカイダの封じ込めに失敗したブッシュ前政権の経験から分かっている。11年にはアルカイダの首領ウサマ・ビンラディン容疑者を殺害したが、イスラム過激派の暴力は弱まるどころか拡散し、虚を突かれて「イスラム国」(IS)の増長を許した。
 少しずつ勢力をそぎ、拡散を阻止し、包囲網を構築して、とどめを刺す──。「それには時間がかかり、集中を要するが、我々は成功するだろう」と自信を見せ、今は同時多発テロ時の決議を援用して実施しているIS攻撃に対し、新たな武力行使容認決議の採択を議会に求めた。

 ◇弱体化にはほど遠く

 私は演説を議場内の記者席から見ていた。オバマ大統領が「本気」を見せた瞬間と映ったが、賛意を示す拍手はそれほど起きなかったことに驚いた。オバマ政権はISの増勢を局地的に阻むなど一定の成果をあげているが、「弱体化」にはほど遠い。議会には、中東での紛争に深入りすることを警戒する「孤立派」と、地上部隊派遣も含めた「介入派」の溝が、14年8月のIS空爆開始後も根強く残っている。オバマ戦略を手放しで後押しできない空気を反映したかのようだった。
 米国のテロとの戦いは、同時多発テロが皮切りではない。その10年近く前の1992年末にアルカイダはイエメンのホテル2カ所を爆破。翌年にはニューヨークの世界貿易センタービル地下駐車場で自動車爆弾を爆発させ、惨事を引き起こしている。米本土を狙った攻撃だった。
 アルカイダは、イスラム世界の指導者が束ねる「カリフ国家」を復興させるためジハード(聖戦)を主張し、ユダヤ人やイスラム諸国を攻撃したキリスト教徒の「十字軍」を敵とみなし、米国への攻撃に執念を燃やす。ISもカリフ国家再興のため、シリアとイラクの拠点から「領土」の拡大に挑戦し、米欧を攻撃している。
 米中央情報局(CIA)でアルカイダ担当部長を務めたマイケル・ショワー氏は「(イスラムの)信仰、同胞、領土が米国から攻撃されているという認識」が対米憎悪の動機になっていると指摘している。しかし、米国から見れば、「自由や民主主義」を脅かす「残虐非道」のテロ集団以外の何者でもない。それはISであっても同じことだ。
 増悪が連鎖するこの紛争地帯では傍若無人な介入も他人事のような後退も、災いのタネになる。宗教・文明対立の構図を慎重に避けながらも、米国内の孤立派も介入派も詰まるところ有効な解決策を見いだせず、人種差別の解消や貧困の撲滅など息の長い政策に取り組むしかないという。ある知人は言った。「『麻薬戦争』に似ている。根っこは絶てない。これは戦争ではなく、果てることのない戦いだ」。