2015年

2月

24日

特集:宇宙・深海・地底 2015年2月24日号

 ◇衛星の低価格化が進行 宇宙からの情報で広がる商機

谷口健/花谷美枝
(編集部)

 人工衛星のカメラやセンサーでキャッチした地表、海面のデータを民間企業がビジネス拡大に利用する。そんな事例が増えている。
 地球温暖化で氷山が溶け、脚光を浴びる北極海航路は、衛星のデータを活用する舞台となっている。日本と欧州を結ぶスエズ運河やパナマ運河経由の航路に対し、北極海航路の航海距離は約3分の2と、燃料費が節約できる。海氷などの障害物がリスクとなっているが、衛星のデータを海運会社が活用すれば、安全かつ最短ルートを通ることができる。

 日本の水循環変動観測衛星「しずく」はマイクロ波センサーを使い、雲があっても北極海の精緻な状況を把握。リモート・センシング技術センター(東京・港区)などがこのデータを基に、安全な航路情報を企業向けに提供しようとしている。
 保険業界は衛星のデータから、新商品を開発した。損害保険ジャパン日本興亜が気象データを数理計算に活用し、雨量が一定量を下回った場合に保険金を支払う「天候インデックス保険」をタイの農家向けに商品化。15年度にはミャンマーでも販売する。サイクロンや多雨のリスクに対象を拡大する予定だ。
 最新の衛星のセンサーは、おコメや小麦のたんぱく質の含有量を読み取って最適な収穫時期を探ったり、米国のトウモロコシ農場を監視して不作・豊作の情報をいち早く知ることも可能で、一般農家や仕入れ業者も含め農業でも活用が進んでいる。
 また、老朽インフラを整備するために、地盤沈下や地殻変動を計測して危険地区を特定したり、南米チリで銅山を探すなど資源探査にも利用されている。衛星からの情報の利用分野は、従来の気象や地図(GPS)関連だけでなく、環境、防災、林業、漁業にも広がっている。

 ◇3億円で衛星を飛ばせる

 こうした人工衛星需要の高まりで、衛星そのものや運搬用のロケットの開発競争が激しくなってきた。
 米国では、ロケット打ち上げや国際宇宙ステーションへの物資輸送で民間企業も活用すると10年に方針転換したこともあり、新規参入が相次ぐ。電気自動車「テスラ」を生み出した有名起業家のイーロン・マスク氏がCEO(最高経営責任者)を務めるロケット開発企業「スペースX」はその台風の目だ。14年9月にはNASA(米航空宇宙局)から有人宇宙船を受注。17年初めには初の有人飛行を実施する計画だ。
 米グーグルもスペースXに目をつけ、1月に米資産運用大手フィデリティと10億ドル(約1200億円)を出資。グーグルは14年8月に、衛星で撮影する画像を提供する米スカイボックス・イメージングを買収するなど、宇宙投資への意欲を隠さない。IT分野で起きた技術革新と市場拡大が、宇宙分野でも起きると見込んでいるからだ。
 実際に、ベンチャー企業の参入が呼び水となり、パソコンやスマートフォンなどIT機器と同様に、衛星やロケットの価格革命が起きている。重さ100キロ以下の超小型衛星市場でその動きは顕著だ。
 従来の人工衛星は精度、機能、耐久性を追求した結果、数トン級の大型機になる。300~500キロの小型衛星でも、製造、打ち上げ費用は約100億円。開発期間も5~10年かかり、失敗時のリスクは大きい。
 しかし、超小型衛星は発想を転換。精度や機能は最低限にし、民生品を部品に活用するなどにより、最低1億円から製造できる。開発期間も2~3年と短い。打ち上げは日米欧より比較的安いロシアに委託し、複数の衛星を一つのロケットから射出する方法なら、50キロの衛星1基当たりの打ち上げを約2億円に抑えられる。
 こうした市場変化は大型コンピューターとパソコンがたどった道と同じだ。「パソコンは価格が安くなったことで、いろいろな人が使い方を考え、IT革命が起きた。衛星でも同じことが起ころうとしている」。
 超小型衛星開発の第一人者である中須賀(なかすか)真一東京大学教授は語る。中須賀教授は、廉価でも耐久性とほどよい性能を求める「ほどよし信頼性工学」を掲げ、衛星の徹底的な低コスト化を進める。この12年間で7基を打ち上げ、いまでは商用利用の検討も進めている。
 気象情報会社のウェザーニューズも衛星の低価格化の波に乗る。超小型衛星開発企業のアクセルスペース(東京・千代田区)と共同で、2013年11月に重さ10キロの超小型衛星を打ち上げた。その後の故障で、運用成果は上がっていないが、年内には追加の衛星を打ち上げ、同社の付加価値サービスに生かす計画だ。
 日米欧露中のほか、新興国も衛星やロケットの打ち上げに意欲を示す。インドは低コストで火星探査機打ち上げに成功したほか、東南アジア諸国で自国専用の衛星需要が強まるなど、宇宙ビジネスは新たな成長期に突入しようとしている。
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 人類のもう一つのフロンティア、深海でも変化が起きている。排他的経済水域(EEZ)の面積で世界第6位の日本の海洋資源を生かそうと、国家プロジェクトが進んでいる。
 近年、メタンハイドレートや鉱物資源が豊富な熱水鉱床など、“無資源国”日本の期待は大きい。熱水鉱床が確認された沖縄トラフや、コバルトに富んだ海底層コバルトリッチクラストには、「計り知れないポテンシャルがある」(石油天然ガス・金属鉱物資源機構〈JOGMEC〉の辻本崇史理事)と期待される。
 道は平坦(へいたん)ではないが、「海洋開発技術で日本は世界のトップグループにおり、地の利を生かさないといけない」(同)。政府も18年には海洋資源調査の産業を作ると宣言している。
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